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ハズレダンジョンから始まる祖国再興――亡国王子は『迷宮管理者』を継承する。  作者: 永礼経


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第6話 『迷宮管理者』、下手に出る


 夜――。


 レンはいつも通り酒場で席についている。


 帝国の侵攻が近付いていると、昨日、ロジーナは言っていたが、この酒場に至っては、いつもと同じで何も変わらない。


 レンがこの辺境の国――レジルト王国で生活を始めてから、すでに10年が過ぎている。


 レンブリーズ・デル・フォルシュタート。

 それがレンの本名だ――。


 だが、ここでその名前を使うことは許されない。

 その為、今は、「レン・シュタルト」と名乗っている。


 『フォルシュタート』の家名は、10年前に帝国によって滅ぼされた王国の王家の家名だ。


 レンの父の名は、リカルド・フォン・フォルシュタート。亡国の国王だ。

 早くからダンジョン開発に目を向け、潤沢なダンジョン資源を、王国領民の豊かな生活を守るために注ぎ込む、そんな優しい王だった。


 兄の第一王子ルイマーク・デル・フォルシュタートは、レンより15も上の歳の離れた兄だったが、当時まだ12歳だったレンともよく遊んでくれる兄であり、智勇ともに優れ、将来を嘱望される次期国王であった。


 レンの幼少期は、とても豊かな王国において、何も不安のない安全な王城内で、周辺の国々の動向なども知らず、ただ平和に過ごした日々だった。


(それがあの日、帝国によって全て壊されてしまったんだ――)


 ただ、幼く知恵も力もないレンには何も出来ることなどなかった。

 剣を取り、帝国の侵攻に立ち向かうことも、父や兄とともに死することも、許されなかった。


『レンブリーズ。これを持ってお前は脱出するのだ。後のことは、ガイルに頼んである――。生きろ、レンブリーズ。そしてもし、お前にその気が芽生えたら、いつか父の為せなかったことを果たしてくれ――』


 それが、レンの聞いた父の最期の言葉だった――。



 レンは、胸元からペンダントを取り出す。

 青緑色の宝玉は、特に何も変わらず鈍い色をしていた。


(この形見のペンダント……。一体何なんだ――?)


 昨日、「ハズレダンジョン」の最奥の部屋で起きたことをふと思い出す。


『お前に父王からの預かり物を返す時が来た――』


 「あの声」は確かにそう言った。

 その声の主が何者か、もちろんレンに知る由もない。


(しかし、あの「ハズレダンジョン」、本当に何かの役に立つのかな――)


 そう思い、ペンダントを胸元にしまおうとした時、いつもの聞きなれた声がレンに向けて響いてきた。


「よお、レン。お疲れさま――。今日も昨日の「ハズレダンジョン」か?」


 ロジーナだ。

 ちなみに「ロジーナ・レストリー」と名乗るこの女戦士だが、本名は、ロジアーナ・レイストールという。元は王国の仕官であり、レンの脱出の際の護衛の一人だった。歳は、レンより5つほど上のように思えるが、本人は頑《がん》として教えない。


「いま、レンさん、ペンダントを見てましたよね? なにか、気になることでも?」

と、続いて声を掛けてきたのは、ノエリア・ヴァイオレット。

 彼女も本名ではない。いや、「ノエリア」は本名だが、本当の家名は「スカーレット」だ。

 レンの脱出時、護衛部隊を率いた、ガイル・スカーレットの一人娘である。レンにとっては「妹」みたいな存在で、レンより4つ下の18歳だ。


「ん、ああ――。そのことで、二人に手伝ってほしいことがあるんだ――」


 レンは、席に着く二人にそう告げる。


「手伝う? お前、私たちと組むのは嫌だって、そう言ってたんじゃないのか?」

と、ロジーナ。

 一応本来なら、『主君筋《しゅくんすじ》』にあたるレンなのだが、潜伏生活が長いため、もうこういう扱いに慣れてしまっている。


「ええっ? レンさんが私たちと組むって、いったい何ごとですかぁ?」

と、ノエリアもこれに乗っかる。

 彼女から見てもレンは、「父の主君の子」にあたるわけだが、子供の頃からの付き合いだから、気心が知れていて、距(・)離(・)はそれほど遠くない。


 なんとなく想像はしていたが、いざ直面すると、結構、ぐ(・)さ(・)り(・)とくることってあるものだ。

 だが、「ハズレダンジョン」を他の冒険者に見られるのはさすがにあまり得策とは言えない。


(それに、『設定《コントロール》パネル』の話もしなきゃいけないしな――)


 さすがに『設定パネル』の検証の為に、幾らか金を払って冒険者を雇うわけにはいかないし、『迷宮管理者』という適性についても知られるわけにはいかない気がする。


(結局は、秘密を共有するものに依頼する方が、なにかと都合がいいんだよな――)


「ははぁ~。わかったぞ、お前の魂胆が。どうせ、その「ハズレダンジョン」に他のやつに見られたくない何かがあるんだろう? それで私たちに数年ぶりに『組め』と、そういうわけだ?」


 ロジーナの洞察が図星をついてくる――。


「ぐ……。ま、まあ、そういうことだ……。すまないが、組んでもらえないか――」


 過去の経緯から、下手に出るしかないのがつらいところだが、ここはどうしたって、受けてもらうしかない。


「今日は俺が奢る。それで手を打ってくれ――」


「じゃあ私はチキンの丸焼きを」と、ロジーナ。

「私はオレンジマロンパフェデラックスで」とはノエリアだ。


「……お前ら、最初からそのつもりだったろ」


 二人は顔を見合わせ、いたずらが成功した子供のように笑う。

 

 レンは財布の中身を思い浮かべながら、小さくため息をつくしかなかった。


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