第51話 『迷宮管理者』、「BP」の読みを知る
レンは最奥の壁に向かって歩を進めた。
今回の最大の目的がそこにある。
壁に近づいていくと、いつもの通り、緑色に光る四角い枠が出現する。『設定パネル』だ。
しかし、これまでの経験から、自身が所有していない『迷宮』の『設定パネル』は、表示され、内容を閲覧することはできても、変更することはできなかった。
『※本『迷宮』の管理権限をお持ちでない為、設定の変更はできません。』
という注釈が決まって添えられていた。
レンは変化がないかどうかを確認するためにここまでやってきたのだが、もし仮に変化がなかったとしても、今日の宝箱やドロップ品、討伐褒賞は「充分」だ。
(A級ダンジョンだからな――そこそこの金額にはなる。しばらくの間また『迷宮管理者』について検証する時間が稼げると思えばいいだけのことだ――)
そう思いつつ、パネルを覗き込む。
『ダンジョンレベル:A 名称:なし BP:32981』
『魔物生成:8』
『特殊魔物生成:8』
『階層ランク設定:比例方式(魔物のみ)』
『宝物生成:9』
『再湧出間隔:最長期』
『鉱物生成:なし』
『ダンジョン成長:停止中』
『ダンジョン内環境項目(照明レベル):8』
『ダンジョン内環境項目(トラップ生成):2』
『ボス部屋の実装:あり(エリアごと)』
『魔物の集団生成:あり(単位:パーティ)』
『その他の項目:なし』
※この迷宮の成長度が最大値に達しています。当迷宮はこれ以上拡張されることはありません。
※本『迷宮』の管理権限をお持ちでない為、設定の変更はできません。
※ビルドポイントを消費して『固有迷宮』と接続できます。接続しますか?(はい/いいえ)
「ん――? なんだって!?」
レンは最後の一行に記されている文言を見て思わず声を上げてしまった。
『固有迷宮』と接続できます――。
そこにはそう記されていた。
『固有迷宮』とは――。
レンが『ハズレダンジョン』攻略の過程で手に入れた『迷宮管理者固有スキル』の一つ、【迷宮回廊顕現】によって設定できる『レン固有の架空迷宮』のことだ。
【迷宮回廊顕現】は、その『固有の架空迷宮』の扉を現実世界に顕現させ、魔物を召喚することができる、かなり強力なスキルだ。
レンが現在設定できる範囲には制限があるが、それでもBランクモンスターである『幽鬼戦士』を扉から数体呼び出すことが可能である。
(その『固有迷宮』と接続するって、どういう意味だ?)
言葉通り受け取れば、固有迷宮とこの揺籃の迷宮が『繋がる』ってことなのだが、いったいどういうふうに『繋がる』のかがわからない。
(やってみるしか、ないよな――)
こういう時は考えてても始まらない。考えても分からないもの、調べようがないものは「触らない」か「試す」かの二択なのだ。
触らなければ危険が生じることはない。だが、試さなければ永久に闇の中ということになる。
レンは意を決して、パネルに指を伸ばした。
そして、「はい」をタッチする。
すると表示が変わり、文章がまた表示された。
――『固有迷宮』に接続するためにはBPを5000消費しますが、よろしいですか?(はい/いいえ)
次はそう問いかけてくる。
(BP? ああ、なるほど、ビルドポイントの略なのか――)
先程の記述に、「ビルドポイントを消費して」とあったことを思い返し、『BP』の読み方が判明したことを今さら理解する。
それにしても、5000ポイントというのは結構な量だ。
なるほど、『漆黒の魔女』が言っていた、「遠い道のり」の意味が少し判ったような気がする。
この『BP』だが、何をすれば増えるのか、どの程度増えるのかについては、詳しく検証できていない。
というのも、どうやら「何をすれば何ポイント」といった具合に、明確な基準が定まっていないらしく、計算ができないからだ。
だけど、結局は何かをするたびに上がっていることだけは間違いなく、それは、高位迷宮に行けば行くほど上がりやすくなることも分かっている。
(ポイントはまた貯めればいい――。やはり、試すしかあるまい)
レンは「はい」をタッチする。
ぴこん――。
といういつもの操作音。そして、文章が表示される。
――『固有迷宮』との接続を完了いたしました。
――新規追加項目:【魔物生成種】が増加しました。
――設定は『固有迷宮』から行ってください。
そして通常の項目表示に戻る。
(BPは――27981……。ちょうど5000減ったな)
それを確認し、レンは『設定パネル』を閉じる。
「どうだ? なにか変化はあったか?」
と、ロジーナ。
ノエリアも少し心配そうにこちらに視線を投げている。
「設定を変更できないのは前のままだ――。やっぱり、自分が所有していない迷宮の設定は変更できないみたいだな。だけど……」
「だけど?」
と、ノエリアが小首をかしげる。
「ああ。少し変化があったところもある。『固有迷宮との接続』というのができるようになっていた」
ロジーナもノエリアも、要領を得ないような表情をする。
そりゃそうだろう。
二人にはまだ、『固有迷宮』のことを話していなかったのだから。




