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ハズレダンジョンから始まる祖国再興――亡国王子は『迷宮管理者』を継承する。  作者: 永礼経


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第56話 『迷宮管理者』、モブ狩りをする


(まったく――。昨日の夜は散々だった――)


 レンは、目前に立ちはだかった【蜥蜴戦士《リザード・ウォリアー》】の首を飛ばしながら、ため息をつく――。


 あの二人——。ユリアとアンは、場の雰囲気に乗せられて、エールの大ジョッキを次々と飲み干していった。


 結構なペースで飲んでいたから、見た目より酒に強い口なのかと思っていたのだが、それはいきなり訪れたのだった。


 どたん!


と、レンの右側から衝撃音が上がった。ユリアがテーブルに臥せってしまった衝撃で、テーブルに頭を打ち付けた音だ。


「あ、はっはっはっは! ユリアがぶったおれたぞぉ!」


と、大声で笑ったのはアンだ。


「いや、笑ってる場合じゃないだろう――。おい、ユリア、大丈夫か――?」


と、レンはユリアの肩を引いて体を起こしてみたのだが、ユリアは既に寝息を立てて眠ってしまっている。


 まあ、吐いたり、顔色が悪くなっている様子は見られないため、ただ眠ってしまっただけなのだろうとほっと胸をなでおろしたのもつかの間、ユリアはレンにまとわりつくように腕を伸ばすと、そのままレンの頭を自分の胸に抱えるようにして抱き寄せてしまう。


「う、うわっと、ユ、ユリア、はなせ――!」


「うう~ん、むにゃむにゃ、この枕、なんでじっとしてないのぉ~、むにゃむにゃ……」


 と、ユリアはそう答えたきりで、一向に目を覚ます気配はない。


「――くっ! この、はーなーれーろぉー!」


と、ようやく引きはがすと、一瞬で態勢を変え、今度は背中からレンの首に腕を回してまとわりついた。


「こいつ――! 眠っているのに、なんて速さで……! おい、アン! なんとかしろ!」

「無理ですね。諦めてください、レン殿。そうなったユリアは、自分のベッドに辿り着くまで絶対に起きないでしょう。(キリッ――)」


 何だ今の、(キリッ――)は!


「ったくもう、もうお開きだ! アン、ユリアの部屋まで案内しろ――」

「なんと! まさか、そのままいかがわしいことをしようなどと――」

「ば、ばかやろう! そんなわけないだろうが! 連れて帰らないとこのまま剥がれないってことだろう? 俺の部屋に連れて帰るわけにもいかないだろうが!」

「そうですね。では、ご案内いたします、レン殿! ささっ、こちらへ――」


 アンはすくっと席を立つと、そのまま酒場を出て行ってしまう。


(おいおい、お代はどうするんだ? 全部払うとか言ってなかったか?)


 と、思ったが、そんなことを言っている間にアンを見失っては、本当にユリアを自分の部屋に連れ帰るしかなくなる。


「ちっ! これで、支払いを済ませておいてくれ――」


 と、レンは仕方なく、自分の金貨袋をノエリアに預ける。


「分かりました! 大切に使わせていただきますね、レンさん!」

「いや、もう帰れよ――」

「おお、結構あるじゃないか、これならまだ飲めるな、ノエリア!」

「帰れって――! ああっ! このままじゃアンを見失う! ちぃっ、もう好きにしろ――」


 レンはそう言い捨てると、ユリアをおんぶしたままで、酒場の扉を押し開けて飛び出す。


 左右を確認すると、通りをふらふらと歩いているアンの背中が目に入った。


「おい! アン! ちょっと待て! 俺たちを置いていくな!」


 レンはそう声を掛けると、アンの背を追った。


 少女をおんぶした状態で、別の少女を追いかけているそれなりの大人の男——。

 街ゆく人たちの視線が痛い。


「いや――、俺はだな――。あー、くそ! 言い訳なんかしてても仕方がない!」


 レンは完全に諦めて、周囲の視線に耐えながら、アンの少し後ろをついていくことになってしまった。



(二人の部屋に辿り着いたときには、すでにアンもふわふわしてて意識が飛んでいたように見えたからな――。まあ、なんとか部屋の中に押し込んだ瞬間、ユリアはそのまま部屋の中に消えて行ったし、アンも、部屋に入るなり、すぐに鍵をかけていたようだから、まあ、あのあと侵入者の襲撃に遭うなんてことはなかっただろうが――)


 昨日の夜のことを想い返しながら、また一体、レンの目の前に現れた【蜥蜴戦士《リザード・ウォリアー》】を横薙ぎに切り伏せる――。


(はぁ~。それにしても、今朝返された俺の革袋の残高を見た時は、さすがに、ため息が出たぞ? ロジーナとノエリアに財布を渡すのはこれっきりにしないと、だな)


 結局、昨晩の飲み代は全て、レン持ちになってしまった。


 お開きにするタイミングも失い、ロジーナとノエリアに財布を預けた結果、今日、この『緑水草《りょくすいそう》の迷宮』で『蜥蜴狩り(リザードマン・ハント)』という、周回クエストを行う羽目になってしまったというわけだ。


 蜥蜴人たちのレアドロップ品である、『緑水草の煎じ薬』は、だいたい出現率3パーセントほどだと言われている。


 計算上は、33体ほど狩れば、1つドロップすることになるのだが、もちろん『確定』ではない。


 それがドロップすれば、財布の半分ほどは取り返せるだろうが、33体狩るためには、5階層ほどを往復しなければならない。


(まあ、ドロップしなくても、通常ドロップ品の『蜥蜴の爪』を20個ほど集めれば、財布の3分の1ぐらいは回復させられる――か)


 まあ、今日は特に予定もなく、そもそも資金稼ぎに充てるつもりだったから、別にこの『緑水草の迷宮』でもいいのだが、ここは、稼ぎがいいわりに、冒険者実績を積み上げるには少し「ダンジョンレベルが足りない」のだ。


(はぁ~。背に腹は代えられないってな――)


 昨晩の飲み代が今晩返ってくる保証はないのだ。

    

 しゅばっ――!


 と、レンのショートソードが空気を切り裂く音が響く。

 また一つ、【蜥蜴戦士《リザード・ウォリアー》】の首が落ちた。


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