13
王都二日目。
観光をしつつ、ちゃんと市場調査もする。
王都はいくつものメイン通りがあって、どこも人が多く賑わっている。
お店も屋台も色んな種類の品を売っていて、店員さんも垢抜けていて何となくお洒落だ。
朝市だけじゃなくて、一日中活気がある。
観光業も盛んなようだ。
食の調査もする。というか、これがメインかな。
という訳で、本当は今日もY‘sキッチンに行きたいところだけど別の大きな食堂でお昼にする。
「いらっしゃい!お好きな席にどうぞ!」
お昼ご飯に賑わう店内に入ると、威勢のいい声が飛んだ。
回転のいいお店ならこれは普通だ。
清潔さも…、この世界ではまぁ普通かな。
昨日もうひとつ上のサービスを受けたから比べちゃうけど、別段悪いという訳ではない。
「レオン、何にしましょうか?」
空いている席に座り、ふたりでメニューを見る。
「やっぱり海のお魚料理はないですね~」
「ここはだいぶ内陸だから当たり前だ」
「王都ならあるかと思って。あ、鮭のムニエルがありますね。私これにします」
「俺はこっちの肉料理にしよう」
決まったら店員さんを呼ぶ。
注文をして少し待つと料理が運ばれてきた。
味は、まぁ普通?すごく不味くはないけどすごく美味しいという訳でもない。
やっぱ昨日あれを食べちゃったからなぁ。
「不満そうだな。明日はあっちに行こうか」
レオンが笑いながら言う。
私も笑いながら返した。
「そうですね。調査もしなくちゃだから、一日おきにお願いします」
食事が終わったら、観光をしながら物件探しと管理人探し(スカウト)をする。
王都なら家も高いんだろうな~、なんて思いながら歩いていると
「わっ、すみません」
人とぶつかって反射的に謝る。子供だ。
人が多いから気をつけていたんだけど。と思う間もなく、レオンがその子の襟をつまみ上げた。 あ、スリか。
「何だよ! 離せっ!」
私にはまったくわからないんだけど、レオンにはこういった目的のある人の気配は近寄って来る時からわかるらしい。
子供だったらわざと接触させて、面接するのだ。
「黙れ」
男の子が震えあがった。
「ちょっと話をするだけよ。痛い事はなにもしないから安心して」
顔を青くさせた男の子に、安心させるように笑いかける。
男の子は少し頬を赤らめて、すぐに警戒する目つきになった。
まぁ何を思っていても話をするけどね!
人通りのじゃまにならない場所に移動する。
どこかお店に入るとか、そういう事はない。すぐに逃げられる状況でないと、こういう子たちはまったく気を許さないのだ。
私はレオンを見上げた。
レオンは男の子をジッと見てから、まぁいいだろうと視線を返す。
お、オーケーがでましたか。
君、見どころがあるようですよ?
では…
「ねぇ、君いくつ?何か仕事についてる?」
男の子は無言で私を睨んでいる。
レオンの方はけっして見ないのはご愛嬌だ。
「十五歳には見えないわね…。十二歳くらい?」
カータを思い浮かべて比べてみた。
「そんなチビじゃねーよ!」
「じゃあいくつ?」
「…十三」
変わらないじゃん!
と思ったけど口には出さず、そう、とだけ言っておく。
「十三歳じゃ、もうどこか見習いに行ってるかな?」
行ってたらスリなんてしてないよね。
たぶん。
「へっ!俺みたいのを雇うところなんてある訳ないだろ!」
やっぱりそうか。
男の子の、バカにするような顔を見て胸が痛くなった。
王都も救いの手が届いてないんだ。
「すぐには信じられないと思うけど、まぁ聞いて。私たちの家の管理をしてくれる人を探してるの。王都に家を買う予定なんだけど、私たちあちこち旅をしていてね、管理してくれる人が必要なのよ」
男の子は、何の話が始まったんだ?と怪訝な顔をした。
「君、家の管理の仕事をしてみない?住み込みで食事つき。仕事はちゃんと教えるよ。きちんと仕事をすればそれに見合ったお給金を出す。どうかな?」
「は?」
男の子は唖然とした。
「あ、君、名前は?私は蘭。こっちはレオン」
「…アーサー」
「アーサー、カッコいい名前だね!」
「自分でつけたんだ」
アーサーはちょっと誇らし気に言った。
え。 なんで? えっと…。
色々考えられるけど、どれも切なくなる。から、話しを戻そう!
「で、どうかな?」
「何言ってんだ!そんな美味い話ある訳ねぇだろ!」
うん、まぁ普通そう思うよね。
「疑うのは当然だ。よく考えてもいいが、考えているうちに別の奴に決まっても後悔するな。人生に好機などそうあるものじゃない」
レオンの低い声がした。
突き放すような言い方なのに、見捨てないと思わせる響きもある。
私の旦那さんってほんと素敵な人だよ!
「まぁすぐには決められないよね。
アーサー、私たちしばらく王都観光しながら管理人のスカウトをしてるから、気持ちが決まったら言って。でもレオンが言った通り、別の子を雇っちゃったらこの話はなかったという事で」
「え…」
私たちは唖然としているアーサーを置いて歩き出した。
管理人と言っても、まだその家がないのだ。物件探しをせねば!
まぁこれも楽しいんだけどね!
