第5話 『迷宮管理者』、予想を裏切られる
「設定の変更は、即座に反映される」――。
これが魔物の生成にも当てはまるとすれば、強敵が現れても設定を替えれば消失する――?
いや、どうだろうか。
これは要確認事項だ。もし、各設定によって反映されるタイミングが異なっているとすれば、一度湧出した魔物は討伐されるまで消失しない可能性だってあるのだ。
(これを一人で確認するのは、少し難しいな――。やっぱ、あいつらの手を借りるしかないのかぁ~)
レンは、ロジーナとノエリアの顔を思い浮かべながらそう思った。
このダンジョンが「ハズレダンジョン」でしかないのなら、二人には黙って記憶の彼方に消えゆくまで触れないでおこうかとも思ったのだが……。
(今の状態じゃ、本当に最低ランクにも満たないダンジョンだからな。あいつらのことだ。小馬鹿にされるのは目に見えているから見せたくなかったんだけどなぁ)
仕方がない。
他に今日出来ることはないか――。
レンは、『再湧出時間』の欄を確認する。現在は「最長期」に設定されている。
タッチしてみると、表示が変わり、「最長期」と「1」が表示され、「最長期」が反転表示になっていた。
(「1」、押してみるか――)
「最長期」設定の場合、再湧出までの時間は、先程の検証からみて、約30分間隔だと考えられる。
(湧いてもゴブリンだしな――。まあ、やってみるか)
今日ここに来てからは、まだ1時間少々しか経っていない。日暮れまでの時間はまだ充分にある。
レンは設定を「1」に変更し、パネルを閉じた。
どくん――という震動。
これで反映されているはず。設定変更が即座に反映されるなら、何かしら変化があるはず――。
レンは「最奥の部屋」の入り口付近の方へ視線を向ける。この部屋から一番近い遭遇場所は、部屋の入り口から5メートルぐらいの場所だった。
レンはショートソードを抜き放つと、入口の方へと歩を進める。
(いた――)
初めにここまで来る時と、2度目にここまで戻ってきた時の両方と同じ場所にゴブリンの姿が見える。
レンはそのままゴブリンの気を引かないように、そっと部屋の奥へと退いた。
再び、設定パネルを操作。今度は設定を「最長期」に変更する。
どくん――。
そして、再び入り口前のゴブリンがどうなったか確認すると――。
「いない!? ちょっと待て、どういうことだ?」
レンの予想では、どちらかと言えば、そのまま消えずに残っている可能性が高いと思っていたのだが、少し当てが外れた。
「1」に変えた時はすぐに反映された。「最長期」に変えると消えた。
ここから導かれる仮説は――。
(討伐時間の記録――?)
仮に、討伐された時間が記録されているとしたら、「最長期」設定ではまだ再湧出時間になっていない。
「1」に切り替えた時、即座に湧出したのは、「1」を選んだのが初めてだったから――なのか?
(確かめるしかない――)
レンは再度パネルを操作し、「1」に変更する。
やはり、入り口前にゴブリンが現れた。
今度は即座に近づいて、首を刎ねる。
そして、時間を確認する――。
時計の針は「11時43分」を指し示している。
あとは、待つだけだ――。
「最長期」が約30分だとすれば、「1」は何分ぐらいだろうか。少し短くなって「25分」ぐらいになるのだろうか。
(それなら、少し腹ごしらえができる――か)
そう思い、腰のポーチを開こうと手を伸ばした時だった。レンは信じがたいことを目撃する。
レンのすぐそばに立ち昇る黒い靄――。そしてそれはあっという間にゴブリンの姿となって湧出した。
「もう、湧いたのか!? うわっ!?」
ゴブリンが即座にレンに反応し、その手に握るナイフを振るってきた。
レンは慌てて飛び退り、かろうじてこれをかわす。
「ちょ、ちょっと待て! 早すぎんだろ――!」
そう、誰にともなく悪態をつきつつ、腰のショートソードを抜き放つ。
『ぎゃがぎゃががあ――』
と、ゴブリンの口惜しそうな喚き声。そして、突進――。
「はあ――!」
と、レンは短い気合を発して、剣を横薙ぎに振るった。
ざくん、という手ごたえ。ゴブリンの頭が真っ二つに分断される。
言うまでもないが、死体の消失と、銀玉はいつも通り。ドロップ品はない。
「時間は――? 11:44?? まだ1分しか経ってないじゃないか――!?」
うそだろ? 「1」ってまさか――。
「1分――なのか?」
時計の秒針が走る。先程の記憶を辿る。確か秒針の位置は、40秒あたりだった――。
今は――、28秒――。
もう10秒ほどで再湧出する――?
「……8、……9――湧いた!!」
今度は気持ちの準備が出来ている。レンはゴブリンの姿が象られるまでの間にゆっくりと息を整え。湧出と同時に突進。即座に首を刎ねた。
(1分は、さすがに短すぎるだろ!? このままでは検証どころじゃない。とりあえず、設定を戻そう――)
レンは急いでドロップ品を回収すると、設定パネルまで全力で駆け戻った。




