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ハズレダンジョンから始まる祖国再興――亡国王子は『迷宮管理者』を継承する。  作者: 永礼経


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第42話 『神聖女』と『女仕官』、『迷宮』に潜る


 『石牢の迷宮』――第3階層、ボス部屋。


 ユリアとアンの二人は、ここまで順調に踏破してきた。


 そして、行き止まりの大鉄扉を仰ぎ見る――。


 「迷宮」への挑戦は初めての経験だが、「迷宮の仕様」については、訓練課程の座学で、ある程度教わっている。


「どうやら階層ボスの部屋のようです。ユリア、魔力の方はどうです?」


 アンがユリアにそう聞いてくる。


 ここまでの間も、こうして都度都度確認してくれるのは、心配というより、性分というところだろうとユリアも理解し始めている。


(アンって、実はけっこう慎重派だったんだ――)


 ユリアはここまでの攻略の過程で彼女の「性分」について、思いなおしているところだった。

 しかし、よくよく考えてみれば、サウスリーゼを脱出したあの夜、レスラに到着してからの彼女の行動は結構、慎重だったかもしれないと思うようになっている。


 やはり、脱出の時はかなりあわただしかったこともあり、護衛に就いていた近衛兵団長《ヒューゴ》や仲間たちが帝国兵の足止めの為に命を投げ出したりと、彼女にとっても「慎重に」行動している余裕はなかったのだろう。 


「ぜんっぜん、大丈夫ですよ、アン。初日だし、区切りのいいところまでは進んで、レンさまにご報告したいところですわ?」


「――そうですか。そうですね。私も体力に余裕がありますから、この部屋までということでもうひと頑張りしましょうか。ユリアさ……、あ、ユリアは少し引き気味で、決して私の前に出ないようにしてください」


「はいはい。わかってますわ、お姉さま。お姉さまが敵に集中できるように、しっかりと後方から見ていますから安心してください」


と、アンの念押しに返すユリア。

 アンが緊急事態にでもならない限りは、基本的にはユリアは「後衛」に徹するつもりでいる。


 冒険者ギルドの訓練課程を、レンさまがどうしてわざわざ受講するようにと言ったのか――。その意味は、訓練課程を修了した今なら、充分に理解できている。


 訓練課程に参加していた訓練生たちのレベルをみれば、アンの剣術が一枚どころか二枚も三枚も格上であることは、剣術に詳しくないユリアにも一目でわかるほどだった。

 それに、ユリア自身の魔法の知識も、訓練生たちとは比較にならない程高いことも知った。


 そんな、いわゆる「初心者たち」に混じって訓練を受けることになんの意味があるのかと、少し疑問に思うところがあったが、それは、座学と実技訓練を繰り返しているうちに払拭されていった。


(訓練課程には、冒険者として知っておくべき、『初歩の初歩』の知識が目一杯詰め込まれていたわ……)


 おそらくのところ、実技訓練の方に手一杯の「初心者」たちは、そんな大切な知識を半分も理解できていないのではないかと思う。

 それに対して、実技訓練に余裕のあるアンやユリアは、その分、先輩冒険者たちの過去の経験に基づく知識や知恵について、しっかりと理解しようという心構えを持って聞くことができていたことだろう。


 前後衛の隊列の考え方や役割、ダンジョンにおける基本行動指針、トラップに関する基礎意識、接敵位置や状況における立ち回り方法など、それはそれは懇切丁寧に教官たちは説明してくれていた。


「ユリア――。ここまでの3層を攻略してきて思ってるのですが、レン殿は決して私たちに楽をさせて儲けさせようなんてことは考えておられないようです――」


「ですわね。私も、訓練課程で学んだことを試されているような、そんな気がしていますわ」


 アンの言葉にユリアも同意見であると応じる。


「つまり、このボス部屋の敵ですが、決して侮ってはならない――。そんな気がしています」と、アン。

「そうね。同感です。気を引き締めてかかりましょう」と、ユリアも返す。


「はい」

「では――」

「行きましょうか!」

「ええ!!」


 二人は大鉄扉に手を添えると、ぐっと力を入れて押し開けた。



******


ピコン――。


 レンの胸のペンダントが反応した。

 とはいえ、こんな屋外でいつもいつも「音」を鳴らして回るわけにはいかない。

 そこは『サイレントモード』に設定してある――。


(迷宮を二つ公開してるからな。「通知」を制限してないと、ずっとピコピコうるさいからな――)


 『迷宮管理者』権限にもレベルとかランクというものがあるようだというのは、なんとなく理解している。

 ただ、明確な数値や表示がなされるわけでないので、「今のところは」そうなんだろうなと推測する程度しかできないが。


 その代わりに、ことあるごとに、様々な設定項目が実装されていく。

 この『サイレントモード』もその一つだった。


 レンのペンダントが鳴るタイミング――。それは、最初、あの『銀玉』が出現して消える時だけだった。

 その後、ボス部屋が実装できるようになってからは、ボス部屋の扉が開かれた時にも『銀玉』が出現するようになった。


 自分ひとりで潜っている時は、音を鳴らしても別に問題ない。

 が、ロジーナとノエリアと潜っている時は、しばらくの間ピコンピコンと鳴っていたため、説明せざるを得ず、


「魔物を倒したり、宝箱を開封したり、そういう何かが起きた時に鳴るみたいだ――」


と、言っておいたのだが、先日、『漆黒の魔女』に『銀玉は見えているのか』と聞かれた後、二人には事実を話してある。

 その『銀玉』はレンにしか見えず、どうも、あの不思議な『数値』と関係がありそうだということも一応話しておいた。


(『通知』――だな)


 レンはペンダントを取り出して、指でタップする。


『『石牢の迷宮』第1エリアにて、ボス部屋の扉が開かれました』


 ペンダントから浮かび上がった光の中に、そう記述されているのが目に入った。


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