10
結婚式が終わると、借りていた物を返しにお店に戻る。私はベールと靴。
ブーケとワンピースは買っていたからね。
レオンは一式レンタルだって。
職業柄あぁいった服装はしないし、靴も履かない。
この後観光をする予定だから、ふたりとも着てきた服に戻ったよ。
店員さんにお礼を言ってお店を出ると、ブーケを置きにいったん宿に戻る。
宿の人に頼んで花器を貸してもらって部屋に飾れば、なんだかこれだけでパッと明るくなった。
新婚さんらしい部屋に満足する♪
さぁ、それではロートゥス観光をしましょうか!
ロートゥスについて二日目から寝込んじゃっていたからね、観光は初日にしたきりだったのよ。
時間はお昼を少し過ぎたくらいかな?
通りかかった広場の屋台から美味しそうな匂いが漂っている。
「レオン、美味しそうな匂いがしますね~」
出どころはどこかな? スンスン鼻を鳴らしながら見渡す。
「あぁ、あれか?」
レオンは数ある屋台の中から、串焼きのお店を指差した。
近寄ってみると、ビンゴ♪ 食欲をそそる、い~い匂い。
「らっしゃい!いくついるかぃ?」
「二本ください!」
せっせと焼いているおじさんに威勢よく声をかけられて、つい答えてしまった。
レオンがお金を払って受け取ってくれる。
「美味しそうなものがたくさんありますね!お昼ご飯はここで色んな物を食べましょう♪」
「あぁ、ランがそうしたいならそうしよう」
果実水も買って、二人で広場のベンチに腰掛ける。
海外旅行での食べ歩きみたいで何だか楽しい。
「では、いただきま~す!」
一口大に切って刺してあるお肉は私の口にはやや大きくて、私は半分に噛み千切ろうとしたんだけど…。
このお肉、弾力がすごいというか、まぁぶっちゃけ硬かった。噛み切れないよ!
しょうがない、ちょっとムリして一切れを口に入れた。
入れたら入れたで噛みきれ切れない…。
モグモグモグモグ……。
「ラン、いつまで噛んでるんだ?」
いつまでも咀嚼している私に、とっくに食べ終わったレオンが呆れたように言った。
「噛み切れなくて、飲みこめません」
私は口を押えながら涙目で訴える。
ちっとも小さくならない肉の塊は飲み込めそうになかった
レオンが唖然とした目で見るけれど、これはしょうがないと思うの。
柔らかいものが美味しいとされている日本の食事情では、現代人の顎はやわなんだと身をもって知ったよ。
その証拠に、レオンは元より、やっぱりその辺でお昼にしているような人たちも普通に食べている。
足腰以外、顎まで負けてる日本人の脆弱さ…。
これ以上まだあるんだろか? 私は遠い目をしてしまった。
ちょっと待ってろと、レオンは他の食べ物を買いに立った。
私は口の中のものを出す事もできず、一欠けらなくなった串を持ったままどうしようかと悩んでいる。
ふと視線を感じてそちらを見ると、少し離れた植え込みの陰から子供が私を見ていた。
いや、私というか、串を?
くすんだ赤毛の、十歳くらいに見える、たぶん女の子。
全体的に薄汚れていて、日本にはいないけど世界のニュースなんかで見た事のある、ストリートチルドレン…というものではないだろうか?
串を持った手を動かす。
するとその子の目と一緒に?顔まで串に合わせて動いている。
私にはこれは食べられないし…
「食べる?」
その子に向かって串を差し出すと、警戒するように私を見ながら少しずつ近寄ってきて、サッと肉の部分を掴んで素早く走り去って行った。
びっくりした!
そりゃあ串の持ち手は私が持っていたけどさ!
食べる部分をあんな汚れた手で掴んじゃうなんて!
日本の常識が世界の常識ではないと何かで読んだ事はあったけど、それにしても初めての衝撃に呆然としてしまった。
「ラン…」
どこから見ていたんだろう?
心配そうな声に、レオンを見上げる。
「あぁいう子、いるんですね…。私の生まれ育った国にはいなかったので、ちょっと…」
何て言っていいかわからなくなって言葉が続かない。
「大きな町になればなるほど多くいるだろうな。西は孤児が多いから施設にあぶれた子供なんざ大勢いる。別に珍しくもない」
「そうですか…」
何というか…。
あんなに小さな子がひとりで生きている事に衝撃を受けた。
あの子、ずいぶん痩せていたな。
日本なら親に保護され愛情を受けて不自由なく暮らしているよ。
私は哀しくなった。
「ほらラン、これなら食べられるだろう?」
気を取り直すように、レオンが美味しそうなサンドイッチと、カットしてある瑞々しい果物を渡してくれた。
「ありがとうございます」
今度はどっちも柔らかくて食べられた。(ごめんなさい!飲み込めない物は出させてもらった!)
