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「じゃあいってきます。夕方には戻るから、ご飯とお風呂の支度をお願いね」

「はい!いってらっしゃいませ!」


早朝、玄関前でそう告げて私たちは出発した。

旅立ちじゃないのかって? 旅立ちですよ!

朝から夕方までの駅馬車の旅ですよ!

でもその日着いた町で、お風呂もないような宿屋に泊らなくてもいいじゃない?

だって私転移できるし!


という事で、夕方はロートゥスの家に戻ってくる事にした。

翌朝にまた町に戻って駅馬車にのればいいんだからね。

気に入った町があったら泊まってもいいんだけど、いきなりレベッカたちをふたりっきりにしちゃうのも可哀想な気がして、だんだん離れる事にしたのだ。


レベッカはとても優秀だった。

料理を教える時に一緒に作っていたから、私の好みは完璧に分かっていて美味しいご飯を作ってくれるし、掃除もしっかり清潔に仕上げるというスパーガールになった。


元気になったカーターもその年頃の男の子らしくなった。

体力つくりの一環でレオンに体術なんかをさせられていたらすっかり懐いちゃったし。

やっぱり男の子は強い男に憧れるんだろうなぁ。カーターの中ではレオンはヒーローのようだ。

まぁ大陸で五人しかいないというSランカーだからあながち違ってもないか。


一緒に過ごした三週間ほどの間、家事や仕事の他に読み書きや簡単な算数、今後のためにと丁寧な言葉遣いも教えた。

レベッカたちは大きな恩を感じているようで『ご主人様』という目で私たちを見るようになったよ。

知性を宿した瞳には崇拝しているくらいの光があって、予想外の事にちょっと困惑してしまった。


まぁそんな感じになったけど、旅立ったとはいえ毎日家には帰るし、日中は出勤しているようなものだ。

ただ馬車に乗っているだけだけどね!




その旅だけど、最初の目的地といったらやっぱり王都でしょ♪

ロートゥス領から王都までは大きな領地を通って行く。それが一番最短で王都まで行けるし、比較的安全な場所を通っているんだとか。


ロートゥス領を発って最初のカメッリア領と、大国第二位の規模を誇るリーリウム領を過ぎたら、やっと王都だ。

そのカメッリアでもリーリウムでも、市場調査を兼ねて存分に観光をした。

各領都で家も買ったし、見どころのあるストリートチルドレンをスカウトして、レベッカ達と同じように教育もした。


私は出会いの運というか人の運に恵まれていると思う。

レオンとかね!

マシューさんたちもいい人だったし、レベッカたちもいい子だ。

楽天的な考えだけど、もしかしたら異世界転移特典でそういった運があるのかも、なんて思っている。

危険センサーはレオンがばっちりだしね!


管理人を雇うのならば冒険者ギルドではなくて、住む家もなく食べる事にも困っている子供にしようと思う。

レベッカたちがいい子だったからというのも大きい。

今はまだ少ない人数だけど、行く行くはもっと多くの子供たちを助けたいと思っている。

まぁまだ方法は考えついていないんだけどね。


ちょっと偉そうな言い方になっちゃうけど、行政という大きな力がしてくれないなら小さな力だけど民間でやるしかない。

やってくれないと嘆いたり文句を言っているより、さっさと行動した方が早いよね!

私にはチートなスキルがあるんだから♪


そんな風にして旅を続ける。

領地から次の領地までは、その領地の大きさもあるけど、だいたい馬車で一週間前後かかる。

着いた領都では市場調査という観光をしつつ、物件探しと管理人のスカウトをする。

それから一緒に住んで信頼関係を築きながら教育なんかをしてると、あっという間にひと月くらいたってしまう。


あいだあいだで、それまでに買った家にも顔を出して子供たちの様子を見る。

なかなか忙しくも充実した日々を送って、大国に来て四カ月もすぎた頃、ようやく王都に着いたよ。




馬車は午後もだいぶ過ぎた頃、王都の外壁に着いた。

領間を繋ぐ駅馬車は、乗る前に御者さんに身分証明を提示する義務があるので、門衛さんへの対応は一括でやってもらえる。


馬車は門の中に入って少ししたところにある駅馬車の発着所に停まった。

乗客はゾロゾロ降りて各々散って行く。


夕方になりかかる、忙しくなる時間の少し前。

薄暗くなってきた街には灯がともり始めていて、それがとても綺麗だった。



ここが王都かぁ…。



「レオン、すごく、すごい…ですね」 


語彙力!


「あぁ、途中のリーリウムも大きな都市だと思ったが、…これが大陸の中心なんだな」


レオンもちょっと圧倒されていた。




私は大学から東京に住みだして、そのまま就職したから六年住んでいた。

大きな都市というものには慣れていたと思っていたんだけど…。


東京と比べれば全然小さい筈なのに、この王都の、華やかさっていうのかな、そういうものにものすっごく心が躍った。

何ていっていいのか、何かの本に書いてあった『花の都』という感じがする。

私の勝手なイメージだけど!

フランスは行った事がないから、シャンゼリゼ通りなんかも全く知らないけど!


とまぁ、私のアホッぽい思考は置いといて、とりあえずリーリウムの家に帰ろう。


王都の宿屋さんに泊まってみたいけど!

これからいつでも泊まれるんだし、リーリウムの家の子供たちが待っている。


明日から観光を楽しむぞ~!とテンション高く、ちょっと王都に心を残しながらリーリウムに転移したのだった。




さて、王都観光初日です!

何というか、めちゃくちゃテンションが上がってます!!


