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待っていてくださった方、お待たせいたしました。

作者遅筆にて時間がかかりましたが、完結まで毎日更新いたします。

少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです。







レオンのプロポーズを受けて、恋人として一夜を過ごした私は、次の日の朝、見事に発熱していた。


こっちの世界に来てからの日々の疲労のせいかと思われる。

安心できる国について、私の事情も話し、その上でレオンからプロポーズをされて気が緩んだのだろう。


いやぁ、戦争なんて教科書でしか知らない平成生まれの身には、戦が身近にある暮らしは過酷だったよ。


高熱という程ではなかったけど、微熱と全身の倦怠感で起き上がれない。


レオンは、そんなになる?という程オロオロしていた。


大丈夫だよと元気アピールをしたいけどちょっとがんばれなくて、レオンはますます自分の方が具合悪そうになっていった。


「ラン、何なら食べられるんだ?食べられそうなものを言ってみろ。何でも買って来てやる」


そういうレオンも、たぶん朝から何も食べていない。


「おかゆ…。 おかゆが食べたい…」

「オカユ? 何だそれは?」


病気の時はいつもお母さんがおかゆを作ってくれた。

あれが食べたい…。


「お米を柔らかく炊いたものです」

「オコメ? 炊く? 野菜か?」


あぁ、レオンは知らないんだね。

異世界あるあるで、お米がないのかもしれない。


おかゆは食べられないんだ。

もう一生お米が食べられないんだ…。


そう思ったら、気が弱くなっていた私はメソメソ泣き出してしまった。

レオンは心底困った顔をして、私が眠ってしまうまでずっと髪や背中をなで続けてくれた。




熱のせいでウトウトしていた私は、ほんわりと温かな匂いで目が覚めた。


「ラン、オカユとはこんなもので合っているか?」


目の前にはホカホカと湯気の立ったお皿があった。

中にはおかゆが入っている!


「おかゆだ!」

「まだ熱いから気をつけて食べろ」

「うん! いただきます!」


そのおかゆは外国米だろうと思われるものだったけど、ひと月ぶりくらいに食べたお米なのでとても美味しかった。


ふーふー吹きながらゆっくり味わって一皿全部食べ終わると、何だか元気になった気がする。


「ごちそうさまでした。 美味しかったです!お米あったんですね?」

「あぁ。宿の者に『コメ』という物を聞いたら売っていると言うので市場で買ってきた。大陸の西にはない食べ物だから俺は知らなかったが、東にはコメを食べるところもあるらしい。オカユは宿の者に作ってもらった」


レオンが嬉しそうに言った。

あぁ、すみません。ご心配をおかけしました!


「レオン、ありがとうございました。おかげで元気が出ました」

「あぁ。目に力も戻ってきたし、少し安心した」


笑顔になってお礼を言うと、レオンもホッとしたように言った。


疲労と、後から考えたら、あれはきっとホームシックだったんだろうなぁ。

おかゆを食べて少しは解消されたのか、一日しっかり寝たからか、翌日にはすっかり元気になったよ!


だけど元気になったというのに、レオンはまだ安静にしていろと言う。

しかたない。心配をかけたのだからと、もう一日宿の部屋で過ごした。


三日目。もうすっかり大丈夫だというのに、レオンはまだ心配している。


う~ん…。


しかたない。

私はたぶんこれでいける!と思われる事を言ってみた。


「レオン、結婚の届け出がしたいです。早くレオンのお嫁さんになりたいです…」


レオンから先にちゃんとプロポーズはされているけど、なんだかこれも逆プロポーズみたいだなと、ちょっと照れる。

レオンもうっすら顔を赤らめた。


「あぁ、まぁ。…そういう事なら、教会に行くか」


作戦成功!


私ったら意外と策士だったのね…。

策士ってちょっとイメージ悪いけど!

まぁ悪意はないから許してもらおう。




という事で、教会に行く。

家族も友人も会社関係の人もいないから結婚式はしないけど、憧れていたウエディングドレスは着てみたい…。

結婚式とかウエディングドレスとか、この世界にあるのかわからないけど。


教会までの道すがら、レオンにお願いして洋服屋さんに寄ってもらう。

ドレスはムリでも、せめて白いワンピースくらい着たい。


気に入るワンピースを探して何軒かお店に入ると、三軒目でこれはいい!と思えるお店に当たった。

試着をして納得。そのまま店員さんに声をかける。


「あの~、これ、このまま着ていきたいんですけどいいですか?」

「もちろんどうぞ。 もしかして、これから結婚式ですか?」

「え!結婚式あるんですか?!(って失礼か)」

「はい。この大陸で初めての結婚式は、ここロートゥスだったんですよ」


店員さんはちょっと誇らしげに言った。




結婚式の歴史は結構古くて、初めての挙式の記録は百年ほど前になるという。

当時はとても珍しかったので、吟遊詩人が大陸中を語り歩いたくらいだそうだ。


今では庶民には白いワンピースが主流になったけど、貴族やお金持ちのご令嬢は今でも豪華なドレスを着てるんだって。

ほぉほぉ。


そんな結婚式、ロートゥスが発生なのでブライダル産業は盛んらしく


「ではそのワンピースに合わせて、ベールとブーケもご用意しましょうね。お化粧室はこちらですよ」


と、式場のようになってきた。


ちなみにベールはレンタル。

ブーケは造花ならレンタル。生花なら買い取りだって。

そりゃ生花でしょ!持って帰って部屋に飾ればいいし♪


私の花嫁姿はこれでいいとして、レオン…どうしよう?

