第46話 『迷宮管理者』、サウスリーゼ王国の迷宮へ向かう
翌日――。
今日は、久しぶりのパーティ行動だ。
レンとロジーナ、ノエリアの3人で今向かっているのは、隣国サウスリーゼとこのレジルト王国の国境を越えたすぐ先にある『揺籃の迷宮』である。
『揺籃の迷宮』――。天井からぶら下がるあるものが、まるで「ゆりかご」のようだということからつけられた名前だそうだ。
「それで? いまさら中上級の、しかも、他人所有のダンジョンに行く理由はなんなんだ?」
ロジーナが無遠慮に、レンに向かってそう質問する。
「ああ、中級ダンジョンなら、最奥の部屋までそんなにかからないだろう? このあいだ『ハズレダンジョン』で追加された項目の検証だよ――」
レンが言っているのが、『迷宮管理者』のことだというのはロジーナも理解しているようで、
「そういえば、ヘンな数字が表示されるようになったとか言ってたな」
と、合点する。
「まあな。それに、『コンプリート・ボーナス』がなんなのかも結局はっきりしていない。お前たちがいない間、ソロで自分所有ダンジョンに潜ってみたが、その数字の表示以外に変わったところはなかった」
レンは実際、『青藍の迷宮』をBランク迷宮に「加工」するために、その最奥の部屋までソロで潜ってみたのだが、設定項目や固有スキルなど、『迷宮管理者』適性にとくに変化は見られなかった。
もちろん、『コンプリート・ボーナス』が、ただ単純に、その数値が表記されるようになることだけなのかもしれない。
が、それを確かめるためにできることは試し、考えられることは検証する必要があるだろう。
「もし、他人所有のダンジョンでも同じようなことができるようになってるとしたら、それってもう、異常スキルですよね?」
と、ノエリアが言った。
まったくその通りだ。
もしそんなことになってたら、世の中にある全ての『ダンジョン』を好きなように作り替えることができるようになってしまうわけで、それはもう、世界を支配しているのに等しい力となることだろう。
さすがにそれはないだろう――。いや、そんなことがもしあったら、俺はこの能力を与えられたことを一生呪う。
(俺は冒険者なんだ。自分が好きに設定を変更できる『迷宮』しかない世界になってしまえば、俺の冒険者人生は「詰み」だろ――?)
「怖いことを言うな、ノエリア。それだけは何があっても無いことを祈る」
「ええ~、全部レンさんが仕切ってしまえば、あっという間に祖国再興もできますよ?」
それも言うとおりだ。
この世界で今拡大を続けているディガルゼン帝国は、ダンジョン開発にいち早く力を注ぎ、新規ダンジョンを発掘しては、その探索・採取活動を振興し、国力を押し上げ続けている。
それほどに、ダンジョンから『掘り出される資源』は価値があるのだ。
本来、冒険者たちが目的とする『迷宮』産出物の主要なものは、魔物が落とすレアドロップ品や宝物箱の中身などだ。
だが、帝国による『迷宮採掘』は、鉱物の方が重要視されている。
特に『レア鉱物』と呼ばれる鉱物群は最重要採掘対象とされており、そのレア鉱物を使用した武器・装備こそが、帝国軍の強大な軍事力の基盤となっているというわけだ。
(帝国内の冒険者は、『冒険』から切り離されて、ただの『労働者』となってしまう。まあ、報酬は結構高めで、収入も安定していることから、それを好む冒険者も結構な数いることも事実なんだが――)
それでも、『冒険者』レン・シュタルトとしては、『それはそれ』という気持ちがぬぐえない。
実際、その『安定高額報酬労働』の傍ら、多くの者が魔物に襲われて命を落としているらしいとも聞く――。
実情を見たわけじゃないから、一概に良し悪しを判断するわけにはいかないが、やはりレンとしては、どうにも『受け付けられない』何かが引っ掛かっている。
「あれだな――、レン」
ロジーナが視線の先を指さしてそう言った。
切り立った崖の麓に大きく口を開いている黒い裂け目――。
『揺籃の迷宮』の入り口だ。
「『ゆりかご』、楽しみですね!」
ノエリアが嬉々として陽気に笑っている。
『迷宮』の名前になるような「名所」だ。
発見された当初は、「観光ツアー」すら組まれてたって話をレンは聞いたことがある。
「ノエリア、『ゆりかご』は15階層だぞ。俺たちの目的地はそのずっと先の30階層なんだからな?」
一応レンは釘を刺す。
「わかってますよ! 別にピクニックするなんて言ってないでしょ?」
「入るぞ、二人とも」
レンにそう応えるノエリアの言葉に被るように、ロジーナが二人に促した。
二人はそれを合図に、気を引き締めた。




