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ハズレダンジョンから始まる祖国再興――亡国王子は『迷宮管理者』を継承する。  作者: 永礼経


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第9話 『迷宮管理者』、新たな階層へ


「階段……だな?」

と、レンは当たり前のことを思わず口に出してしまう。

「えっと、『設定《コントロール》パネル』は――。だめだ。やっぱりもう出現しない。つまり、もう迷宮の一番奥の壁に移動したってことだろうな……」


「ほほう。本当にダンジョンが変化しやがったぞ? こりゃあ、少し、楽しくなってきたな! な!? レン!」

と、ロジーナが『年甲斐もなく』はしゃいでいる。歳のことを、口に出したら最後、命の保証はないが――。


「すっごいですね! どのぐらい拡がったんだろう? 一気に10層とか拡がってたら、どうします?」

と、ノエリアが一番考えたくない可能性を無邪気に指摘してくる。


「い、いずれにしても、一番奥まで行かないと、もう二度と『設定パネル』を操作することはできないんだ。どれだけかかろうが、とにかく一番奥まで行くしかない――」


 レンは、覚悟していたことが現実に起こり、少し胃が痛くなるような気がしたが、このまま諦めるわけにはいかないと、気を引き締めた。

 もし、二度と『設定パネル』に辿り着けなかったとしたら、どうして父上がこの迷宮を購入し、形見のペンダントをレンに託したのか、おそらく一生、わからないままになってしまうような気がする。


「すまない、二人とも。でも、諦めるわけにはいかないんだ――」

レンは喉から絞り出すように言葉を発した。


「――レン。そう、思いつめるな。大丈夫だ。絶対にもう一度辿り着いて見せる。安心しろ――」

ロジーナがそう言ってレンの肩をポンと叩く。

 レンは、ロジーナがそうやっていつも、子供の頃からレンを励まし続けてくれていたことを思い出す。


「そうですよ。大丈夫ですよ、レンさん。私とロジーナさんが今日はいますから。私たち二人は、このあたりでは名の通ったペアなんですからね?」

と、ノエリアもレンの顔を覗き込んでくる。


 レンは、そんな二人に今の自分の不安げな顔を見せることはできないと、両頬をぱんぱんとはたいた。


「よし! これまでの検証の結果から考えて、おそらく魔物のレベルはそれほど上がらないか、これまでと同じものしか出現しないかのどちらかだと思う。けど、こっから先は未知の領域だ。何が起きても不思議じゃない。気を抜かずにゆっくり進むぞ――」


 レンはそう宣言すると、階段の最初の一段目に足をかけた。



 ******



 その頃――。

 違う国の違う場所で――。


 魔術師マアリ・ド・ジュセルは、机の上の水晶球が淡く光るのを目撃した。

 彼女の机の上に安置されている、『迷宮管理統制の水晶』が光を発するのは、少なく見積もっても10年以上ぶりのことだ。


(――リカルド・フォン・フォルシュタートが死んでから10年が過ぎた――。ようやく運命の針が動き始めたようね……)


 この水晶球に光が灯るということは、次の『迷宮管理者』が覚醒したということだ。

 それは、リカルドの『後継者』が現れたということだ。


 『後継者』になることができるのはリカルドの血を引く者で、あの『翡翠の宝玉』を持つ者に限られる――。


(もう二度と、この水晶球が光ることはないかもしれないと思ってたけど――。『翡翠の宝玉』がその資質を認めたってことだわ――)


 その可能性があるのはこの世にただ一人。

 レンブリーズ・デル・フォルシュタート――のみ。


 リカルドには二人の息子以外に血縁者はいなかった。

 そのうちの一人、ルイマーク・デル・フォルシュタートは、10年前の帝国侵攻の折、父王リカルドとともに戦死している。


(レンブリーズだけは、遺体が上がらなかったと言われていたが、まさか本当に生きていたとは――)


 もちろん、その可能性が捨てきれなかった為に、マアリはこの10年間ずっと、水晶球を机の上に置いて、変化を見逃さないように努めてきたのだ。


 マアリは、待ち望んだ瞬間に向けて準備を進める必要がある――。


 水晶球を紫色の敷布ごと、作業テーブルの上にゆっくりと移す。

 そして、その前に鎮座すると、水晶球に両手をかざす――。

 

 すると、その水晶球から、四角い窓が出現した。


『レジルト王国 レスラ郊外 北の森 『無名の迷宮』 ダンジョンレベル:G(200) BP:24』


 そこにはそう記されていた。


(BP(ビルド・ポイント)をすでに200投入してある――。つまり、ダンジョン成長を稼働させたってことだわ――)


 マアリは水晶球から手を離すと、身支度を始めることにする。

 

(ダンジョン成長を稼働させたってことは、急ぐ必要があるわね。場合によっては、『翡翠の宝玉』を回収しないと――)


 レジルト王国のレスラまでは、『移動魔法《ポータル》』を使えばすぐにいけるが、そこから先、当該迷宮までは馬を借りるか、徒歩で行くしかない。


 マアリは、自分の部屋の窓を開けると、庭で作業していたルッコに声を掛ける。


「ルッコ!! わたしちょっと急いでレジルトまで行かなくちゃいけなくなったから、しばらく、お願い――!」


 その声に反応したルッコが、「わかった」という意思を示すために、右手を上げて左右に振る。


 それを見届けたマアリは、お決まりの装備を次々と身につけてゆくと、最後にとんがり帽子と短杖を取り、詠唱句を唱え始める。


「時空の門よ、我が前に顕現せよ――転移門開門《ポルタ・アペルタ》!」


 すると、マアリの前に、楕円形の姿見のような形をした渦が現れる。


「ええと、座標は――」

そう言いながら、腰のポーチから手のひらサイズの手帳を取り出す。

 そして、レジルト王国レスラの項目を探し出す。


 その後、マアリは、その渦の脇に手を伸ばすと、四角い小窓が出現した。

 小さい窓と、その下に並ぶ0~9までの数字――。


 それを、手帳の数値に従って「入力」すると、表示された確認メッセージを閉じる。


(これで、レスラのどこかに、繋がったはず――。さあ、いくわよ――)


 マアリは意を決して、その渦の中に身を投げ出した。


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