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お宿について起こされると、ウトウトと半分眠りながらご飯を食べて(朝ご飯以来飲まず食わずだったもので)お風呂も入らずに寝てしまった。
部屋まで送ってくれたレオンが
「俺が出たらちゃんと結界をはるんだぞ」
と言って出て行ってから、言われた通り結界をはったのは我ながらえらいと思う。
やっぱそこは弱者の本能なのかもしれない。
そんな感じでレオンに大変お世話になって、ぐっすり眠った翌朝はすっかり元気になっていた。
レオンと一緒に朝ご飯を食べる。
昨日二食だったから、その分も食べるような勢いだ。
朝ご飯が食べ終わるとギルドに出勤する。
道々、昨日なかったお説教が落ちてくる。
「ランは甘すぎる。そんなに危機意識がなくちゃ、ここでは生きていけない」
はい。すみません。おっしゃる通りです。
私は大人しく聞いている。
「自分の身を守るなら、これからは見捨てる事だ」
えっ!
私を見捨てず、こんなにお世話してくれているレオンの言葉とは思えない。
「レオンは私にこんなによくしてくれてるじゃないですか」
思わず言うと
「俺は自分の身は自分で守れる。危険かどうかの判断もつく。ランはどうだ?」
正論で来られてしまった。
言われた事はその通りだと納得する。
納得できるけど…。
よく考えなくても、言う通りにはできそうにないよ。
「レオンが私を心配してそう言ってくれてるのはちゃんとわかります。とてもありがたいとも思っています。でも、見捨てる事はできそうにありません」
レオンは眉間にしわを寄せた。
うぅぅ、すまないねぇ。だってさ
「私の生まれた国では、困った時はお互い様っていう助け合いの精神があるんです。
困った人が目の前にいて、助ける事が出来るなら手を差し伸べるのは当たり前の事なんです」
「助け合いじゃなかったじゃないか。昨日ランは一方的に助けていた。疲れ切ってしまう程」
レオンは納得していないように言う。
まぁね、確かに昨日は自分の力量もわからないまま次々癒してしまったね。
あれは反省すべき点だ。
「自分の力量もわからないままやってしまった失敗ですね、ご心配ご迷惑をおかけしました。すみません」
「別に迷惑はしてない」
レオンはそう言ってくれるけど、出会ってからずっとお世話になっている。
お世話になってる人に反論するのは心苦しいけど。でもさ
「私の生まれた国には、情けは人のためならずっていう言葉もあるんです。人にしてあげた事は廻りまわって自分に返ってくるっていう。
そんな下心があってやった訳ではないですが、そういう徳みたいなものって結局自分のためになると思いますし、長い目で見れば一方的じゃないと思うんですよ」
へラッと笑って言えば、レオンは呆れたような諦めたようなため息をついた。
「それに、何かあったらレオンが助けてくれるって、ずうずうしいけど頼りにしちゃってるんです」
もうひとつ、ヘラリと笑って言えば
「そういうところもだ!出会って間もない男をそう簡単に信用するな。信頼させておいて騙したらどうするんだ」
レオンがちょっと怒って言った。
何を怒らせちゃったんだろう?
まぁまぁ、レオンさん落ち着きなさいよ。
「だって好きな人ですもん、そりゃあ信頼するでしょ。それに命の恩人ですしね。あの時レオンに助けてもらわなかったら、そもそも私は死んじゃってましたし。
そう考えたら生殺与奪はレオンにありますよ。騙されたとしても恨みません。哀しむけど」
あ。好きって言っちゃった。
告白は借金を返してからって決めてたのに、つい熱くなっちゃったよ!
恐る恐る見ると、レオンは私を凝視しながら固まっていた。
「レオン?」
レオンは止めていたらしい息を吐くと、うっすら赤くなった。
それから珍しい事にアタフタしながら捲し立てた。
「好、好、いや!生殺与奪とか!奪わないし!騙さないし! というか、……なんて?」
こうなったらしょうがない。
ここはいったんしっかり気持ちを伝えよう。
「レオンが好きです。ほとんど一目惚れでした。借金のある、お世話になっている身で言う事ではないとわかっていますので、すみません、借金が返し終わったら仕切り直しさせてください」
「は?」
私たちは朝ご飯を食べ終わってギルドに向かっている最中だった。朝早くとはいえ、すでに町は動き出している。往来の人は結構いて、立ち止まったまま固まっているでかい男はかなり邪魔になっていた。
私はレオンの手を引くと壁際に身を寄せる。レオンはされるがままついてきた。
耳まで赤いレオン。
この反応は悪くないよね?いけるよね?いかないけど!
