第55話 『神聖女』『女士官』、洗礼を受ける
「レンどのー! 今夜こそ、お返しをさせていただきますよ!」
「レンさまー! 今夜はきっちりと受け取ってもらいますからね!」
エールをあおって、食事を始めていたレンたちのテーブルに、酒場に入って来るなり真っすぐやって来る影二つ。
椅子に座っているレンを両サイドから挟み、頭の上から覆いかぶさるように顔を近づけて、まるで怒鳴るような声圧で叫んだ二人の「女子」——。
アンとユリアだ。
ちょうどレンの肩口あたりに二人の胸元が寄ってくる感じになって、少し窮屈さを感じる。
「わ、わかったよ、もう! それで? 怪我はないのか?」
と、一応レンは二人の様子を気にかけて問う。
「ふふん! まあ、一刀両断ってわけにはいきませんでしたが、あのぐらい、まだ余裕ですよ――」
「そうですわ! 私たち二人にかかれば、あの程度のエリアボスなど、敵ではありませんでしたわ!」
そうか。それはよかった。
実際のところ、実力的には問題ないと見ていたが、まだまだ冒険者として活動を始めたての二人だ。
ここらで、『一皮むけて』もらわないと、この先はぼちぼちとやるしかないという感じで落ち着くところだった。
だが、今日の二人の、自信と気概に溢れている表情を見る限り、ようやく本物の冒険者になったのだろうと、レンは評価することにした。
「あ、あー、給仕さん! 私たちはこのテーブルに加わりますから、飲み物はこちらに――。私はエールを大ジョッキで!」
と、言ったのはユリアのほうだ。
「な!? ユリア! 抜け駆けとは卑怯だぞ? 私もエールを大ジョッキで!」
と、即座の反応はアンだ。
これは、自信と気概に溢れ――を通り越して、もう興奮状態で半狂乱といったほうがよくないか――?
「かかか! 二人とも、今日は、すがすがしいな!」と、負けずに声を張り上げたのはロジーナだ。
「えー、ほんっとうに、奢りでいいんですかぁ? 今日の食事代は全部レンさん持ちですよぉ?」
と、二人に確認を入れるノエリア。
「もちろんです! レンどのが払うはずだったもの、す・べ・て、私たちが払います! お二人もどうぞ、遠慮なくお召し上がりください!」
と、アンが勝ち誇ったように宣言した。
「昨日は受け取ってもらえませんでしたからね! レンさまにはこのぐらいにして返さないと、私たちの感謝の気持ちを素直に受け取ってもらわなければ、余計に《《たいそう》》なことになるってわかってもらえませんからぁ!」
と、ユリアも一歩も引く様子はない。
「もう、わかったって言ってるだろ? まあ、第2エリアボスの【狂獣鬼の将軍】を討ち取ってきたんだろ? ゲットしたお宝やドロップアイテムはギルドに買い取ってもらったんなら、ここの飲み代を払ってもまだ余裕があるだろうからな――」
レンはそう言って、二人の頭に手を置いて、ぐいと左右に引き離す。
「あっ――」
「きゃ――」
と、二人が驚きの声を上げると同時に、一歩下がった。
「ほら、もう飲み物が運ばれてくるぞ? ここに座るんだろう? 隣のテーブルから椅子を引いて来いよ?」
左右の二人に交互に目を合わせてそう告げるレン。
「あ、ああ、そうだな!」
「あ、はい! そうでしたわね!」
二人がそう言って椅子を二つ引いて来て、レンの左右に置く。
(なんで、俺を挟むように座るんだぁ!?)
「はぁ~~い、おまちどうさまぁ~! エール大ジョッキ、二つねぇ~」
と、これまたタイミングよく飲み物が運ばれてくる――。
(これじゃあ、席次について切り出すタイミングがないじゃないかぁっ!)
「よーし! それじゃあ、ジョッキを掲げろぉ!!」
と、ロジーナが宣言する。
「おう!」
と、ノエリアが続く。
「お、おう!」と、アン。
「オウ!」と、ユリアも続いた。
4人の視線がレンを突き刺すような圧力をかけてくる――。
「おう」
と、レンもジョッキをもたげた。
「本日ぅ、とうとう冒険者としての気概と心得を持つに至ったぁ、将来有望な若手冒険者の未来にぃ――! 乾杯!!」
「かんぱーい!!」
「かんぱーい!」
「かんぱぁーい!」
「かんぱい――」
ガココッと、木のジョッキが打ち合わさる音が響いた――。
******
翌日早朝——。
ユリアはどうして自分がベッドではなく、床に転がって寝ているのかわからなかった。
昨日の夜——。
あの乾杯の後の記憶が、ない――?
(あ、あれ? 酒場のお代は? アンが払ってくれたのよね――?)
まったくもって記憶がないのである。
(いっ!! いったあ~い……。頭が、まだ、ふらついてる?)
部屋を見渡してみると、とんでもない状態になっていることに気付く。
そこかしこに、自分が脱ぎ捨てた装備やシャツ、ローブに、下着までもが転がっているのだ――。
(え? 下着——?)
「わぁ!! 私、なんて恰好で――。こんな、素っ裸じゃない!! 待って、ちょ、ちょっと待って!! まさか、誰かと一緒に部屋に帰ってきてすぐこんな状態になったんじゃないわよね? ね?」
ユリアは慌てて、そのあたりに散乱している、『着るもの』を手繰り寄せるとそれを身に付ける。
(あ、アンは――?)
アンとユリアが今泊まっている部屋は、3部屋続きの共同部屋で、寝室二つとダイニングの構成になっている。アンも一緒に帰って来てるのなら、彼女も部屋にいるはずだ――。
ユリアは、急いで部屋を飛び出すと、もう一つの部屋の入り口をノックする――。
「アン! アン! 居るの!? 入るわよ!」
言い終わるか終わらないうちに、ユリアは扉を開けていた。
そしてそこで目にした光景に思わず目を覆ってしまったのだった。
「ん、ん~。あ、ユリア。おはようございます。どうしたんです? 顔を隠して――」
「い、いいから! 早く服を着て!!」
ユリアが顔を覆ったのは、今しがた見たアンの様相が、数秒前の自分の姿だということに気付いたからだった。




