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ハズレダンジョンから始まる祖国再興――亡国王子は『迷宮管理者』を継承する。  作者: 永礼経


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第48話 『迷宮管理者』、『ゆりかご』に到達する


 階段状の通路をひたすらに下る。


 『迷宮』特有の仕様であるが、この、階層間通路——大抵は階段状である――に、魔物が湧くことは無い。


 レンたちはただもくもくと、数分かけて長い階段を降り、ようやく次の階層に到着した。

 15階層——『ゆりかごの間』だ。

 少しひんやりするその「部屋」に足を踏み入れた瞬間、ノエリアが感嘆の声を上げた。


「うはぁ! たしかに、これは絶景ですね!」


 レンたち3人の眼前に広がる空間——おそらく直径にして100メートルほどの巨大な半円形のドーム状の部屋——の天蓋に、まるで、ハンモックのような形状の岩がぶら下がっている。

 そして、その揺籃の脇から、ざぁざぁとかなりの水量の滝が落ちていた。


 これほど大きな空間を持つ『迷宮』は、結構レアな部類に入る。

 たいていの場合、細い通路と幾らか広めの「部屋」が連なっている形状の場合が多く、その場合、出現するモンスターもある意味、「限定される」。


 つまるところ、『部屋の大きさ』以上の大きさを持つモンスターが現れることは無い――。


 しかし――。


「ノエリア! 頭上に気をつけろ! どこかに潜んでいるはずだ!」


 ロジーナは、ノエリアの背中に声を掛けつつ、その背中を追い越して前に出る。すでにロングソードを抜き放ち、両手持ちでいつでも打ち込めるように構えを取っている。


 レンもショートソードを抜いて構えを取りつつ、頭上をぐるりと見まわす。


 部屋全体の明度はそれほど暗いわけではない。が、天井まで50メートルはあろうかという空間だ。さすがに天井付近や滝が落ち始める『滝口』のあたりはよく見えない。

 さらに流れ落ちる水の量の多さ、高さも相まって、少し先に広がる「滝壺」から立ち込める水煙と莫大な音量の水音のせいで、周囲の情報が遮断される――。


(ちっ、本当に厄介な場所だ――)


 レンは舌を打った。


 この場所に出現する魔物——。それは、『翼獅獣《マンティコア》』だ。


 翼の生えたトラ、あるいはライオンのような魔獣で、その四肢の爪による斬撃と牙による噛みつきがメイン攻撃となる。


 が、とにかく動きがすばしっこい。そのうえ、空中を自由自在に飛び回る。厄介な魔物だ。


「――いた! あそこっ! 『ゆりかご』の縁を歩いています!」


 最初に発見したのはノエリアだった。


 レンもロジーナも上を見上げる。


「いた――。しかし、あの位置じゃあ攻撃のしようがないが――」


 レンも『翼獅獣《マンティコア》』を見つけてそう言った。


「心配するな、もうこちらをロックオンしてやがる――」


 ロジーナは剣を構えたままでそう告げた。


 次の瞬間——。

 『翼獅獣《マンティコア》』はバタタっと羽根を翻すと、滝口から空中へとジャンプした。そしてそこから頭を下へ向け、滑空態勢を取る。


「来るぞ! まともにぶつかったらさすがに無傷では済まない! まずは躱《かわ》すことを最優先で! いいな、二人とも!」


 ロジーナが先頭でそう叫ぶ。

 レンとノエリアの二人も、すぐに躱せる姿勢を保ちつつ、『翼獅獣《マンティコア》』の突進軌道を警戒する。


 『翼獅獣《マンティコア》』はどんどん加速しながら、滝に沿ってほとんど真っ逆さまに滑空している。

 あの速度のままこちらに体当たりを仕掛けるつもりか。


 滝壺の手前で急に水平に向きを変え、速度を落とさないまま、こちらに真っすぐ向かってくる。


「まずは、躱せ!」とロジーナが叫ぶ。

「おう!」「はい!」と二人が応える。


 右だァ――!!


 ロジーナがそう叫んで、右へ跳ぶ。レンもノエリアもほぼ遅れなく右へ跳んだ。


 間一髪、『翼獅獣《マンティコア》』は3人の脇をかすめるように通り過ぎ、少し先に着地した。


「よし!! 攻撃ぃ!」


 ロジーナが反転して一番に駆け出す。あとにレンが続き、ノエリアはその場で短杖を抜き、詠唱句を唱え始めた。


「凍れ凍れよ――。大地よその冷たき吐息を漏らせ――。凍てつく氷霧を立ち昇らせ、かのものの足を絡めとれ――。『氷霧結晶縛《クリスタル・ミスト・バインド》』ぉ!!」


 ノエリアが詠唱句を唱え終わると同時に、『翼獅獣《マンティコア》』の足元から白い靄が沸き起こりあっという間に『翼獅獣《マンティコア》』を包み込む。


「やった! 成功ぅ! 持続時間は1分ほどです!!」


 ノエリアの指示が二人の耳に届く。

 そして、それだけあれば、充分だと、二人とも同時に口角を上げた。


「レン! 遅れるなよ!」

「ふん! いってろぉ!」


 ほぼ二人同時に『翼獅獣《マンティコア》』への攻撃必中の間合いに入ると、その手に持った刃が翻り、銀色の光がきらりと閃く。


 『翼獅獣《マンティコア》』もこれに応じて爪攻撃を繰り出してくる。が、ノエリアの魔術式の効果で、行動速度が大きく削られている。


 決して遅くはない。が、この程度の速度なら、二人の剣戟の方が速い。


 おおおお!!


 と雄たけびを上げながら二人がほぼ同時に、『翼獅獣《マンティコア》』に斬撃を命中させた。


 さらに二撃目は、レンの方が若干早く繰り出される。剣が短い分レンの方の速度が速かったということだろう。


「くらえぇ!!」


 レンは『翼獅獣《マンティコア》』の喉を掻き切るように水平に剣を滑らせた。


「うらぁ!!」


 レンの剣戟で血飛沫が舞うと同時に、ロジーナの剣が大上段から真っ直ぐ振り下ろされる――。


 ざんっ!


 ロジーナの剣が『翼獅獣《マンティコア》』の頭を縦に分断した音だった。



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