そこはきっちり対等になってからお付き合い申し込みたい!!なのに
「俺も、ランが好きだ」
ポツリと、零れるような言葉。
「え?!」
えええぇぇぇ!!!
いや!悪くない反応とは思ったけど!
さりげない好意は感じていたけど!
何なら最初から親切だとは思ってたけど!!
でも希望的思い込みだと、期待しないようにしてたんだよね!!
なのにここにきてそれって!
好きって、私と同じ気持ちって事でいいんでしょうかね?!
「レオン?」
期待を込めて見上げると、レオンはバッと顔をそらした。
ショックはないよ!だって顔が真っ赤だもんね!!
「嬉しい…。 レオン大好き」
あまりに嬉しくて、バカップルな発言をしてしまった。
ますます、これ以上赤くなれないという程赤くなるレオン。
ほんとピュアだな!この国のピュアさはどう対応していいかわからないよ!!
とりあえず…。
「行きましょうか」
手をつないで歩きだす。
まだちょっと恥ずかしいから、恋人つなぎはしないでシンプルに手をつなぐ。
レオンはやっぱりされるがまま、黙ってついてきた。
ギルドに着くと、入り口の近くに荷馬車が止まっていて、マシューさんがいた。
「ランちゃんおはよう」
「マシューさんおはようございます。どうしたんですか?」
「あぁ。昨日その兄さん言われたんでみんなで考えてな、昨日の報酬を持って来たんじゃよ。みんな全財産の半分じゃけど、これで収めてもらえるかの。ワシらもまだあと何年かは死なないと思うから、その分を残してもらえたら助かるんだが」
えええぇぇぇ!!
朝から早くも二度目の驚きだよ!!
「そんな!全財産の半分だなんて!そんなにいただくわけにはいきませんよ!」
驚愕してそう言うと
「果樹園や農園を売ったらこれから先生きていけないからの。これがワシらに支払える精一杯なんじゃよ。だけど仕事ができる身体はなくてはならないものだからの。ランちゃんに治してもらった身体は、これからも生きていけるありがたい助けだったんじゃよ」
晴れ晴れと嬉しそうに言う。
そんな風に言われたら、どうしていいかわからないよ!
「そういう事ならもらっておこう」
「兄さんに渡すわけじゃないわ」
「わかっている。それはランのギルドの口座に入れておこう」
ええぇぇ!!
そんなにあっさりもらっちゃっていいの!?全財産の半分だよ!!
どうしていいかわからないまま、アワアワしていると
「死んで持っていけないからの。ランちゃんに、正当な金額ではないものの、精一杯支払えれば憂いなく死ねるってもんよ」
カラカラ笑うマシューさんを見ていたら、もらう事が正しいと思えてきた。
「ありがとうございます。大事に使います」
私は深々と頭を下げた。
「まだ要件は終わっていないんじゃよ。この流れで申し訳ないんじゃが、そこにいるギルの頼みをきちゃくれまいか」
促された先、ギルさん?を見る。
「どうかうちのばあさんを助けてもらえないじゃろか。頼みます」
そう言って、荷台に毛布でグルグル巻きになって横になっているおばあさんを見る。
おばあさんは紹介?されたにもかかわらずピクリとも動かなかった。
「どうされたんですか!」
「今朝発作が起きて……。 死んでしまうとしても、ワシの心に準備がほしいんじゃよ」
ギルさんが哀しそうに言った。
いやいやいや!!!
私の元に連れてきて、その発言はないでしょう!
おばあさんに死なれでもしたら何年も引きずるよ!!
「レオン…」
出来る事はするよ!
でも…。心配して忠告してくれたレオンを見る。
「ランの好きにしたらいい」
本日二度目の、呆れたような諦めたようなため息をつかれる。
私はそれを了承ととった。レオンが了承するもしないもないんだけどね。
だけど心配してくれてる人の思いは大切にしたい。それが好きな人ならば尚更に。
私は安心して荷台のおばあさんに近づく。
一番赤くなっているところは心臓だ。心臓発作だったんだろうか?
