第30話 『迷宮管理者』、設定パネルと再会する
ボス部屋の入り口から正面にある玉座――。
『地竜』がその前に陣取っていたために、入った時は分からなかった。
その『玉座』には、誰の姿もなかった。
レンは、魔物が他に潜んでいないか周囲を確認しつつ、ゆっくりと玉座へと近づいてゆく。
幸い、魔物の気配はもうしない。
玉座の前に立つと、見覚えのある緑色の四角い光――。
「設定パネル――」
レンはその前に立ち、懐かしい友人にでも再会したかのように呟いた――。
この前『設定パネル』を最後に見かけたのは、ひと月ほど前のことだった。
第93層――。
そこからこの99層まで6階層下ってきたわけだが、その時設定した『魔物生成レベル』は「10」。つまり、最大レベル値である。
第93層のパネル操作の折、次の『ダンジョン拡張』が『最後の拡張』になることが明らかにされた。
「パネル」にそう表示されたからだ。
そして、その時、『拡張ボーナス』としてレンにもたらされたスキルが、『迷宮俯瞰』の最上位スキルへの「昇格」だった。
その内容は――。
「――これが最後の更新になるみたいだ……。「パネル」にそう表示されているし、今ランクアップした『迷宮俯瞰』を起動してもそれがわかるようになった……」
そうレンは二人に伝えた。
「どういうことだ? レン。お前の『迷宮俯瞰』スキルについては前から聞いていたが、それと、このダンジョンの更新が最後だということが判明するのとの関係がわからんぞ?」
ロジーナが説明を求めてくる。
もちろん、レンは説明するつもりだった。
「今回の昇格で、迷宮内部すべての地形情報が見れるようになったのさ。それは、まだ到達していない階層も含めて――な。つまり――」
と、レンが先を続けようとした時、
「あ! わかりました! ダンジョンの下層へつながる階段が途切れている階層――つまり、最下層が何層目かがわかったということですね!」
と、まるでクイズにでも答える子供のようなキラキラした目で声を上げたのは、ノエリアだ。
「――そういうこと、だ。最下層は、99層。あと6階層でこのダンジョンは終わる――」
と、レンが答える。
「――なるほど、それは便利なスキルだな。つまり、この先、『他のダンジョン』に訪れた際、迷宮の形状をすべて知ることができるようになった――そういうことか」
と、ロジーナがこのスキルの『真の有用さ』を指摘してくる。
「まあな――。ただ、おそらく、『自分が所有するダンジョンに限る』という制約は変わらないだろうけどな」
レンが『迷宮管理者』権限を発動できるダンジョンが、レン自身が所有しているダンジョンに限られるということは、かなり前に判明したことだった。
レンは、その後、レスラ近辺の手ごろな売り出し中ダンジョンを数件買い、そこでも『迷宮管理者』権限を使用してみたりしている。
どれも問題なく発動したが、この『ハズレダンジョン』と違う点もあった。
それは、踏破済みダンジョンは、それ以上「拡張できない」ということだった。
下層に降りる階段のない、ダンジョン最奥の部屋。
それがすでに発見されているダンジョンは、文字通りそこがそのダンジョンの「最奥」であり、それ以上拡張することはできない。
だが、この『ハズレダンジョン』は、最初の最奥の部屋は第3層だった。
『すでに下層に降りる階段のない最奥の部屋』がそこだったのだ。
(なのに、「設定パネル」を操作することで、拡張ができたんだ――)
それには何か意味があるはずだと、レンは思うようになった。
(だから、前々から決めていたんだ――。もし最後の更新の機会が訪れたら、それを実行しようって――)
「ロジーナ、ノエリア――。言っておきたいことがある」
レンは、意を決して話し始める。
自分が思っていたよりずっとトーンが低く響いたため、二人も怪訝な顔をしてレンを見つめた。
「どうしたんだ、改まって」
と、ロジーナ。
「なにか、問題でもあったんですか?」
と、少し心配げなノエリア。
「――この先最下層へ辿り着くまで、魔物生成レベルを最大値「10」にしようと思っている」
と、レンはそう告げた。
それを聞いた二人の表情に緊張感が走るのが見えた。
「俺は、この『ハズレダンジョン』は『養成課程』だと思っているんだ。だから、最後はこの『ハズレダンジョン』の最大脅威レベルで、これを踏破しなければならないと、そう決めていた――」
――俺が本当にこの『迷宮管理者《適性》』を継ぐにふさわしい実力を身につけているのか、確認しなくちゃならない。
「――なるほど……な」
と、ロジーナの口角が上がる。
「そうですね、最後ぐらいびしっと攻略しないとですね」
と、ノエリアの瞳にも光が宿る。
「二人にも危険が伴うことだから、先に言っておく。もし、反対なら――」
「はん! 誰に言っている、レン。私は『竜断ちロジーナ』だぞ?」
「そして、その相棒、『爆炎のノエリア』です!」
「――ふっ、だったな……。じゃあ、ふたりとも、よろしく頼む――」
そうしてここまでやってきた。
そしてとうとうこれが正真正銘、『最奥の設定パネル』だ――。




