5.5
ランが初めて仕事をする日の朝、一緒にギルドに行く。
中に入れば、俺たちに気づいた奴らがざわついた。うるせぇな。見るな。
依頼書がはってある掲示板のところまでランを連れて行く。
「ランの仕事はこの辺だ。自分にできそうなものを選べ」
ランが選んでいる間に自分の依頼も見つくろう。何でもいいか。
ランは何にしたんだろう?聞くと
「はい。これにしようかと」
果樹園の収穫の依頼書を指差した。
果物の収穫か。なかなか重労働だがお嬢さんのランにできるんだろうか?
いや、でも一人で薬草の採取なんかだと危ない。俺が一緒にいってやる訳には…、さすがにいかないか。
果樹園なら人と一緒だし、相手はじいさんとばあさんだ。別の意味での身の危険もないだろう。
「なら俺はその先の森での狩りにする。果樹園まで送ろう」
ランは一瞬嬉しそうな顔をして、それからすぐ申し訳なさそうな表情になった。
何か考えているようだったけど、結局安心したような顔で礼を言う。
本当によくこんなに表情が変わるもんだ。見ていて飽きない。だけどこれでは誰にでも読まれすぎるだろう。
俺は一抹の不安を感じた…。
果樹園まで送ると、帰りにまた寄るからそれまで待っているように言う。
背を向けて歩き出した俺に、ランは…
何だって?
「ありがとうございました!気をつけて!」
この俺に?Sランクの俺に?
大した魔獣もいないような森に、ただの害獣駆除をしに行くだけの俺に、ランはそう言った。
自分の方がよっぽど気をつけなくちゃならないだろう!何を言っているんだと脱力しかけて…、何ともいえない気持ちがある事にも気づく。
今までの人生で心配されたり気遣われたりした記憶はない。
心配されるような事は微塵もないが、あんな風に言われるのも…、悪くないと思っている自分に気づく。
何だかなぁ…。
それはそうと、ランと別れて冷静になった今、思い返してみれば…。
俺、うざくねぇ?色々構いすぎだろ?何かもう、がっちり過保護になっている。
はたから見たら気持ち悪い域に達してねぇ?俺がそういう奴らを見かけたら一瞬で目をそらすし、絶対近寄らないね。
……はあぁぁ
大きなダメージを受けて、深い深いため息をつく。
気をつけなくちゃな。ランに嫌われたくないし。
自分の気持ち悪さに落ち込んで、俺はトボトボと森に向かうのだった。
夕方、といってもいつもより早いくらいに帰路につく。
やっとだ!やっと帰ってもおかしくないくらいの時間になった!一日が長かった!
仕事なんてした事がないだろうお嬢さんのランが、肉体労働なんていったいどのくらいやれるんだ?一日中ソワソワ落ち着かなかった。
依頼数以上の害獣を駆除してしまった程だ。
朝送った果樹園に近づくと、あきらかにいるはずのない数の人の気配がする。
何があった?!俺は急いでランの元に向かった。
「これはいったいどういう事だ」
口調は問いかけだが、見ればわかる。
ランはここにいるじいさんとばあさんを癒したんだ。
「レオン!」
ホッとしたような笑顔。疲労の濃いひどい顔色に胸が痛む。
聞けばやはり思った通りで、俺は非常に気分が悪くなった。
いったい何だってそんなになるまで他人に尽くすんだ?じいさんばあさんは元より、怒りはランにも向いた。
いや、こんなにひどい状態のランを怒る訳にいかない。俺は怒りのすべてをじいさんばあさんに向けた。
脅しを込めた口止めをしたら後はもう、とにかく早くランを休ませたい。
ランに背を向けると、少しのためらいもなくのってきた。こんなに疲れ切って…。
歩き出すと、眠りかけたランがポソポソ呟いた。
「レオン、お腹すきました」
「そうか」
「レオン、眠いです」
「宿に着いたら起こしてやる。それまで寝とけ」
こんなんじゃ目を離せねぇ。
はあぁぁ……
深い深いため息をつく。
ますます過保護になりそうだ。