この世界で生きていくなら、もっと逞しくならなくちゃならないね。
私は色々鍛えようと決意した。
……徐々にね。
次の日も観光する。
気分は新婚旅行だからね♪
もう少し楽しんだら仕事も始めたいと思うけど、それも何をしようか考え中だ。
なんせ私のスキルは、空想できるたいていの事が実現できる。と思う。
まぁ逆に、範囲が広がりすぎて絞りこめないのが悩みどころだ。
そうそう、そのスキルだけど。
私が行ったところなら転移できる、というものがある。
それなので行く先々で気に入った町や、大きな領なんかには家を買おうとレオンと話している。
転移するのはいいけど、町中に急に現れたら周りの人がびっくりしちゃうし、転移魔法が使えると誤解されてめんどくさい事になったら困る。
自分の家があれば、そこに転移すればいいからね♪
という訳で、観光をしながら物件探しもしている。
お金ならたくさんあるし!西の国のお貴族相手に荒稼ぎしたのと(言い方!)マシューさんたち農家さんからもらった治癒費だ。
それとレオンも使い切れない程のお金持ちだそうで、家を買うのに金銭面では困らない。
まずは大国、その後は大陸中を好きに行き来できたら…、ファンタジー冥利に尽きるというものでしょ♪
とまぁ、新婚さんらしく、キャッキャと(キャッキャしてるのは私だけだけど!)歩き回っていると、昨日の広場を通りかかった。
時間は同じお昼過ぎくらいだった。
私は昨日の事を思い出して、浮ついた気持ちが沈んでしまった。
「レオン…。ここでお昼にしませんか?」
レオンはジッと私を見て、いつものため息をついた。
「しょうがない、ランはそういうヤツだからな…。ここで待っていろ、食べられそうなものを買ってくる」
「ありがとうございます!」
昨日座ったベンチは別の人が座っていたので、私はふたつ隣のベンチに腰を下ろしてレオンを待つ。
ついでに、というか、こっちがメインな感じだけど、周りをキョロキョロ見渡した。
昨日のあの子、いるかな…。
ただすれ違った程度の、人生に何の関わりもないくらいの子なのに、何故か妙に心に残ってしまった。
何であんなにあの子が気になったのか。
後になって、この後の私の人生の大きなきっかけになる子だったんだと思ったのは、もう少し先の話。
レオンが買って来てくれたサンドイッチと果物と果実水、それとレオン用の串焼きなんかの肉料理たくさんを、ふたりで食べる。
モグモグ。 キョロキョロ。 モグモグ。 キョロキョロ。
「もう少し買ってくる」
ふいにレオンが立ち上がった。
まだ食べられるの?他に食べたいものがあったのかな?
歩いていくレオンを目で追っていると、別の方から視線を感じた。
そちらを見ると、昨日の女の子が昨日と同じく植え込みの陰から私を見ている。
いや、食べ物を。
私は串をひとつ手に持つと、やっぱり昨日と同じく差し出した。
「食べる?」
女の子は私を警戒するようにじっと見てから、サッと手を出した。
昨日と違って、私もサッと手を上げる。
女の子はビックリ顔で、パッと距離をとった。
私は真っ直ぐ女の子を見て言う。
「ありがとう」
女の子が警戒しながら怪訝な顔をする。
「人に何かをもらったり、してもらった時は、ありがとうって言うのよ?」
私はまた串を差し出した。
女の子は警戒しながらも少しずつ近づいてきて、おずおずと小さい声で言った。
「あり、がとう…」
「はい」
素直な子だな。
私は笑顔になって串を手渡した。
「ありがとう」
女の子はもう一度そう言うと、やっぱり串を掴んで走り去って行った。
「また肉を掴んで…」
女の子が走り去った先を見ながら呟くと、レオンが戻ってきた。
手には何も持っていない。
「レオン…。ありがとうございます」
私は笑顔でお礼を言った。
大きくて厳ついレオンがいたらあの子は近寄らなかっただろう。
レオンはわざと席を外してくれたんだ。
「さっさと食うぞ」
「はい!」
優しい旦那さまで私は幸せ者だよ!