「レオン、楽しいですね~!」


キャッキャとはしゃぐ私に優しい笑顔を向けるレオン。

おっと!いい歳した大人なんだから落ち着かねば!おのぼりさん丸出しだよ!


優しい笑顔といえばレオンだけど、出会った頃と少し変わったと思う。

まとう空気というか、顔のつくりは同じだけど表情というか、穏やかになったように思う。

おかげで女性や子供から避けられたり怖がられたり…は、まだあるけれど、以前ほどではなさそうだ。


職業を変えた事は大きいと思うけど、もしかして私や子供たちの存在もあるかな、なんて勝手に思っている。

でもやっぱ地かな。元々優しい人なんだしね!


とにかくまぁ、午前中はテンション高く観光をして、お昼は有名なレストランに行く。


大きな町にはどこにでもあった、Y‘sキッチンという(昔毎朝見ていた、モコ○キッチンを彷彿させるネーミングにちょっと笑った)お店の本店が王都にあると聞いていて、王都に行ったら絶対食べに行こうと思ってたのだ♪


この時代というか、この世界にもチェーン店があるなんて驚いたわ。って失礼?


このY‘sキッチン、創業は百年ほど前だそうで、ここから大国の食文化は大きく開花していったんだとか。

たしかに支店?で食べた料理はどれも美味しかった。ちょっと日本食を思い出させる懐かしい味わいとかメニューに涙ぐんだよ!


その本店に入る。

清潔な店内に…、この世界ではなかった清潔感に、懐かしい思いがした。


「いらっしゃいませ!二名様ですか?」

「はい」

「当店は日替わりランチしかありませんがよろしいですか?」

「はい、知ってます」

「ありがとうございます!こちらにどうぞ!」


笑顔と元気のいい声に先導されて中ほどの席に着く。

席に着くと、すぐにお水が運ばれてくる。これも驚いた事のひとつだ。


他のお店ではこのサービスはない。Y‘sキッチンの支店でお水が出てきた時は驚いた。

日本で当たり前にされていたサービスは当たり前ではないのだとに気づいた事だったよ。


「お待たせしました」


(わっ…)


さっきの女の子とは違う低い声に目を上げると、尋常ではない美形な男の子が料理を運んできてくれていた。

男の子といっても同じか、少し上くらいの二十代半ばと思われる。


馴染み深い黒髪に、こっちはファンタジーな赤い目をしている。文句のつけようのない超イケメン君だ。いや、イケメンというより美形という言葉の方が合うな。


私の好みはワイルド系イケメンだけど、ちゃんと、カッコいいな~と思わず見ちゃうくらいの美意識は持ち合わせている。


美形なお兄さんの綺麗な赤い目と合った。

お兄さんもジッと私を見ている…。

何となく軽く頭を下げると、お兄さんの唇が呟くように動いて



ふっ…



微笑んだ! 超美形の笑顔!! 至近距離で、もの凄い破壊力だよ!!


店内がザワリと揺れた。


「どうぞごゆっくり」


何事もなかったかのように離れていく超美形のお兄さん。心臓に悪いよ!!


店内はまだザワついている。


「ラン、何だったんだ?」

「さぁ?」


レオンは特に妬いている風には見えない。


「それにしても、もの凄い美形なお兄さんでしたね。ここのお料理と一緒に名物なんでしょか?」

「あぁ、見た目もだがそれじゃない、なかなかやりそうだ」


やりそう? 強そうって事かな?

おっと、これだけは言っておかなくては!


「どんなにイケメンでも強くても、私にはレオンが一番ですからね!」

「知っている」


レオンは甘く笑った。

すみません! 新婚さんだから許して!!




さて、ずっと食べたかった本店の料理だ。

運ばれてきたお皿を見ると


「おおぉぉ!!」


鳥の唐揚げだ!

大きなお皿の半分は山盛りの鳥唐、半分は葉野菜のサラダがたっぷり盛られている!

これはめちゃくちゃ嬉しい!!


さっそくいただきます!

鳥唐はサクリと音が立つくらいの揚げあがりと…


「お醤油だ! お醤油味だ!!」

「おしょ… ラン!どうした?!」


涙が溢れていた。

それを見たレオンが焦っている。


「ごめんなさい。故郷の味を思い出して懐かしくてつい…」


止まらない涙にレオンがオロオロしている。


「サラダも新鮮だし、かかってるドレッシングも美味しいよ~!パンも、こっちにきてから食べた事がないくらい柔らかくて美味しい!スープも優しい味わいだし…」


涙が止まらない。

ポロポロ涙を零しながら、それでも手も口も止まらなかった。


「え…。 これ、もしかして、プリン…?」


止めがきた!

すでに瀕死の状態なのに、見ただけでライフが0になりそうだよ!


いや、食べないうちは死ねない! 

私は一匙すくって口に入れた


「あぁ…。プリンだ。本物のプリンだ。美味しい…」


食べ終わって放心した。

普段だったら絶対食べきれない量なのに完食したし!


食べている最中はめちゃくちゃ興奮していたし、郷愁なのか、切ないような哀しいような気持ちでいっぱいだったんだけど、食べ終わった今は身体中にエネルギーが漲っているようだ。


何というか、食って原点なのかもしれないね。

ほら、おふくろの味とかっていうでしょ?

懐かしい味を食べると、いつでも故郷を思い出せて、またやるぞ!という気持ちになれるというか。


……あの子達に、そういう故郷みたいな場所を作ってあげられたらいいなぁ。


何となく思っていた事だったけど、それがしっかり形になった瞬間だった。





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