12.5
長い旅が始まった。
日中は駅馬車に揺られて、午後遅くについた町では宿に泊まる事はなく、ガキらが待つ家へと戻る。
行く先々で気に入った町があればそこに滞在して気のすむまで見て回ったり、その地方にしかない珍しいものを食ったり、なかなか楽しい日々を送っている。
行った先の町で美味いものや面白いものがあると、あちこちに育てているガキらに土産にしたりする。そんな風だからますますガキらには好かれた。
ランは子供好きなんだろう。
まぁそうでもなかったら孤児を拾って雇おうなんて考えねぇよな。
ガキらも好かれている事がわかるから、しっかり想い返す。
ついでに俺の事までビビりながらも懐いてきたりする。そうなると単純なもんで、俺もなんだかガキらが可愛く思えてくる。
なんだこりゃ?
ランにはそうした、物事をよくなる方に向かわせる何かがあるように思える。
王都に向かう途中の各領都で家を買ってガキを拾う。
孤児で育ってきたわりには、捻くれたり救えない悪だったりしないマシな奴らばかりだ。
これまたランにはそういった悪いもんが寄ってこない不思議な何かがある。
それともランを守っている、あの守護というもんの力か?
身体への危害だけじゃなく、心への危害からも守っているのか?
考えてもわからねぇ。
俺はわからないもんはみんな『ランだからな』で済ますことにしている。
そうしてやってきた王都。
さすが大陸一の都だ。
渡り歩いていた西の国々とはまるっきり違う、大国に来てから旅してきた領都よりも遥かにでかい、…これが大陸の中心か。
度肝を抜かれて、しばしランと見呆けた。
こんな都を観光かぁ。楽しみだ。と思った事に笑いが出る。
俺がそんな風に思うようになるなんてな。
楽しいとか嬉しいとか、そんな幸せというものを感じるたび、まだいちいち驚く自分がいる。
こういう事にもそのうち慣れるんだろうか。
ランと一緒にいられるという幸せにもまだ慣れてないってぇのに。
王都観光を始めた。ランはかなりはしゃいでいる。
目に見える何にでも興味津々に瞳を輝かせている俺の嫁がすこぶる可愛い。
という俺も気分が高揚しているのか。
ここはそういう都なんだろう。
昔だったらまったく考えられない。
いい歳した大人が子供のようにはしゃいでいたら、変な奴だと近づかなかっただろう。
大丈夫かとそいつの頭を疑っただろう。
それが可愛い嫁だと全く気にならない。むしろ微笑ましい。
これが惚れた弱みっていうもんだろうか?
ランと夫婦になった事やガキらとの生活で、俺の考え方や感じ方も少し変わった。
というより、別の考え方や感じ方もあるんだと知った。
世界は広い。人生は楽しい。そんな事にも気づけた。ランのおかげで。
そんな大事な嫁が泣いている!
王都につく前にも、その評判のレストランで何度か飯を食っていた。
いくつかあるそれらの本店というのが王都にあると聞いてから、ランはここに来るのを楽しみにしていた。
清潔な店内、きちんと教育をされた店員。
美味そうな匂いも漂っていて期待が高まる。
しばらくして運ばれてきた料理は見た目からしてもう美味そうだった。
運んできた兄ちゃんもいい男だ。
なぜかしばしランと目を合わせている。
別に妬いたりはしねぇ。
そいつからは妙な雰囲気は感じられなかったし、なにより
「どんなにイケメンでも、私にはレオンが一番ですからね!」
ランはわざわざ口に出してくれるからな。
言われなくても知ってるよ。
俺はにやけそうになる顔に力を入れた。
なんて空気をいっぺんに吹っ飛ばす、ランの涙!
どうしていいかわからず焦っていると、ランが途切れ途切れに言う。
どうやら揚げてある鳥料理は故郷の味に似ているらしい。
故郷を思い出して泣いているのか…。
しょうがねぇよな。親や兄弟がいるんだ。恋しいだろうよ。
しょうがないと思いつつ、俺は胸が痛くなる。
もちろんランとは離れたくねぇ。ずっと一緒にいたい。もう嫁だしな。
だけど、親や兄弟に会わせてやりてぇとも思うんだ。
そんな事を思っても、天だか神だかの思惑は俺たちにはどうする事もできねぇだろうけどさ。
それに…。
親や兄弟と会えた時は、俺とは離れているって事だ。
そりゃあ嫌だな…。
結局、会わせてやりてぇといってもランがいなくなるのは嫌なんだ。
嫌だと思っていても、これもまた天やら神やらの勝手で離されるかもしれねぇけどな。
そんな事になったら俺はすぐに死んでしまうだろうよ。
まぁそれでいいか。ランのいねぇ人生に意味はねぇ。
でもできるなら。
ランと一緒にずっと生きていきてぇな…。
いけねぇ、しっかりしろ。俺は意識を戻す。
さっきまで泣いていた嫁は、今はもう何やら考えているようだ。
きっといい事なんだろう。顔を見ればわかる。
俺はそいつを叶えてやって、ランと一緒に生きていくんだ。