私が赤くなっている胸に手を当てると淡いピンクに光った。少しすると光は消える。
みんなが見ていると、おばあさんは目を開けた。
「お! おぉぉ!! ばあさん!調子はどうだ?」
「あら、おじいさん。私助かったんですね……」
ご夫婦は明るい声で会話している。
よかった。おばあさんは助かった。ご高齢だからこの先の保証はできないけど。
おばあさんが回復したから、ご夫婦とマシューさんは帰って行った。何度も何度も頭を下げながら。御者をしてるマシューさんまで何度も振り返る。
危ないから見送りはほどほどにして、さっさとギルドの中に入ったくらいだったよ!
その日。
人の往来が多い大通りでスキルを使ってしまった事を、仕事を終えてギルドに帰ってきて反省する事になる。
もっと脇道に移動してからとか、やりようがあったよね。
夕方仕事を終えて戻ってくると、ギルドの前にずいぶん立派な馬車が止まっていた。
今朝の荷馬車を思い出す。
嫌な予感……。嫌な予感って当たるんだよね!
依頼達成報告のためにギルドに入ろうとすると、馬車の横にいた立派な紳士が声をかけてきた。
あぁ、やっぱりイヤな予感。
「治癒魔法使い様ですね」
断定してる問いかけに、何て答えていいか考えていると
「あんたは?」
黙った私の代わりにレオンが問いかけで返事した。
「申し遅れました。私は○○伯爵家の執事をいたしております××と申します。あなた様のお噂を聞きまして、ぜひお助けいただければとお願いにまいったしだいでございます」
何々伯爵とか、執事の何々さんとか憶えようと思わなかったから忘れた。
そんな事より、やっぱりかぁ。
困った事が起きてしまった。今朝のアレだな。
これで目の前に瀕死の人がいたら間髪入れず助けたと思うけど、悠長に執事さんがいらっしゃってる。
急ぎじゃないなら大した事なくね?ちょっと現実逃避を試みる。
いや、患者さんの症状はわからないけどさ。
私はどうしていいかわからなくて、困った時のレオンとばかりに、恋人を見る。
恋人でいいよね?付き合おうと言っても言われてもないけど、両想いなんだし……。ダメ?
「報酬は金貨百枚。こちらの身の安全のため、ギルドで治癒するという事でいいなら受けよう」
私の視線を受けたレオンは、てきぱきとそう言った。
「失礼ですが、あなたは?」
「婚約者だ」
婚約者! 婚約者ですとーーー!!!
恋人を飛び越えて、婚約者!!!
異存はないよ!望むところだけど!急な展開についていけないよ!!
パニックになりながらも、顔はニヤケてしまう!!
「わかりました。その条件を主に伝えて、また後程お返事いたします」
私が照れ照れでニヤケている間に話はまとまっていた。
依頼達成報告をしながら、治癒魔法(本当は魔法じゃないけどわかりやすいように)をするために、ギルド内にひとつ部屋を借りる。
当然ギルドを通しての依頼になる。
部屋の使用料は払う事になるけど、これは公なものにするという事で、とりあえず身の安全も守られるとか。
レオンたら、ほんと頼りになるなぁ。
翌日、正式にギルドで何とか伯爵のお嬢様の治癒回復をした。
とはいっても、赤く見えるところに手を当てるだけだけどね!
それから。
口コミで増えたお貴族様の治癒仕事をする事になった。
条件はもうひとつ増えて、治癒は一日五人まで。これは私の体力?スキル力?的なもののせいだ。何せ初日に倒れる程やらかしちゃったからね!
高額な報酬とか、高貴な身分のお貴族様をギルドに出向かせるとか、一日の人数制限とか、そんな不遜な条件は断るためのものだったのに、癒してほしい人はたくさんいるらしく、後から後から予約が入る。
条件だしをしたせいで、条件をクリアした患者さんを断る事はできなくなってしまった。
ずっとこのままやっていこうとは思わない。
仕事をするにも、もっとちゃんと考えて、自分に合った事をしていきたい。
それが決まるまで、とりあえずとして癒しの仕事をする。
なにか起業するにしてもお金はかかるからね!
そんな風に過ごして三日もたったある日。
予め想定していた訪問者があらわれた。
思ったより遅かったな。




