第47話 『迷宮管理者』、この世の『真理』を考えさせられる
レンたちが『揺籃の迷宮』に入ってから、そろそろ2時間ほどが経過する。
現在の階層は第14階層。
件の観光地「ゆりかご」の一歩手前である。
このダンジョンに出現する魔物は、いわゆる中級モンスター類と呼ばれるものたちで、その代表的なものとしては、幽鬼類だ。
レンがサウスリーゼからの帰り道、帝国の兵士たちを撃退するために召喚した『幽鬼戦士』は、その中でも上位種に分類される。
その他には、『巨大サソリ』や『巨大ムカデ』のような大型節足類、リザードマン類などが出現する。
魔物ランクでいえばB~C級で、このあたりのモンスターを『中級』とひとくくりに呼んでいるのが通俗的だ。
ちなみにA級を『上級』、S級を『超級』、逆に、下位ランクはD・E級を『下級』、F級を『初級』と呼んでいる。
この魔物ランクに合わせて、冒険者の呼び名も『上級冒険者』といえば『A級冒険者』のことを指すような使われ方もするようになった。
この世界の冒険者界隈の『ランク付け』は、すべて、この魔物ランクが基準になっているといって差し支えない。
蛇足ではあるが、S級の上には、超常的存在という意味合いも含んだ「SS級」というものも、一応あるにはある。
が、現在そのようなランクに分類される魔物や冒険者、迷宮も存在していない。
つまり、レン、ロジーナ、ノエリアの3人の『S級』冒険者は、現在において最上位ランクである『超級』冒険者ということになる。
「さすがに『S級』が3人そろえば、この程度の魔物たちでは相手にならないな……」
レンは、剣に付いた血糊を払いながら呟いた。そばには『巨大ムカデ』の亡骸がまだ横たわっている。
その昔、通称『観光ツアー』と呼ばれた、「ゆりかご」への往復道中の護衛任務が一時期流行ったことがあるらしい。
上中級冒険者あたりが護衛について、「ゆりかご」を見学に行くという『依頼』のことで、サウスリーゼとレジルトの冒険者ギルドのイベント企画だった。
参加者も結構な数あったようで、かなり盛況だったのだが、ある時を境にぱったりとその人気が消滅した。
ロジーナがレンの言葉尻を捉えて口を開く。
「――だが、A級だと少し手こずるか、あるいは、ダメージを気にしながら戦わないといけないレベルだ。こんなところに『観光』だなんて、人間というのは本当にいつの時代も身の程をわきまえない生き物だと私は思うぜ?」
ロジーナが言いたいことをレンももちろん「知っている」。
その『観光ツアー』が消えたのにはもちろん理由がある。なんてことはない、『事故』が起きたからだ。
B級冒険者が個人的にその『依頼』を受けた。
依頼主は、一般町人の親子4人連れだったらしい。
そのB級冒険者は、ギルドを通さず、格安ツアーを一度成功させたことがあったらしく、その依頼が2回目だった。
そして、事故は起きるべくして起きる。
結局、その家族連れ4人と、依頼を請け負ったB級冒険者のパーティ4人が全員死亡という結末となってしまった。
「――『事故』か。起きるべくして起きたといえばそれまでだが、依頼主の方はそいつがA級冒険者を手配すると聞かされていたらしいな」
と、レン。
「え~、酷い話ですね。なんだか、その家族がかわいそうな気もしますけど?」
とは、ノエリアだ。
「――この世はすべて自己責任だ。でなければ、誰かが誰かを無償で守らなけりゃいけなくなる。太古の昔の奴隷ですら、無償ではなかったのだ。もし、責任を請け負うなんて言うやつが現れたら、真っ先に疑ってかかるべきなのさ」
ロジーナは吐き捨てるようにそう言った。
レンは、少し話が大きくなった気がしたが、ロジーナの言っていることは『真理』であると、そう思える。
でなければ、レンに降りかかった不幸に対する苛立ちを持って行く場所がない。
「――そうだな。ロジーナの言うとおりだ。だから俺は、強くなるとそう決めたんだからな」
そもそもレンが冒険者として生きることを選んだのは、その為である。
――強くなる。
その為には経験と場数、知識と知恵、力と運が必要だったし、これからも不断の努力を怠らないことだ。
(日々前を向いて前進する、たゆまぬ努力こそ、強さへ到達する唯一の方法なのだから――)
結局は「人間」なんてちっぽけな存在が、3倍も4倍も大きい魔物を倒すためには、それ以外に正しい道はない。
しかし、それさえ怠らなければ、ある程度のレベルの強さには到達できるのが、「人間」という「生物的潜在能力」なのだということを過去の先輩冒険者たちが身をもって示し続けてきたのだ。
「あ、レンさん、下層へ下りる階段ですよ!」
ノエリアが、今倒したばかりの『巨大ムカデ』が消滅した先に、いち早く下層へ下りる階段を発見して叫んだ。
「いよいよ、『ゆりかご』へ到着だな――。行くか――」
レンはそう告げると、二人の間を抜けて階段へと向かう。
「はい――」
「だな――」
と、左右の二人もそう答えると、レンのすぐ後に続いた。




