第43話 『女仕官』と『神聖女』、パーティーになる
「くぅっ! こいつ、かなりやりにくい――」
アンは少々手こずらされていた。
今斬り結んでいる相手はボス部屋の主だ。
『豚男戦士』といえばよいか――。
体躯は2メートル30センチほど。
アンも女にしては背の高い方だが、それでも170センチほどしかない。そのため、相手の攻撃が全て上から振り下ろされてくることになり、まともに受ければかなりの衝撃を伴う。
加えて、この『豚男戦士』の得物は、レンジは短いが、重量のある、片刃戦斧であるため、アンの剣でまともに受ければ折られてしまいかねない。
「アン! 相手の速度はそれほどでもありません! 相手をよく見て、まずは下から崩してゆくのです!」
後方からアンと豚男戦士の戦闘を見守るユリアの声がボス部屋に響く。
(まったく、よく見えておられる――)
アンは、ユリアの的確なアドバイスを聞いて、ユリアがいかにこの状況をよく観察しているかを理解する。
もちろん、アンもこういう相手と戦う時の論理は理解している。
実際、これまでの兵科訓練の時などには、アンよりも大きな男たちを打ち負かしてきたこともあるのだ。
(――とはいえ、さすがにこれだけ背が高くて巨体なものとは戦った経験がなかったからな……)
面食らった――というのが本当のところかもしれない。
「少しぐらいの傷なら、私がすぐに癒してあげます! 要は、致命的な攻撃さえ受けなければ、問題ありません!」
アンの背中にユリアが必死に激励している声が届く。
(そうだった――。私は今、一人じゃなかったんだった――)
アンは自分が思いあがっていたことに今気づかされた。
(何が「ユリアは私が守る」――だ。守られているのは私の方じゃないか)
戦斧の攻撃は、それ程複雑なものではない。ただ、重いだけなのだ。
その「重さ」に知らず知らずのうちに委縮している自分がいた。
自分がやられれば、ユリアを守れないと、そう思いあがっている自分の存在がそうさせていたのだろう。
(なんとも、情けない話だ――。今日が初陣のお嬢様に勇気づけられるとは――)
アンの中で、何かが弾けたような、そんな感覚が沸き起こる。
「ユリア!! これから少し、無茶をする! 生命維持は任せた!! はああぁあ!!」
アンは、気合を発し、豚男戦士の懐に飛び込む――。
「あ――!! そんな正面から!!」
ユリアの悲鳴に似た叫びが聞こえた。
が、今のアンは、もう『怯えた初級冒険者』じゃない――。
(仲間が背中を守ってくれる――。これは、兵団と同じだ――)
「大丈夫です!! 私を信じて下さい!! やあああ――」
上から振り下ろされる戦斧の刃筋を見て、最小限で躱す。そしてその返しに斬り上げ攻撃を放つ――。
ぶしゅぅ—―!!
と、これまでで一番の手ごたえがアンの両腕に伝わってくる。
ぶもぉおお!!
という雄叫び、速くなる戦斧の斬撃――。
アンは、身を削がれるギリギリのラインを見切って、躱しては反撃、躱しては反撃を繰り返す。
がりっ!! と、アンの肩当て装備の一部が弾けた。
大丈夫、腕はまだ動く――。
「なんの!! やあ――!!」
アンはさらに踏み込むと、横一線に豚男戦士の腹を薙ぐ。
「治癒――!!」
アンの肩の痛みがすぅっと遠ざかる。肩当ての弾けたところは戻らなくとも、痛みは全く感じない。
ユリアの治癒魔法のタイミングが抜群で、痛みを感じたのはほんの一瞬のことだった。
「これで、とどめだぁああ!!」
アンはさらに踏み込んで、大上段から、豚男戦士の顔面目掛けてロングソードを振り下ろす――。
が、ががっ!! という肉と骨を切る感触が両腕に伝わってくるが、アンはそのまま構わず、腰を落として剣を振り切る。
ズダァアアン!!
と、部屋中に響く衝撃音は、豚男戦士が真っ二つになって地面に崩れ落ちた音だった。
「やった? たおしたの?」
と、ユリアの声が背中から聞こえてくる。
アンは振り返ると、
「ええ、倒しました。ユリアの『治癒』のタイミングが絶妙過ぎて、痛みによる遅延が発生しなかったおかげで、途切れなく最後の一撃が放てました。素晴らしい援護でしたよ、ユリア」
と、仲間の援護に感謝の言葉を返したのだった。
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(大丈夫だった、か……)
レンは大鉄扉の陰に隠れて、ボス部屋の中の様子を見ていた。
もしもの時はさすがに寝覚めが悪いと思い、一応、様子を見に来てみたのだが、どうやら取り越し苦労だったようだ。
二人は、今日はここまでにしようとか言ってたから、ボスのドロップ品の確認や、この部屋の宝物の探索を終えたら引き返してくるだろう。
(ここに居たら、さすがに気付かれるな――。戻るとするか――)
レンはそう決断すると、来た道を帰ることにする。
(あ、しまった。帰りに魔物を狩ると、怪しまれるよな? 仕方がない――少しポイントは使うけど、『階層転移』を使うか――)
レンは小声で、『階層転移起動――』と、詠唱句を唱え、目前に現れた「黒い渦」に身を投じた。