王都三日目。
今日は物件の内見と、お楽しみのY‘sキッチンにランチを食べに行く予定だ。
お風呂付きの個人宅となると王都でも高級住宅で、それでも私たちは貴族ではないから(お金持ちの)平民の高級住宅地で買う事になるようだ。
こっちの世界でも不動産屋さんというのか、仲介人のおじさんが案内してくれる事になっている。
気に入った家があればさっさと購入しよう。管理人のスカウトをするのも教育をするのも家がなくちゃ話にならないもんね。
そもそも高級な物件というのはあまりないので決めやすい。あちこち目移りしないですむというか。
そういう訳で、今日の午前中に二件、明日も二件紹介してもらえる事になっている。気に入る家が見つかったらいいな。
内見って面白い。意外と時間がかかっちゃった。
物件を見終わった私たちは仲介人さんにお礼を言って別れると、急ぎ足でY‘sキッチンに向かう。
お腹がぺこぺこだよ~。
でも近いところでご飯という気にはならなかった。昨日からすでに気持ちはY’sキッチンだし!
「いらっしゃいませ!二名様ですか?」
「はい」
「ご来店ありがとうございます!こちらにどうぞ!」
この前の女の子が元気よく向かい入れてくれた。
顔を覚えていてくれたようで、そのまま席に案内してくれる。
これこれ!! こういうのがおもてなしのサービスってやつよね!
運ばれてきたお水を飲む。
なんだかお水まで美味しく感じるよ!
「おまたせしました。どうぞごゆっくり」
さっきとは違う女の子の声。
今日はあの美形なお兄さんはいないのか。
ちょっと残念に思いつつお皿を見ると
「わっ、きれいなアクアパッツァ!美味しそう~!」
見た目もきれいに盛り付けられている、具だくさんのアクアパッツァが運ばれてきていた。
「アクアパッツァ?」
「ここではなんて言うのかな?魚と野菜を煮込んだ料理です。私の地元は海辺の町だったので、うちのご飯は魚介類が多かったんです。アクアパッツァもただの西洋煮つけみたいな感じで、こんなにお洒落ではなかったですが」
白身の魚をほぐして頬張る。
野菜から出た優しい味わいと魚の旨味が口いっぱいに広がった。
あぁ美味しいなぁ。新鮮な素材で丁寧に作らないとこういう風にはならないんだよね!
昨日食べた鮭と、切り身というのでは同じなのに何かが違う…。
まぁ海のものと川のものとじゃ違うだろうけどさ。
久しぶりに食べたアクアパッツァは、やっぱり懐かしい味がした。
「この美味しさは新鮮じゃないと出ないんです。…内陸の王都で、なんでこんなにいい海の魚があるんでしょうかね?」
「ほぉ。それは不思議だな」
「ね?」
昨日の鮭のムニエルとは違う。
やっぱり私は海の魚が好きなんだなぁ。
まぁ考える事はひとまず置いといて。せっかくの美味しい料理を堪能しましょうか!
それからはひたすら「美味しい美味しい」と言いながら食べまくったよ。
今日も完食!ここに通ったら太るな…。
午後はまた市場調査を兼ねつつスカウトに歩き回る。
アーサーはどうしたかな~、なんて思っていると
「あ、アーサー。こんにちは」
ひょっこり人波の間から現れたアーサーは、少し離れたところから仏頂面で私を見ている。
「お腹すいてない? ちょっと待っててね」
私はすぐ近くの屋台で、薄く焼いた生地で肉を挟んだクレープみたいなものをひとつと、果実水を三つ買ってアーサーの近くに行った。
王都の街頭には、ちょっと食べられるような小さな屋台があちこちにあって便利だ。
ちなみに果実水ふたつはレオンが持ってくれている。
「はい、どうぞ。 私たちは食べちゃったから飲み物だけだけど。歩き回って喉が渇いたからちょっと付き合ってよ」
ニッコリ笑って差し出すと、仏頂面に警戒の色も加わった。
「別にお金は取らないし。食べたからって何かやらせる訳でもないよ。 いらないならいいけど…」
といいつつ、その辺の子供に目を向けると、警戒しながらも焦ったように近寄ってきた。
アーサーは素早く私の手からクレープを取るとパッと距離を取って、私たちから目を離さず食べ始めた。
警戒されてるなぁ…。そんなんで食べたら消化に悪そうだよ。
私たちもゆっくり果実水を飲む。
歩き回って喉が渇いていたのは本当だ。
見上げると、秋の空は高く澄んでいる。
「レオン、秋ですね~。私は寒いのが苦手なので、冬になったら暖かい町で過ごしたいです」
「そうか」
なんて、のん気に話している。
新婚さんというより老夫婦の様な会話だよ。
「あら、食べ終わった? 食べるというより飲み込んでる勢いだったけど。大丈夫?はい、飲み物もどうぞ」
アーサーの分の果実水を差し出すと、やっぱり警戒しながら近寄ってきて、今度は奪うようにじゃなく受け取った。
ゴクゴク喉を鳴らして飲んでいるアーサーに
「アーサー、何かもらった時はありがとうっていうのよ」
私は、ありがとうとごめんなさいと挨拶は人の基本だと躾けられて育った。
実際挨拶ができると新しい環境にも入りやすいし、感謝を伝えれば円満な関係が作れると体験ずみだ。失敗したら素直に謝罪して取り返す努力をすれば信頼関係も築ける。
躾けられた事は利にかなってるなぁと親に感謝した。
という訳で、私もそこんところを基本に子供たちを教育している。
アーサーは顔を赤くして走り去ってしまった。
「レオン、何か怒らすような事がありました?」
「いや、感謝を伝えるのが恥ずかしかったんだろう」
「そういえば十三歳って言ってましたね。そういうお年頃かぁ」
とはいえうちの従業員になるかもしれない子だからね。うちの子になったなら恥ずかしいからとか許さないわよ。
アーサーはうちの子になるかな。
別の子になるのかな。
そんな事を考えながら、アーサーが見えなくなった人の流れを見送った。




