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ハズレダンジョンから始まる祖国再興――亡国王子は『迷宮管理者』を継承する。  作者: 永礼経


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第49話 『迷宮管理者』と『女仕官』、『迷宮』をゆく


「ふぅ、おつかれさま。このレベルの魔物が出現するここに観光だなんて、な――」


 レンは思わずそう呟いた。それを聞いたロジーナが、


「あの速度で襲われたら、さすがにA級でも手こずるだろうからな。それをB級冒険者のパーティで、しかも、複数の依頼人を護衛しながらなんて、さすがに身の程をわきまえないにも程がある――」


と、応じる。


 『迷宮』にはそれぞれ、ギルドが定めたランクが付けられている。

 この中級ダンジョンの推奨レベルは『A』だ。


 しかし、A級冒険者でないと立ち入れないというわけではない。

 『迷宮』の入り口全てに衛士が配置されていて、入場者を確認しているわけではないからだ。


 つまりは、来るもの拒まず、が、一般的な『迷宮の仕様』となっている。


「――さて、『ゆりかご』も見たことだし、進むか……」


 レンたちの今回の目的地はここではない。

 この『揺籃の迷宮』の最下層、第30階層にあるはずの『設定パネル』なのだ。


 レンはそう言うと歩を進める。

 

「え~、もう少し眺めていたいのに~」


と、ノエリアが少しぐずるが、ノエリアのこの物言いはいつものことで、口ではそう言いながらも、歩き始めたレンとロジーナ二人の後を追ってくる。


 この第15階層は、この『部屋』一つだけで、レンたちが下ってきた階段のほぼ正面の位置に次の階層への階層間通路の口があいている。


 レンたちはそこからさらに下層へと下っていった。



******



「なんという切れ味だ――」


 アンは正直驚愕していた。


 今朝、レン殿から教えてもらった武器屋で見繕ってもらった新しいロングソードの切れ味が「異常」だからだ。


 特に「銘」が付いているわけではない量産武器だと、店主はそう言っていたから、自分がこれまでに使っていた『王国兵支給剣』とさほど差はないだろうとそう思っていたのだが――。


「今日のアンは、なんだか、すごく戦いやすそうな感じがしますね? やっぱり、新しい剣の?」


 ユリアさまがアンにそう告げる。


「はい。冒険者たちが使っているごく一般的な剣だと武器屋は言っていたのですが――。正直、これほどの剣を皆が使っているとしたら、少し、心配なことがあります」

「それはどうして? 武器の性能が良ければ、戦闘も楽になるのでしょう?」


 その通りだ。


 しかし、その分、自分が「やれる」のだと錯覚を起こしてしまう可能性もある――。


 アンは、武器というのは、あくまでも自分の技術に適合《あ》ったものを使うべきだと考えている。

 職業兵士としての経験からそう思うに至ったわけだが、もちろん切れ味のいい武器は重宝する。しかし、それに頼みがちになり、技術の修練を疎かにすると、途端に、武器は自分自身に牙を剥《む》いてくる。それはそうだ。技術の鍛錬というものは、毎日日々コツコツと積み上げるもので、手を抜けばどんどんと落ちていくものだからだ。


 おそらくのところ、最初は切れ味のよかった武器も、自身の技術レベルが落ちていけば、その性能を十分に引き出せなくなっていく――ということが起きる可能性は否めない。


「ユリアさま――。じつはそれほど単純なことではないのです。そうですね――。たとえば、ユリアさまが、効果も使用魔力量も同じ魔法で、より詠唱句が短いものを習得されたとしたら、どちらを使用されますか?」


「それは、短い方でしょうね。その方が効率的だもの――」


「ですよね。ですが、なんらかの状況により、その短い詠唱句の魔法を使えない時は、どうします?」


「元の長い方の魔法を使うしかないわね――」


「それまで、短い詠唱句の魔法をずっと使ってきておいて、いきなり長い詠唱句の魔法を使ったら、前と同じ効率を発揮できるでしょうか?」


「あ――。短い詠唱に慣れて、長い詠唱の時にもたつく可能性は、ある、わね」


 そう言ったユリアの表情が、ぱぁっと光が差すように明るく輝く。どうやら気が付いてくれたようだと、アンも察した。


「わかりましたわ! 普段いい武器を使っていたら、それに慣れてしまって、その武器を使えなくなった時に同じ戦果を上げられない、そういうことを言ってるのね?」


「はい、その通りです」


「でも、それがわかっていれば、普段から、長い詠唱の方の魔法もしっかり使って、精度を落とさないようにしないといけないわね。ふうん、そんなふうに考えたことなんて、無かったような気がするわ――。ありがとう、アン! 私も気を付けるわ」


 このことさえ理解しておけば、「良い武器」は自分を裏切ることはない。

 むしろ、自分の助けとなり、危機から逃れ出るためにともに戦ってくれることだろう。  


「さあ、行きましょう。昨日よりペースは早いですが、目的の次のボス部屋まではまだありますから――」

「ええ、この先は、わたし、使用する魔法を少し考えながら行動することにするわ」


 アンは、ユリアの素直で聡明なところに助けられていると、改めて思うに至ったのだった。



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