第4話 『迷宮管理者』、検証を開始する
翌日――。
レンは昨日にひき続き「ハズレダンジョン」に来ていた。
昨日は下見のつもりだったため、この「ハズレダンジョン」の検証が思うように進められなかった。
今日は現在判明している項目の検証をしっかりと行おうと思っている。
(たしか、『魔物生成』は「数値設定」だったな――。選択できるのは、「1」か「最低ランク」の二つだけだったけど、「1」があれば「2」もあると考えるのが普通だよな――)
問題は、その「1」で、どの程度「脅威度」が上がるのか、だ。
冒険者ギルドでは、ダンジョンに「脅威度」を設定している。いわゆる、出現する魔物の強さを表したものだ。こちらは、数値ではなく、ランクという方式をとっている。
そのランクと冒険者ランクをリンクさせ、冒険者の経験や強さに応じて的確なダンジョンを選択できる仕組みとなっている。
魔物生成を「1」に変更した瞬間、途轍もない脅威度の魔物が現れたら、いくらレンでも生きて帰れる保証はない。たった3階層しかないとはいっても、超強度モンスターの中を脱出するのは至難の業だろう。
(慎重に、検証しないとな――)
レンは最奥の壁へ近づいてゆく。
昨日と同じように、設定パネルが発光して浮かび上がった。
『ダンジョンレベル:G 名称:未定』
『魔物生成:最低ランク』
『宝物生成:最低ランク』
『再湧出間隔:最長期』
『鉱物生成:停止中』
『ダンジョン成長:停止中』
『その他の項目:現在未稼働』
昨日設定したそのままの状態で変わりない。
ここに来るまでの間に確認できたことがいくつかある。
まず、出現モンスターはやはりゴブリンだけだった。ここに到達するまでに遭遇したゴブリンは全て倒した。ゴブリン一体からは、低レベルドロップ品が0または1個、銀玉は必ず1個ドロップした。
銀玉が消失してペンダントが鳴るのは昨日と同じだった。
再湧出はまだ起きていないことから、遭遇したモンスターを全て片付けながら、最奥まで到達する時間はあるということだろうか。基準はまだわからない。
鉱物生成はされていなかったが、宝箱は昨日と違う「部屋」に一つ生成されていた。
中身は金貨1枚と銀玉1個。昨日と同じだ。
(とりあえず、鉱物生成から試してみるか――)
指を伸ばし、鉱物生成を「最低ランク」に設定する。現在は「停止」か「最低ランク」のどちらかしか選択できないようだ。
設定パネルを閉じると、どくん、というあの震動――。
これで「更新」されたということか。
「あ――。何か光ってる?」
部屋の壁の一角に、黒光りする何かを見つけたレンは、すぐに近づいて確認する。そして、ショートソードの柄頭でカツンと叩き、こぼれた欠片を拾った。
「これは――、黒硝石だ……」
黒硝石。
割れやすい石ではあるが、その割れた面が鋭利に尖るため、矢や槍、銛などの鏃として重用されている鉱物だ。
残念ながら、たいして価値は高くない。地上でも発見できる程度のありふれた鉱物だからだ。
(でも、設定どおり生成されることは確認できた。量は――、たいした量じゃない、か)
おそらく壁を掘り出してもそれほどの量ではないだろうと見積もるレン。
あと検証がまだなのは、『再湧出間隔』と『ダンジョン成長』の項目だけとなる。
『その他の項目』の欄も開いてはみたが、『現在未稼働』となっているだけで、設定を変えることはできなかった。
(時間制ならそろそろ湧くころかもな――)
今日はこのダンジョンに入る際に時間を記録しておいた。「時計」というアイテムは高価だが、冒険者にとっては必須アイテムの一つだ。
レンは左腕にはめた腕時計を見る。
(侵入開始から30分――。昨日再湧出したのも30分以上経ってからだった。少し戻ってみよう――)
最奥の「部屋」からほぼ一本道の通路をいくらか戻る。
すると、入口から半分ぐらいの場所、第2階層でゴブリンと遭遇した。
これを一撃で粉砕。いつも通りドロップ品1個と銀玉1個がドロップした。
少し先に、別のゴブリンの姿も確認できたが、こちらに気付く様子はない。
(時間は――侵入から45分か。この先入口まではすでに湧いていると考えていいだろうな。問題は逆に奥の方だが、これから湧き始めることになる――か)
レンは、再度、最奥の「部屋」へ向かって引き返し始める。
すると、やはり、すぐにゴブリンと遭遇した。一気に間合いを詰めて首を飛ばす――。今回はドロップ品はなし。銀玉はやはり1個。
最奥の「部屋」まで戻ってくる間に遭遇したゴブリンは、来る時に遭遇した場所とほぼほぼ同じ場所同じ個体数だった。
ここでレンは、はたと重要なことを見落としていることに気が付く。
(そういえばさっき、設定変更してすぐに鉱物が生成されたよな? 設定反映は即座に起きるってことか――なら……)
設定パネルを操作しようと壁に近づく。
確かめる方法は、簡単だ。
レンは、先程の黒硝石の場所に視線を向ける。大丈夫、まだ存在している。
設定パネルに指を伸ばし、鉱物生成を「停止」に変更、設定パネルを閉じた。
どくん、という震動はいつも通り――。
そして――。
「黒硝石の鉱脈が――消えた!!」
さっきまであったものが、一瞬で消え去るという不思議な現象だが、ダンジョン内で起きる不思議な現象などはいくらでもあることだ。
(やっぱり、そうか――。これが全ての設定に共通の現象だとしたら――)
レンは、このダンジョンの「攻略法」を見つけたかもしれないと、胸が高鳴るのを感じた。




