第41話 『迷宮管理者』、『ギルド長』に詰められる
レンは二人がレンの依頼を受けてくれて、ほっと一安心した。
実のところ、二人の訓練の様子をレスターに聞いていたのだ。
酒場に来る少し前――。
レンは『石牢の迷宮』の「調整」を終え、ギルドカウンターへと向かった。
目的はさっき話した通り、『直接依頼申請書』を発行してもらうためだ。
当初は、もしよければ二人にやってもらい、乗り気でないのなら、通常依頼にして、探索ダンジョン登録するつもりでいた。
要は、二人に絶対にやってもらおうなどと思っていたわけではなかったのだが……、状況が変わることになる。
「あ、レン様。マスターがお話があると伝えてくれと――」
受付嬢がレンがカウンターに立ち寄った際そう声を掛けてきた。
「レスターが? なんだろう?」
そう訝しんでギルマス部屋へ向かう。
「入るぞ、レスター」
そうぶっきらぼうに扉の前で声を掛け、扉を開け放って中へ入る。
「ああ、レン。すまんな、話というのは「あの二人」のことだ――」
と、レスターが切り出す。
「アンとユリアのことか?」
「ああ、あの二人、どこで拾ってきたんだ?」
「ん? ああ、この間のサウスリーゼからの帰りに出会ったんだよ。冒険者になりたいと言っていたから、これも何かの縁だろうと思ってな――」
「それだけか?」
「どういうことだよ?」
「あ、いや実はな――」
そう言ったレスターから、訓練初日に起きた事故とその際にユリアが回復魔法を使用した話を聞く。
(『神聖女』さまの超絶回復魔法が炸裂してしまったか――)
と、レンは少し冷や汗をかくが、レスターの様子を見る限り、まだ、彼女が『神聖女』であるとはバレていないようだ。
「だから言ったろ? 相当の実力があるってな。それで? それがどうかしたのか?」
と、とぼけて見せる。
「それだけじゃないんだ。連れの剣士、あれも相当の腕前だった――。剣筋から、素人ではないと訓練教官も言っていた」
「訓練教官はだれだ?」
「『赤髪』のフローラだよ」
――『赤髪』のフローラ。フローラ・カイトスか。剣士クラスの冒険者で、剣術については定評がある。
(フローラが言うのなら、その評価は確かだろう。こちらを誤魔化すのは少し難しいか――)
そう腹を括ったレンは、
「――フローラの眼は誤魔化せないか。わかった、話すよ。アンはもともと王国兵士だ。俺も聞いた話だが、アンとユリアは帝国が侵攻を開始した時に、サウスリーゼ王国から逃げ出してきたらしい――」
と、答える。
「王国兵士――」
「ああ。アンとユリアは血は繋がってないが、姉妹のように暮らしてきたらしく、戦火が広がる前に二人で逃亡してきたとそう聞いている」
「そうか――」
「ああ」
わかった、とレスターは言うと、
「たしかに、二人ともいい冒険者になれる素材だ。レン、久しぶりにお前の頼みを聞いてよかったと思ったよ。ありがとうな!」
と、満面の笑みを浮かべている。
ギルドとしては、経験と実力を持つ冒険者が増えれば、それだけ難易度の高い迷宮の探索が進むため、利益も大きくなる。
レスターの笑みは、将来を見据えてのことだろう。
「じゃあ、俺は行くぜ? このあと、二人に会うことになってるんでな?」
「二人に会う?」
「ああ、この間購入した初級者向けダンジョンの『石牢の迷宮』の下見をしてきたんだ。二人にはちょうどいいかもと思ってな。俺も、自分の「迷宮」を専属で潜ってくれる冒険者が居れば、儲けられるからな?」
「――お前最初からそれが目的で?」
「まあ、うまく行けば、副収入になるかもと思ってな?」
「ふっ。そういうことか。お前も結構、あくどいな?」
「はぁ? 俺は、親切心で面倒見てやってるつもりだぞ? 少しぐらい見返りがあっても悪くないだろう?」
そう捨て台詞をはいておいて、部屋を出たのが十数分前のことだ――。
二人の実力が、冒険者階級と見合っていないのを、他の冒険者がまともに目にして噂が膨れ上がるのを避けるため、「二人専用」の初級訓練場を準備しておいてよかったと胸を撫で下ろしたというわけだ。
これで、C級に上がるぐらいまでは二人の実力を他の冒険者に目撃される心配はない。
C級ぐらいまで上がれば、実力をもち、将来有望な冒険者もいくらか存在しているから、その中に紛れ込めることだろう。
(身分を隠して一から始めようと覚悟を決めたんだ。少しぐらいフォローしてやらないと、な――)
レンはそう思いつつ、自分がこの二人に結構入れ込んでいることを可笑しく思う。
「レンさま? 何か可笑しかったですか?」
ユリアは無垢な表情を向けてレンに問いかけてくる。
「――いや、なんでもない。二人とも、よく頑張ったな! 今日は晴れて冒険者となった二人へのお祝いだ。好きなものを食べていいぞ? ほら、乾杯だ――」
「ちょっと待て!! レン! お前、私たちを忘れてないか!」
「ああー! 先に始めようとしてましたよ、ロジーナさん!」
ロジーナとノエリアの二人だ。
二人ともここで落ち合う予定だったため、さっさと始めて少しでも飲み代を浮かそうと思ったのだが――。
(ちっ、間に合いやがったか――)
レンは少し忌々しく思うのだった。




