第32話 『迷宮管理者』、魔女から祝いを受け取る
玉座の前に現れた『設定パネル』――。
それには、こういう一文が付されていた。
『※この迷宮の成長度が最大値に達しています。当迷宮はこれ以上拡張されることはありません』
これまでに購入した他の『ダンジョン』の最奥パネルにも付されていた文言だ。
つまり、この『ハズレダンジョン』の攻略もこれですべてやり終えたということになる。
父上が『迷宮管理者』の「養成課程」として準備しておいたこの「ハズレダンジョン」を手にしたのはレンだった。
ならば、レンは父の為せなかった理想を求めて、『迷宮管理者』を継がねばならないと、そう思える。
この「ハズレダンジョン」を攻略してくるにあたって、途中で多くの新しいスキルが解放された。
『階層転移』や、『迷宮俯瞰』、『迷宮回廊』もそのうちの一つだ。
それぞれ強力なスキルで、『迷宮管理者』として設定パネルをさわって『迷宮の様式』を変更したり、昨日のように、野外で敵を撃退するために活用できそうなものもあった。
『迷宮』の規模――つまり広さや階層数は、それぞれの迷宮ごとに決められている。
だが、『設定パネル』から操作できる項目そのものは、どの迷宮でも共通しているようだった。
『漆黒の魔女』の話を聞く限り、父上は、この『迷宮管理者』適性による能力で、王国の領民の生活を豊かにすることを目指したらしいが、それだけでは、結局、国を――民を守れなかった。
(父上のことだ。単純に、領民の生活を優先したということだろう――)
と、レンは推察しているが、その父上が本当はどのように考えていたのか、それは、『漆黒の魔女』でも「知らない」らしい。
「それで? あなたは、これからどうするつもりなんですか?」
レンは、自分の意志を伝えた。ならば、『漆黒の魔女』の意思を確認してもいいだろうと、そう思った。
正直に答えてくれる保証はないが。
「そうね――。まだまだ私の出る幕じゃないようだし……。もうしばらく、あなたの様子を眺めていることにするわ、レン・シュタルト。大口をたたいたからには、それなりの成果を見せてほしいものだわね」
『漆黒の魔女』はそう言ってニヤリと笑う。
(さすがにうまく立ち回るな――。これじゃあ、敵か味方か判断できない――)
まあ、『魔女』なのだ。
そういうものだろうと割り切るしかない。
父上の仲間だったからといって、レンの仲間になるなんて安易な思考にはならないのだろう。
「成果――か」
と、レンは呟く。
「具体的にはこれから考えるよ。まあ、たいして能力もない一介の冒険者に過ぎないんだ。過剰な期待だけはしないでくれよな」
と、皮肉っぽく返すにとどめる。
「ふふっ、いいわよ。ただ、あなたは人族なんだから、時間に限りがあるのを忘れないことね――。じゃあ、私はもう帰るわ。せいぜい頑張って、王子様――」
「ああ。あ! そうだ! そっちが俺を見てるってことは、こっちから呼びかければ、答えてくれるってことなのか?」
「はぁ!? なんで、私が答えるのよ。ずっとあなただけを見ているなんて、そんな、粘着者みたいなことしてるわけじゃないわよ! 人を変態みたいに思わないでくれる!?」
そう返した『漆黒の魔女』は、大きく溜息をつく。
「ふう――。そういうところまで似なくてもいいものを――。黙っておくつもりだったけど、私からの『お祝い』として教えてあげるわ。でも、あまり多用はしないことね。――ペンダントを取り出して」
レンは、言われた通り、首にかけたペンダントをシャツの間から引きずり出す。
「それを握って、『送伝文起動』と起動句を唱えるの――」
レンは言われた通り、ペンダントを握りしめ、『送伝文起動』と唱えてみた。
ピコン――という音とともに、レンの目前に、緑色のパネルが浮かび上がる。
「これは――?」
「メーラーよ。まあ、いわば、私宛専用の郵便ってとこね。そのパネルを操作して、私に連絡しなさい。必要に応じて返事を返してあげるわ」
「あ、ありがとう――」
「わすれないことね。それは必要な時にだけ使って。でないと、あなたの進む道が『遠い道のり』になるわよ?」
「それは、どういう――?」
「自分で探して答えを見つける――それが冒険者でしょう? もういい? 行くわ――」
そう言い残すと、『漆黒の魔女』はふっと空気中に溶けるように消えた。
(『転移魔法』――か。さすが『魔女』だな――)
魔法使いでもほんの数人の限られたものしか扱えない術式だと聞く。
「うはっ! 今の見ました? 『転移魔法』ですよきっと! すごいなぁ! 初めて見ましたよ!」
ノエリアの感嘆の声が弾ける。
「ったく、あの女も、なかなかにメンドクサイ性格のようだな――。ガイル様はよくあんなのと一緒にパーティを組んでたものだ」
と、ロジーナが言った。
「まあ、今は敵ということもなさそうだし、放っておいてもいいかな。というより、こちらから手を出すことは出来なさそうだけどね。さて、最後の『設定パネル』の検証をしていこうか――」
レンはそう言うと、再び『設定パネル』を覗き込んだ。