私としてはせっかくだからレオンにも花婿さんの支度をしてもらいたいけど…、レオンそういうの好まなそうだしなぁ。


なんて思っていたら、妙に張り切った店員さんが


「さあさあ、新郎様はこちらで支度が出来ますよ。どうぞ!」

「いや、俺は…」

「何をおっしゃってるんです!こんなに綺麗な花嫁さんとお式を挙げるのにそのままの格好ですか?花嫁さんがお気の毒ですよ!」


商魂たくましく男性用のコーナーに引っ張って行ってしまった。


あの店員さん、私たちがお店に入ってきた時はレオンを見て一瞬顔をひきつらせていたのにね!

普段はちょっとビビられるレオンにグイグイせまって新郎の装いをさせようなんてすごい!


まぁ、そちらはお任せして。

私はお化粧室でメイクをする。元の世界と同じようにはいかなかったけど、すっぴんよりはだいぶ綺麗になった。


髪は、別の店員さんがやってきて夜会巻きのように結い上げて、ふんわりとベールをかぶせてくれた。


Aラインのシンプルな白いワンピースに合わせて白いローヒールを履く。

これはレンタル。ふだんはこんな靴は履かないからね。


ブーケは淡いアプリコットの中輪の薔薇。

周りには白いレースフラワーが揺れている。


何ていうか…。

思いがけず、ほぼ理想の装いになってテンションマックスだ!


元の世界では漠然と思い描いてはいたけれど、まさかこっちの世界でこんな風になれるなんて思いもしなかったよ!

というより結婚するなんて思わなかった!!


レオンじゃなかったら、こんな気持ちにはならなかったんだろうなぁ…。


なんて幸せに浸りつつ化粧室を出れば、先に支度が終わったレオンが待っていた。


「ラン…」


気づいたレオンは私の名前を呟いたかと思ったら、そのまま固まってしまった。


私も私で息が止まった。


レオンがカッコよすぎる~~~!!!


大柄でがっしりした体格なのに、黒のフロックコートを着たレオンはちょっと着痩せするのか、いつもよりスッキリとして見える。


視線だけで相手を射殺せそうな精悍さはご健在だけど、熱のこもった瞳は真っ直ぐに愛情を伝えてくれて、私は嬉しくなって自然に微笑んでしまった。


少しだけ見つめ合って。


まぁそれとは別に、こういう時は綺麗だよとか言ってほしいところなんだけどな、とちょっと思ってみたり。

これでも一応、一生一度の花嫁衣装姿なんだけど!


レオンからお褒めの言葉を待っていると


「新郎様ったら!花嫁様があんまりお綺麗なので言葉もでないんですね!」


「あぁ、ラン…。すごく綺麗だ」


店員さんの声で呪縛が解けたレオンは、やっと褒めてくれた。


私は満足して、笑顔でお礼を言った。


「レオンもとっても素敵です!めちゃくちゃカッコいい!!」


レオンはまた言葉をなくしてしまった。




支度が整うと、一番近くの教会を教えてもらって送り出される。


いきなりのお式でも対応してくれるらしい。簡易になるらしいけどね。

簡易でもいいのよ。ふたりきりだし。


教えられた教会に向かう間、行きかう人々からおめでとうの声をかけられる。

見ず知らずの私たちに、みなさん心からお祝いを言ってくれるなんて!

私は嬉しくなって笑顔でお礼を返した。


こういうのが苦手そうなレオンを見上げると、やっぱり眉間にしわが寄っている。

強面が割増しになっていて、お祝いをくれる皆さんも、先にレオンに向けていた視線がすぐに私にスライドしてくるし!

私は嬉しいやら可笑しいやら、笑いながらレオンに言った。


「レオン、こんなに祝福されるなんて、とっても嬉しいですね!」

「…あぁ」


少し赤くなったレオンは、ますます眉間のしわを深くした。




幸せに歩く事数分で、私たちは教会に着いた。

入り口にいる人に、何て声をかけようかと思っていると


「おめでとうございます。結婚式ですね?中にどうぞ」


手慣れたように言われた。


通された礼拝堂で待っていると、牧師さん(でいいのかな?)がやってきて名前を聞かれ、聞き覚えのある言葉で問われる。


「レオン、ランを生涯愛すると誓いますか」

「誓う!」


牧師さんはちょっと目を見開いた。

レオンたら!


「ラン、レオンを生涯愛すると誓いますか」

「はい。誓います」


隣にいるレオンが大きく身体を震わせた。

どうしたんだろう?


ずっとずっと何年も後から聞いた事だけど、あの時レオンはびっくりするほど感動したんだって!

まったくもぉ!何年たっても愛しい人だなぁ!


愛を誓うと、結婚証明書にサインをして終わり。

身内も友達もいない、たったふたりだけの本当に簡単なお式だったけど、私は何だか身が引き締まった。

こういう式って、けじめになるんだと思う。

入学式や卒業式みたいに、ここから前とここから先っていうかね。


未来は分からない。

だけど、私はこの世界でレオンと生きていくんだ。





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