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10.5




結婚式が終わると、ロートゥス観光をする事になった。

ランが疲れていないか、体調は悪くないか、しっかり確認する。


高くはないといっても熱を出して寝込んでいたのはまだたった二日前だ。そりゃあ用心もする。

今は結婚式をしたばかりで興奮していて元気に見えるが。 


…まぁ無理をさせなければ少しくらいいいだろう。


そうして通りかかった広場では、屋台が何軒か並んでいた。

忙しい仕事の合間に手軽に昼飯を食える場のようだ。

昼は少し過ぎたくらいだからまだまだ活気があって、食欲をそそる匂いが辺りに立ち込めている。

ランも旨そうな匂いに、串焼きの屋台に引き寄せられていった。


威勢のいい親父にちゃっかり買わされている…。


まぁいいか。ランが楽しそうだし。

ここで昼飯にしようというランに反対する理由もない。

とりあえず飲み物を買って、空いていたベンチに座る。

さて、ロートゥスの屋台飯はどんなもんだ?

実は少し楽しみだったりした。


傭兵だった頃は戦場の野営飯ばかりだった。串焼きなんざ一生分食った。

戦場に出てない時や冒険者に鞍替えしてからは食堂での飯になったが、飽きるほど食った串焼き肉なんかを懐かしく思う日が来るとは思わなかった。


一口頬張る。まぁまぁかな。魔獣なんかの肉とは違って食いやすい。

俺はあっという間に食い終わった。これなら十本はいける。


ランを見ると、まだ最初の一欠けら目のようだ。

後は何を買おうかと周りを見渡して、ランに目を戻すとまだモグモグとやっている。

いったいどんだけ嚙もうってんだ?


「嚙み切れなくて、飲み込めません」


俺はベンチから転げ落ちそうになった。


何だって?!


涙目になっているランを唖然と見る。

この程度の肉が噛み切れない…。

理解が追い付かず、頭の中は『ひ弱』の文字が散乱した。

いや、ランのひ弱さはいつも俺の経験の遥か上を行く。


俺は大事な嫁のために、柔らかそうなものを買いに立った。




ランが食べられそうなものを買い、戻ろうとすると、遠目にランがガキと接しているのが見えた。

無害そうなので様子をうかがう。

どうやらランは、持っている串焼きをやろうとしているようだった。


ランの身の上は聞いている。

自分はお嬢様じゃないと言っていたが、聞いた話で考えるに十分いいとこのお嬢さんだ。

そんなランが、ああしたガキと接した事があったとは思えない。優しいランの事だ、きっと心を痛めるだろう。

俺は気配を消して近づいた。


串焼きを持って走り去るガキを見てから声をかける。


「あぁいう子、いるんですね…。私の生まれ育った国にはいなかったので、ちょっと…」


ランが哀しそうに呟く。


「大きな町になればなるほど増えるだろうな。西は孤児が多いから施設にあぶれた子供なんざ大勢いる。別に珍しくもない」


ランを慰めたくても、俺の言った事でさらに哀しい顔をさせてしまった。


なんて言ったらいいんだー!


人を慰めようなんて思った事もない。

こういう時、俺はどうしていいかまったくわからなかった。


結局…。


「ほらラン、これなら食べられるだろう?」


そんな事しか言えなかった。


それでも礼を言って食べ始めたランは何か考えているようで、それがランのためになる事ならいいと思った。




次の日も観光をする。


ランのスキルというもので、驚く事に転移というのもがある。

俺は西にしかいなかったから知らないだけで、もしかしたら大国には転移魔法は容易にあるのかもしれないが、それにしてもたいしたもんだと思う。


転移魔法自体も要請すれば高額なものだろうし、魔石にしても高額だと思われる。

ランはそれを簡単にやってみせる。

これはバレるわけにはいかねぇ。あっという間に囚われて使われてしまうだろう。


俺たちは用心のため、転移用に家を買う事にした。

色々な物件を見ながら、ランは楽しそうに観光をしている。

ランが楽しそうなら俺も楽しい。

というか、ランと出会うまでは楽しいという感情はわからなかった。


それまでは、腹が減っている記憶と、死に物狂いに戦ってきた記憶、冒険者になってからは少しは余裕もできたが、特に楽しみがある生活ではなかった。


惚れた女が想いを返してくれて、楽しそうに隣を歩いている。

そんな事が幸せなんだと、これもランが教えてくれた事だ。


そんなランが、昨日の広場を通りかかった時に哀しそうな顔になった。


「レオン…。ここでお昼にしませんか?」


そう言われたら、そうしようとしか言えないだろう?

何か買ってくると歩き出した俺に、ランは律義に礼を言う。


初めはいちいち礼を言ってくるランを不思議に思っていたが、感謝をされるというのは存外気持ちのいいもんだ。

チョロいと思われるだろうが、もっとしてやりたくなる。まぁラン限定だけどな。

礼を言われた時は嬉しい。ランのためになったとわかるから。


ランがいちいち礼を言うもんだから、俺も自然と口にするようになった。

口にするようになって、礼を言う時は助かったとか嬉しいとか、そういう時なんだとわかった。

そういう事だとは知ってはいたが、ランとのやり取りで初めて実感した。




食いだして、しばらくすると昨日と同じちっぽけな気配がする。

あれならランに危害はないだろう。


「もう少し買ってくる」


そう言って立つ。俺がいては、きっとあれは姿を見せない。

買ってくるとは言っても、少し離れたところで様子を見る。

いつでもランを守れるところで気配を消す。


ランとガキが何やらやり取りをしている。

そうしないうちに、昨日と同じくガキがランから串焼きを奪って走り去っていった。


俺はランの元の戻った。

何も持っていない俺を見て、察したランが礼を言う。


感謝とともに愛情までみてとれる表情に、妙に照れてしまう。

そんなだからぶっきらぼうな物言いになってしまった。


それでもランは気にせず(ここがランのすごいところだ)ニコニコと嬉しそうにしていた。


可愛い嫁との飯は美味い。

というか、一緒に食う相手によって味まで変わるもんだと、これもランに教えられた。

つまるところ幸せという事なんだろう。





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