第61話 『迷宮管理者』、心配する
朝、いつものようにギルドへと向かうレン。
だが、今日からは一人じゃない。
この前、『揺籃の洞窟』の探索を終えたあと、3人で再びパーティを組むことを決定したのだが、その初日が今日なのである。
レンがギルドホールの扉を開ける。
すると、いつも騒がしいホールが、いつも以上に騒がしく、人の数も多いような気がする。
(やけに多いな――。それに、見覚えのない顔も結構多い――)
レンがホールを見渡すと、ロジーナとノエリアの二人がソファに腰かけ、いくつかの依頼書を眺めているのが見えた。
「よお、二人とも。今日からよろしく――」
「おお、レン。珍しく早いじゃないか?」と、ロジーナ。
「もしかして、緊張で寝付けなかったとかですかぁ?」とはノエリアだ。
「どうして俺が、緊張なんかするんだ? ノエリア」
「だって、今日からまた正式にパーティを組むんですよ? パーティ名とかどうしようかなとか考えるじゃないですか」
「はぁ? パーティ名ってなんだよ?」
「ええ~!? パーティ名決めないんですかぁ? せっかくならかっこいい名前で活動したいじゃないですか」
「――いや、別に……」
と、レンは答えておいて、
「それより――。なんか人、多くないか?」
と、さっきから気になっていることを問いかける。
「本当に朝起きてそのままここに来たんだな? ――サウスリーゼ王城が堕ちた」
ロジーナが低い声でそう言った。
数日前、帝国の侵攻が迫っているとあの『三馬鹿トリオ』が言っていたが……。
「――そうか。つまり、人が多いのはサウスリーゼから移ってきた冒険者のせいってわけか」
王城の城下町にもギルドはあった。
それに合わせて、王城が陥落したことを知った周辺の街を拠点にしているものたちも移ってきているのだろう。
「それで? 被害の方は――」
「王城の守備兵は壊滅。最終的には、国王の首をもって、サウスリーゼの守備隊長が投降したらしい」
「国王が討ち取られた、か――」
「さあな。真実はどうか分からんが、『事実』はそういうことだ」
「なるほど――。たしかに、な」
その首が国王本人のものであるかどうかは大した問題ではない。
公式に「国王の首」と知らされているということは、その投降兵が、『国王の首』だと宣言したということだろう。
つまり『事実』としては、国王は死に、サウスリーゼ王国は滅んだということになる。
レンは、あたりに視線を這わせた。
あの二人はどうしているかと気になったからだ。
だが、ぱっと見た限り、ホールに二人の姿はなかった。
まだ来ていないのか、あるいは、もう、出発しているのか。
今日も『石牢の迷宮』へ探索に向かってくれるはずだが、『通知』にはまだ、二人の到着の知らせが届いていない。
「――レンさん。あの二人のことを探しているんですよね?」
と、レンの様子を見ていたノエリアが告げる。
「あ、ああ。見かけたか?」
「はい。少し前、レンさんとちょうど入れ替わりに、『石牢の迷宮』へ行くといって出て行きましたよ?」
「そうか――。様子はどうだった?」
「え? 別にいつもと変わらない様子でしたけど。どうしたんです? あの二人がなにかありました?」
「いや。そうか、それならいいんだ」
レンは、そう言えばロジーナとノエリアには二人の素性を話していなかったと思い出して、言葉を切る。
二人とも、おそらくサウスリーゼのことは聞いたことだろう。
故国が滅び、父が死んだと聞かされて、動揺しないはずはない。
平静を装っていたのなら、余計に心配だ。
「――すまん、二人とも。今日の探索は二人で行ってくれないか?」
レンは少し言いづらそうにそう二人に告げる。
「ああん? どうしてだ?」と、ロジーナ。ノエリアも表情を曇らせている。
「俺はあの二人の様子を見に行ってくる――。今日は『石牢の迷宮』の第3エリアに挑む予定なんだが、エリアボスの脅威度が少し高めに設定してあるんだ――」
「つまり、心配だって、そういうことか?」
「なあんだ。それなら、みんなで二人を追いかければいいだけの話じゃないですか」
ロジーナとノエリアがレンの気持ちを察してそう言った。
「――いいのか? 『石牢の迷宮』程度だとたいした儲けにはならないんだぞ?」
二人はS級冒険者なのだ。
C級相当のダンジョンに潜るより、自分の階級に見合ったダンジョンを探索した方が圧倒的に利益が大きい。
「――レン。お前が心配するということは、何か理由があるんだろう? そうなれば、私たちだって心配になる。あの二人とはもう、仲間だからな?」
「そうですよ。二人ともいい人たちですし。特にユリアちゃんはかわいいし。私も『妹』が出来たみたいで嬉しかったんですから」
「そうか――。悪いな。じゃあ、付き合ってくれるか?」
もちろん、と二人は快諾してくれ、手にしていた依頼書の写しをソファに投げ捨て、すっと立ち上がる。
「すぐに発つんだろ?」
「そんなに時間たってないですから、すぐに追いつきますよ」
「ああ、行こう」
レンはそう告げると、ギルドの入り口へ向きなおって歩き始めた。




