第8話 『迷宮管理者』、覚悟を決める
(BP――?)
なんとなく思いつきそうなのは、バトルポイントの頭文字とか、ブレイブパワーの頭文字とか?
いずれにせよ、使い方があるとしても今は分からない。
(こいつは、またあとで、だ。それより予定をこなそう――)
レンは再度、『魔物生成』の設定を「1」へと戻してパネルを閉じた。
どくん――。
これで、またゴブリンソルジャーに変わったはず――。
「おお!? こいつは――?」
「ご、ゴブリン・スカウト、ですよ!」
二人の慌てる声が部屋のすぐ外から聞こえてくる。
レンは、剣を抜いて二人の元へ向かう。
「こ、このっ! いきなり、襲ってくるんじゃないわよォ――!」
ノエリアの声だ。
「ノエリア! 引き剥がせ! 私がやる!」
ロジーナの声がした直後、レンは二人のもとに到達する。
見ると、ノエリアがスカウトに組み付かれているではないか。
「ノエリア! 大丈夫か!?」
慌てた声を思わず上げてしまったレン。だが、ゴブリン・スカウトも、『モブゴブ』よりちょっと強い程度の雑魚モンスターには違いない。
よく考えれば、その程度の相手にノエリアが組み付かれたとはいえ、大けがをすることなどないだろう。
「もう! 変なとこ触らないでよ!! 『火炎風』っ!!」
ノエリアが得意の魔法を発動した。
瞬間、スカウトはぼうっと燃え上がり、ノエリアから弾け飛ぶように地面に転がされる。
「うらぁっ!!」
と気合一閃。ロジーナが剣を翻す――。
ざくん――! という音が聞こえそうなほどに強烈な剣圧――。
スカウトの胴体が上と下に分断され、血飛沫が舞った。
「大丈夫か? ノエリア」
「え? ああ、大丈夫ですよ、これぐらい。私の防御強化魔法ではスカウト程度の攻撃は通りませんから、ダメージはありませんよ。でも、触られた感触は、無いわけじゃないので――」
「さわられた? どこを?」
「それ、聞きます?」
「あ――。いや、いい。忘れてくれ。怪我がないならそれでいい」
どうにもこういうノエリアの返しには気後れしてしまう。昔からそうだが、ノエリアはこういう返しに対する俺の反応を見るために、わざとからかってくる節がある。
「レン、ノエリアのどこをどういう風に触られたのか、気になるのかぁ?」
と、ロジーナがにたぁと笑いながら聞いてくる。
「うるさい! それより、さっきは「ソルジャー」だったのに、なんで「スカウト」が――。これは、少し戻りながら、他にも違う魔物が湧いているか確かめないと、だな……」
レンはこの話をさっさとまとめようと話題を変える。
「それじゃあ、とりあえず、入口まで戻ってみるかぁ。どうせ雑魚しか湧かないんだろうけどな――」
ロジーナはそういい捨てると、踵を返し、入口方面に向けて歩き始めた。
その後、レンたち3人は、ダンジョンの入り口まで引き返してみた。
途中で出会った魔物だが、『モブゴブ』、『ゴブリン・スカウト』、それから『ゴブリン・ソルジャー』の3種だけだった。
討伐後に出現するのは、雑魚モンスターに見合った程度のドロップ品、それと、「銀玉」――。
この「銀玉」に関してだが、どういうわけか、ロジーナとノエリアには見えていないようで、レンは「銀玉」のことについてはまだ二人に告げていない。
「やっぱり、雑魚しか湧かねぇかぁ――。ドロップ品も大して儲かるものじゃないしなぁ。せいぜい初級冒険者に格安で譲ってやるかという程度のものだからな。――レン、正真正銘、このままだと『ハズレ』以下だぞ?」
と、ロジーナが傷口に塩を塗り付けてくる。
「そうですねぇ。福引きの『ハズレ』は大して大損するほどのものでもないですが、ダンジョンは、大赤字確定ですからねぇ――。まさしく、『ハズレ』以下ですよねぇ?」
そして、その塩を傷口にさらに擦りこむノエリア。
「ああ、だけど、こっからが本番だ。もう一度最奥まで戻って、次は、『ダンジョン成長』を試す――」
と、なんとか踏み止まろうと足掻くレン。
二人はふぅとため息をつくが、そこは昨日の飯代が効いている。
「今日はとことん付き合ってもらうからな? でないと――」
「わかってるよ。はいはい。それじゃあ、もう一度奥まで行くとしようか――」
「ええ~っ? わたしちょっとお腹空いてきたんで、先にお昼にしましょうよぉ。魔力も回復させないとだしぃ――」
瞳を透きとおらせて懇願するノエリアの表情がレンの胸を締め付ける。
本当にこの「妹」という存在は、どうしてこうも、「メンドクサイ」のだろうか。
ノエリアにこのような眼で懇願されると、「絶対に」これを拒絶できないのだが、その理由はいつまで経ってもわからないままだ――。
「うぐ……っ。わ、わかったよぉっ! じゃあ、昼だ、ひる――!」
「やったぁ! あ、あそこ! ちょうどいい倒木がありますよ! そこに腰かけて食べましょう!」
そう言うなり、ノエリアはすでにたたたと軽快な足音を立てて駆け出していた。
ロジーナとレンもその後に続き、三人はひとまず昼飯と小休止を取る。
それから約1時間後――。
「よし。それじゃあ、次は『ダンジョン成長』だ。説明した通り、もし、ダンジョンが拡がって、設定パネルの位置が移動したら、もう一度『最奥の壁』まで進まないといけなくなるからな。覚悟しといてくれ――」
一応二人にそう告げ、『設定パネル』を操作し始める。
『ダンジョン成長:停止中』
の項目にタッチすると、
『ダンジョン成長:作動・停止』
へと変化した。
レンが作動を選択すると、この前に見た注意書きが表示された。
『※コントロール・パネルは常時、ダンジョン最奥の壁に移動します。もし、先に進みたくない場合は、ダンジョン成長を停止してから閉じてください』
レンは、大きく息を吸うと、とうとう意を決してパネルを閉じた。
どくん!!
と、いつもより明らかに大きな震動――。そして――。
「あ――」と、レンが短く感嘆の声を漏らすと、
「ほう――」
「すごい!」
と、二人もほぼ同時に声を漏らした。
「部屋の壁が――消えた……」
そしてその壁から先に、下の階層へとつづく階段が姿を現した。




