第59話 『国王』『執政』『貴族の少女』、それぞれの覚悟を示す
「報告!! ウィリアス・ルクセンドール卿が討ち取られました!」
玉座の間に兵士の声が響く。
「さらに、城門に敵部隊が押し寄せ、現在、戦闘が発生しております!!」
国王コールウェル・デ・サウスリーゼがこれを聞いて、静かに告げる。
「とうとう開戦したか――。城門を閉ざし籠城したとしても援軍の期待は出来ぬ。聞けば、今押し寄せているのは前哨部隊であり、本軍ではないとか。本軍が到着すれば、城壁はすぐに越えられ、城内は蹂躙されることだろう。せめて、家内のものや城内の住民を避難させるのだ――」
これに応じたのが、執政のベルナール・ロッテンだ。
ベルナールは、国王コールウェルへ言葉を返す。
「陛下、ご安心を――。すでに裏の城門から住民の避難を開始いたしております。もう数刻あれば、全員を城外へ退避させることができるでしょう」
「うむ。先に逃がしたユリアディリアは残念だった――。どうやら帝国の追撃を逃れることは叶わなかったようだ。これ以上私の家中の者を失いたくはない。私は既に覚悟を決めている。ベルナール、よいな?」
「まだ、命を奪われると決まったわけではありませぬ。このあと、陛下にも脱出していただく用意がありますゆえ、お気を確かに。諦めてはなりませぬ――」
ベルナールがそこまで言ったとき、慌ただしく兵士が玉座の間に駆け込んできた。
「報告!! 西門周辺での戦闘は一時終結! 敵は撤退いたしました――!」
兵士が声を上げる。
おお……、と、玉座の間に詰めていた重鎮たちが唸り声をあげる。
しかし、ベルナールは知っている。
これこそが、『漆黒の将軍』アジムサル・レンガルの『ルーティーン』なのだと。
「各城門の守備隊長にすぐに通達せよ、決して警戒を怠るな、と。すぐに本軍がやってくるはずだ。問題はどの城門から押し寄せるか――。索敵と警戒を厳にせよと伝えるのだ!」
これを聞いていたコールウェル国王が、ベルナールに不安げな視線を向ける。
(くそっ! 思ったより撤退が早い――。つまり、本軍の到着までそれほど時間がないということだ……。すぐに陛下を避難させなければ――)
「陛下。一刻の猶予もないと予測いたします。すぐにここをお発ちください。——おい! 手筈通りに、だ。ご案内申し上げよ! ささ、皆様も――」
ベルナールは部屋の入り口に控えていた近衛兵に指令を下し、部屋に詰めていた全員に退去するよう促す――。
「ベルナール、お前はどうする?」
「《《国王の首》》が無ければ、どこまでも陛下を追うことでしょう――。私が陛下の身代わりとして残ります――」
「――くぅっ、ベルナール、貴様の忠義、私は生涯忘れぬ」
「有難きお言葉です――。さあ、お早く――」
コールウェル陛下は最後にベルナールの手を取ると、ぐっと力を籠め、そして、背を向けて駆けだしていった。
(せいぜい、長生きして、私の家族の面倒を見てくださいよ、陛下——。マリアンヌ、すまない、先に逝くことになってしまった……。ああ、せめて今朝、最後にアンナを抱きしめておくべきだったな)
ベルナールは去っていく国王の背中を見やりながら、妻とまだ幼い我が娘を想っていた。
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アジムサルは、今日の『戦勝』に大満足でテントに戻った。
明日は本軍による、城攻めが本格的に始まる。
攻め手は、今日破壊に成功した西門から本軍、アジムサルは、明日夜が明けるまでに反対側の東門へ向かい、回り込んで背後をついてくる部隊に対する警戒及び掃討と、東門から場内へ押し入ってからの残党処理が課されている。
テントをくぐると、金髪の少女がアジムサルの方に視線を向けてくる。
その目から、安堵の色が発せられているのをアジムサルは見て取った。
「ふむ。とうに逃げていたものと思っていたのだが――。その隙はいくらでもあっただろう?」
事実、このテントどころか陣内には人一人いなかったはずだ。
なぜなら、すべての兵士は今の今まで、西門破壊の任に当たっていたのだから。
「――え? にげる? あ、たしかに、陣内は空っぽでしたわね。そうか、逃げるなんて、考えてもいませんでしたわ。そうおっしゃってくださればよかったのに」
金髪の少女エベリナはそう言って、ふわりと笑った。
「――——。お前というやつは……。言わねばわからぬとは。それでは戦場を生き抜くことは難しいぞ?」
「ああ、それなら大丈夫です。今夜は、『将軍』がお帰りになりましたから――。明日、もしお帰りにならなかったら、その時は退散することにいたします」
「――――。明日は早い。リナ、時間がない。すぐに支度せよ」
「すでに、身体は洗ってあります――」
「そうか――。なら……」
アジムサルはその場で装備を外してゆき、下着まで全て剥ぎ取ると、ぐいとエベリナの腰に腕を回した。




