第31話 『迷宮管理者』、養成課程をコンプリートする
正真正銘最奥の『設定パネル』――。
レンはとうとうそれに到達した。
いつもなら、最奥の壁に現れるそれは、今回は、玉座の前に出現している。
これまでの、『踏破済みダンジョン』の最奥の部屋でもそうだった。
最下層のボス部屋攻略後、玉座の前に『設定パネル』が出現する――。
(そこは変わらないんだな――)
つまり、この『ハズレダンジョン』も、他のダンジョンと同じ、通常のダンジョンだったという証左でもある。
ならどうして、ここが『ハズレダンジョン』《《だった》》のか――?
レンは、それがどうしてなのか、確証はないが、思うところはある。
レンは玉座の前まで進むと、『設定パネル』を覗き見た――。
「これは……。やっぱりそうだったのか――。父上、僕は、やり遂げましたよ――。そして、俺はここから始める――」
レンはその『設定パネル』に記されていた文言を見て、そう宣言した。
――全行程終了確認。
そこにはそう記されていた。
「レン? どうした? なにを言っている――」
と、ロジーナが不思議がる。
「レン、さま――?」
と、ノエリアも心配げに声を掛けてきた。
――そう。とうとう、ここまで踏破したのね。
その二人の向こう側から、聞き覚えのある声が聞こえる。若い女の声――。
「――!! その声は……、『漆黒の魔女』か――!」
レンは思わず構えを取ってしまった。
それに反応して、ロジーナとノエリアも振り返りざまに態勢を整える――。
「おお~、こわいこわい。何もしやしないわよ――。前に言ったでしょう? その宝珠の全ては監視しているって。覚えてなかったの?」
そう言って、『漆黒の魔女』マアリ・ド・ジュセルは肩をすくめてみせる。
「覚えているさ。でも、あれから2年だぞ――? その間何も言ってこなかったじゃないか。今さら何をしに来た? はっ! まさか――!?」
このペンダントを回収しに来たのか――? と、レンは思った。
「ちょっとちょっと、そういう早とちりはおやめなさい、レンブリーズ。それから、人の話はしっかり聞くことよ。私は何もしないと言ったわよ?」
「だったら……」
「あなたの父上からの伝言を伝えに来た――」
「父上からの伝言?」
「まあ、正確に言うと、声を届けに来た、かな」
「――――」
レンは、『漆黒の魔女』の次の行動を注視する。まだ剣を構えたままの姿勢で、だ。
「――もう、剣なんてしまいなさい。どのみち、私を斬ろうだなんて、身の程知らずもいいところよ? それより、これを――」
そう言いながら、マアリは懐から一粒の宝珠を取り出した――。
レンたちは、その行動の間も、動くことが出来ずにただじっと見ていただけだった。
「あなたの父上からの伝言――「声」をこれに記憶させてるの。再生するからよく聞くのね」
そう言って、宝珠に手をかざすマアリ。
『ジ、ジジッ――。あー、おほん。我が名は、リカルド・フォン・フォルシュタートである。この声を聞いているということは、私はもう、この世にはいないということだな――』
それは、忘れることはない、懐かしい人の声だった。
「父上――?」
『今そこにおるのは、イマークか? それともレンブリーズか? もしかして、ジュードか? まあ、誰でもいい。私のペンダントをここまでよく運んでくれた。よく頑張ったな。褒めて遣わすぞ? はっはっは!』
「――リカルド。お前というやつは……」
漆黒の魔女が一瞬目を見開いて、そう呟いたが、父上の声がその先を掻き消した。
『さて、もう気付いているとは思うが、これは『試験』だったのだ。この迷宮は加工されたものだ。設定を調整して、たった3層しかなく、ゴブリンしか出現しない『ハズレダンジョン』に作り替えておいたのだ。その状態から、よくぞここまで到達したな。これでお前も晴れて『迷宮管理者』というわけだ』
声がそう説明を続ける。
『この力をお前がどう使うかは好きにするがいい。私も今のお前と同様の力を得た。私はこの力を国民の為に使うと誓った。いい国になると確信している。しかし、これをお前が聞いているということは、私の思うようにはならなかったのであろう。だから、託す。お前はこの力をどう使う? もしまたどこかで会える時が来たら、『お前の話』を聞かせてくれ――。では、さらばだ。息子よ――』
そこで声は途絶えた。
レンは、自分の頬が濡れていることに気が付いた。
あの優しかった父上の懐かしい声に、幼い頃の別れがフィードバックしてきたためだ。
「レン?」
「レンさま?」
ロジーナとノエリアがそんなレンを見て、切なげにレンの名を呼んだ。
「――あ、ああ、すまん。大丈夫だ」
と、レンは、とりあえずそう答え、そして、聞かなければならないことを問うために、『漆黒の魔女』の方へと視線を移す。もちろん、剣はすでに納めている。
「幾つか聞きたい――」
「いいわ。踏破した褒美として答えてあげる――」
「どうして父上はこの力を使って強国へと成り上がらなかったのだ?」
「知らない」
「どうしてあなたは、父上を助けなかったのだ?」
「出来なかったから」
「ジュードとは誰だ?」
「リカルドの息子」
「どこにいる?」
「レスラ」
「そのジュードは父上の子であることを知っているのか?」
「いいえ。知らないわ。あの子は、普通の町人として生きているし、自分がリカルドの子だと言われても信じないでしょう」
わかった、ありがとう――。
と、レンはマアリに礼を言った。
「それで? あなたはこれからどうするつもり?」
今度はマアリがレンに問いかけた。
レンがこの問いを拒否することはできない。マアリはレンの質問全てにしっかりと答えたのだ。自分がこれに返すのは、『礼儀』である。
「僕は――。いや、俺は、冒険者レン・シュタルトだ。レンブリーズはあの日、国とともに死んだ。だが、この身体には父上の血が流れている――。俺は、祖国を再興するためにこの力を使う」
レンは知らず知らずのうちに右手を固く握り込んでいた。




