第44話 『迷宮管理者』、冒険者仲間に絡まれる
酒場の椅子に腰かけ、エールを一口煽ると、レンは、ペンダントを握って念じる。
目の前に浮かび上がる『迷宮管理者』のパネル――。
「メーラー」だ。
(やっぱり、返事はなし……か)
レンは『ウィロックの酒場』に一足先に戻っている。ユリアとアンの二人も、じきに帰ってくるだろう。
あとでわかったことだが、パネルに表示される文字列は、『メッセージ』と『通知』ともう一つ――『BP』の数値だった。
(現在のBPは、28012か――。結構増えてきたけど、なかなか取り戻せないものだな)
4日前、『ハズレダンジョン』の最奥で、「メーラー」を起動したときに失った10000ポイント……。
結構な「出費」となったようだと、今さらながらに思う。
(しかも、返事はないし……)
『漆黒の魔女』マアリ・ド・ジュセルあてに送ったはずの「メッセージ」に対する反応は、結局来ないままだった。
実はこの数日の間にレンはレンで進展があった。
まずは、この「メーラー」に『通知』が届くようになったこと。ダンジョン内部で「ある特定のイベント」が発生すると『通知』が届く。
ボス部屋の扉が開かれた時も『通知』が来るイベントの一つだ。
あとは、冒険者が「管理ダンジョン」に入場した時などにも『通知』がくる。
ぶるっと一瞬、ペンダントが振動した。「ペンダントの通知音」を切る代わりに、震動することを選択できることが判明してから、その設定にしている。
「メーラー」の存在を知るまでは、『銀玉』回収時にのみペンダントが反応するものと思っていた。だが、「メーラー」機能を使うようになってから、『通知』が届いた時にも振動することがわかった。
(『石牢の迷宮:退出2名』――か。ユリアとアンも無事に脱出したようだ)
表示を見て、レンはほっと胸を撫でおろす。
(とにかく、無事に終わってよかった――)
なんだか、子供を想う親の気分のようだとそう感じる。もちろん、レンに子供はいないが、もしいればこんな感覚なのかもしれないと、そう思ったのだ。
BP――。
いまだに読み方は分からない。何かの頭文字なのだろうが、うしろの「P」は、「ポイント」とか「パワー」の「P」として、前の「B」に至っては全くわからないと言っていいだろう。
ただ、何かをすると減ることがあるのは分かっている。
例えば、さっき使った『階層転移』。これの使用には「BP300」が消費される。
この4日間での増減はプラス1500弱――。
マアリの言った通り、BPの乱用には注意しなければならないような気がしている。
ただ、レンが直接獲得しなくとも、誰かが「ダンジョン」内で、銀玉出現イベントをこなすと、このBPが増えることも分かっている。
実際、今日はほとんどレンは何もしなかったにもかかわらず、BPの数値は朝と比べて200ほど増えているから、さっき使用した『階層転移』の分の300を差し引けば、一日でBP500ほど稼いでいる計算になる。
(『青藍の迷宮』の開放の恩恵が表れているな――)
レンが「調整」した、中級者向けダンジョンである『青藍の迷宮』。
ランクBのダンジョンだが、入場者数は徐々に増えつつあるといったところだ。開放してまだ2日目なので、まあ、こんなものだろう。
これから徐々に口コミが拡がって、少しずつ入場者も増えていくと勝手にそう思っている。
レンは、ふぅと息を吐くと、ペンダントを懐にしまう。
「よお、レン。なんだよ、その溜息はよ?」
「ペンダントなんか握りしめて、溜息なんて、女絡みか?」
「おいおい、レンが女絡みってそんな浮いた話は聞いたことがないぜ?」
ハハハハ――、と、3人の冒険者がレンをあざ笑う。
「モブ、カス、ザコ――。三馬鹿トリオかよ。戻ってきたのか――」
「だ~れが、モブだ!? 俺はボブだ! このヤロウ、わざと言ってやがるな!?」
「ガスリーだ!」
「ザックだ!」
この三馬鹿トリオ、こんなだが、結構な腕前の冒険者たちだ。たしか、しばらくの間、サウスリーゼへ遠征していると、ギルマスのレスターから聞いていた。
「――ちっ。まあいい」
(いいのかよ?)
「それより、レン。サウスリーゼももうヤバい。帝国軍が王城のすぐ手前まで迫ってやがる――」
と、「モブ」改め、ボブが言った。
「そう、か――」
と、答えるレン。
「ああ、ここも時間の問題かもしれねぇな――。お前はどうするんだ?」
どうする――というのは、ここが帝国に支配されたらという意味だろう。
「さあな――。レスターにはいろいろと『借り』があるからな――」
「そうか――。俺たちは、もしかしたら『移る』かもしれねぇ。まあ、どこかでまた出会えたら、そん時はまた酒でも飲もうぜ」
そうボブは言い残すと、レンのテーブルから去っていき、カウンターのウィロックに話しかけに行った。
(サウスリーゼ、か――)
レンは、昔の記憶が蘇るのを、ぐっとこらえ、それを飲み込むようにエールをぐいと喉にながし入れた。




