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11.5




家を探しながら、合い間に観光もする。

昼は広場に行ってあのガキと飯を食う。一緒に食う訳ではないが。

いつも大急ぎで帰っていくあのチビには弟がいるらしい。短い時間に一言二言話すようになって知った。


ランには相手を警戒させない雰囲気がある。それであのチビも口をきいたのだろう。

あのチビの下に弟。ランはますます哀しそうになった。


じつのところ、広場にはあのチビ以外のガキらも結構いる。

ここで昼をすませようって奴は忙しいんだろう。みんな急いて、飲み込むように食って行く。そんなだからたまには落とす奴や、時間切れで残していく奴もいる。

ガキらの狙いはそういう物だ。


大人の目があるからこの場で奪い合いのような事はないが、離れたらどうだかはわからねぇ。

あのチビが奪われないように、周りのガキらをしっかり見まわしておく。

不本意だが、この面はこんな時に役に立つ。

こんなお節介もランの影響だ。まぁ、そう思うと悪い気はしない。




家を探しだして何日かたち、なかなかよさそうな家を購入した。

今日も広場であのガキを待ちながら昼飯を食う。

毎日同じものを食うのは平気だ。空腹の辛さを思い出せば、どんなものでもごちそうに思える。


ふいにランから、ガキが仕事に就く歳を聞かれた。

俺がわかる事を答えると、ランはまた何か考えているようだった。

それからおもむろに言い出した。


「レオンに相談というか、お願いがあります」

「そうか、わかった」


惚れた女の望みくらい叶えてやる。

そのくらいの甲斐性がなくて、ここで俺を選んだ事をよかったと思わせられる筈もないだろう。


ランの望みは、あのチビとその弟に仕事を与える事だった。

もちろんそのまんまじゃ使いもんにならねぇ。

ランは一緒に住んで教え込むつもりだ。


……新婚なんだけどな。


なんていう、ちっぽけな不満はまぁ置いといて。

迷うチビに言う。俺自身も知っている、ありもしない幸運なんてものについて。


俺に訪れた幸運は言うまでもなくランだ。意味は違えど、このチビに訪れた幸運も同じくランだ。こいつがわからないようなら与えてやる価値はない。

チビはしっかり幸運を掴んだ。こいつと、こいつの弟を雇う事になった。


……新婚なんだけどな。


まぁ、それでもそれなりに新婚生活ってもんを送るつもりだ。


その後、清浄魔法とかいうものに度肝を抜かれるが、それもランらしいといっちゃランらしいか。今更だ。







◇◆◇◆◇◆




ランさんとレオンさんに出会えたのは、レオンさんが言う幸運だった。


物心ついた時にはお母ちゃんとカーターと三人暮らしだった。暮らしは貧しくて、いつもお腹がすいていた。

お父ちゃんは見た事もなかった。


少し大きくなってきて、日々の糧を得るお母ちゃんの仕事が何なのかがわかると、行く行くは自分も同じ道に進むのだろうと漠然と思っていた。

それが嫌だとか、ほかの何かになりたいとか、そんな事は考えられないくらい生き方は決まっていた。


ある日、出たままお母ちゃんが帰らなかった。

こんな場だ。人とも思われていないようなあたしたちだ。お客に気に入らない事でもあったのかもしれない。

そのままずっとお母ちゃんは戻らなかった。


カーターは、満足に食べられていなかったから身体が小さく病気がちだった。

不衛生な環境で栄養のあるものを食べる事もなく、そりゃあちゃんと育つ訳ないよなと、ランさんたちに拾われてからわかった。


カーターはたったひとりの家族だ。この子が死んでしまったら、あたしはこの世にひとりぼっちになってしまう。

自分の事より、弟が生きられるように死に物狂いに頑張った。


お腹がすいてお腹がすいて、たったひとりの家族が死んでしまうかもしれないという恐怖に、擦り切れるような生活が続いていた。




ランさんは初めから見下すような目で見ていなかった。

そりゃあ憐みみたいなもんは感じたけど、あたしたちみたいなのはそういうもんだ。それで食べ物を恵んでもらえるならいくらでも憐れんでくれ。そう思いながら毎日食べ物をもらっていた。


それだけでもありがたかったけど、ランさんは、あたしを、雇いたいと言ったんだ。


は? …言っている事が理解できなかった。


教養のないあたしには、そもそもほとんどの事はわからなかった。それをランさんは一から教育してくれた。

あたしとカーターがまっとうな人間になれたのはランさんとレオンさんのおかげだ。


あの日、レオンさんがカーターを抱き上げてくれたのを見て、これでもう弟は大丈夫だと安心した。

それから、大きくてきれいな家に連れていかれた。

そこでカーターは魔法をかけてもらった。

聞いた事はあったけど、初めて魔法というものを見て驚いた。

清潔な寝床に寝かされたカーターは、ランさんに撫でられるたびに安らかな表情になっていった。


初めては続く。


ランさんとお風呂に入った。こんなに贅沢にお湯を使った事はない。ランさんに優しく洗われるあたしは、泥だらけの野菜のようだった。何度洗われても真っ黒なお湯が流れていく。


こんな汚い孤児と一緒に入浴するなんて…。

後から思い返して、生涯の宝物になった。


不安や危険がない生活。最初は浅かった眠りも、深い眠りに変わるのにそうかからなかった。

栄養のある食事と上質な睡眠。守られている安心は、あたしたちを健康にしていった。


ランさんからやるべき仕事を教わる。きちんと働けば正当な対価をもらえると知らされる。

教えられる事はどれも楽しかった。

できなかった事ができるようになる。知らなかった事を知る。上手くできた時の達成感や、褒められる喜びを知った。


カーターも、だんだん同じ年頃の男の子くらいになってきた。瘦せ細っていた身体には肉もついて(それはあたしも同じだったけど)しっかりと生活ができるようになった。

そうしてからカーターにも仕事が割り振られた。カーターも自分で稼げる事を喜んだ。


生活するすべての事を教えられ、あたしたちが上手くできるようになった頃、ランさんたちは旅立っていった。

初めからそういう話だったし、だからあたしたちも一生懸命仕事を覚えたんだ。


旅立ったとはいっても、おふたりは徐々に離れている時間をのばしてくれた。

そういう心遣いも嬉しくて、崇拝するのは当たり前だよね?


おふたりに拾われて、あたしと弟はちゃんとした人になれたんだから。





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