第29話 『迷宮管理者』、ボスと戦闘する
レンたちが部屋に入ると、壁と柱に掛けられた燭台の全てに火が入り、部屋全体が明るく照らし出される。
そしてその部屋の一番奥に伏せていたものが首をもたげる――。
「地竜――か」
レンはそう呟いた。そしてさらに続ける。
「――竜の吐息と、爪と牙、それから尾だな……」
「ああ。翼はないようだから空中戦はないが、意外と瞬発力は高い――。距離に注意だ」
と、ロジーナ。
「――でも……。正直私たちにかかれば、倒せない魔物ではありませんね!」
とは、ノエリアだ。
確かに……。
ノエリアの言うとおりだ。
すでにS級に到達している三人から見れば、注意して戦えば、負けることはない相手だろう。
「――だけど、俺らには回復系メンバーがいないからな? 慎重に、喰らわないように、粘り強く行こう」
と、レンは二人に声を掛ける。
「ポーションは出し惜しみなしで使っていくぞ。いいな、レン?」
「ああ、もちろんだ」
「私は後方から、火力支援と管制に専念しますね?」
「ああ、いつもどおり、だ。――行こう!!」
言うなり、レンとロジーナが駆け出す。
『地竜』も、これを迎え撃つために、前後の四肢で地面を蹴り、素早い動きで向かってきた。
「レン! やはり、速い! 気を付けろ!」
ロジーナが隣から叫びかける。
「ああ! だが――」
レンは、利き足を軸足に地面を蹴る――。
(この高さまでは届くまい!!)
レンは宙高く舞い上がり、『地竜』の頭の上に到達する――。
「レン! 避けろぉ――!」
「なに!?」
『地竜』はその場でくるりと反転すると、その尾を天に向けて仰ぎ振る――。
「くぅっ――!」
空中で向きを変えるのはさすがに難しい。このままでは尾の振り払い攻撃をまともに受けてしまうと悟ったレンは、利き腕に握るショートソードを前面に構える――。
がしぃっ――!
どうにか尾の薙ぎ払いを剣の背で受け、身体への直撃を避けるレン。
「はっは――! 初太刀は私が貰うぜ――! やあああっ!!」
ざくんっ!! という斬撃音は、ロジーナのロングソードが『地竜』の後ろ脚を斬りつけた音だ。
「火炎弾ぅ――!!」
二人の後ろから火球が迫り、二人を追い越して『地竜』の尾に命中する――。
「ナイス、ノエリア!! その調子で、打ちまくれ!」
ロジーナが振り向きもせずに叫びつつ、さらに斬りかかる――。
ぶうん!!
「おわぁ――!? あっぶねえ、こいつ、さすがに耐久力が高いぞ――。こりゃあ、手古摺るかぁ?」
ロジーナが斬り込むタイミングで、『地竜』が尾を振り払ったのだ。
これをかろうじてその卓越した反応速度で飛び退りながらかわすロジーナ。
もちろん、斬り込みは『キャンセル』されてしまった。
「おらあ――!!」
ワンテンポ遅れて斬り込みをかけたのはレンだった。
尾の振り払いをやり過ごすなり、踏み込んで袈裟切りに斬りつける。
ザシュゥ――!
というやや鈍い音。
それでも尾の脇から鮮血が飛ぶ。
「――ようやくご挨拶ってところだぁ! こっから、こっからぁ!」
レンはさらに踏み込んで、尾の根元、後ろ足の上あたりに斬りつける。
斬撃は見事に命中するが、返しの後ろ脚の蹴り上げで数メートル飛ばされる。
『水の被膜』――!!
レンが床に叩きつけられるのを、ノエリアの顕現させた『水の膜』が衝撃を吸収する。
「助かったぁ! ありがとう、ノエリア。それにしても、結構、器用なやつだな――」
「言ってる場合ですか!? ほら休んでないで、次々行ってください!」
レンの言葉にノエリアが煽る。
「わかってるよ! ようやく体があったまってきたところさ!」
レンはまた、ショートソードを構えると、突撃して行った――。
******
戦闘開始から数分が経過した――。
やはり、『ドラゴン族』の亜種だけあって、耐久力がかなり高い。
『地竜』がボスの迷宮は、通常『Sランク迷宮』に分類されるのだから、一筋縄では行かないのはあたりまえだ。
それでも、かなりのダメージ量を与えたとみられる。
部屋の床が随分と血飛沫でぬかるんできている上に、前衛のロジーナとレンの二人は返り血で鮮血に染まるほどだ――。
「かてえな――!」と、辟易するレン。
「だが、もうそろそろだ――!」と、ロジーナが発破をかける。
ロジーナがそう言った次の瞬間――。
がくん! と、『地竜』の腰が落ちるのが確認できた。
「ロジーナ! チャンスだ!! 一気に畳みかける!」
「ああ、見ていた! お前は正面に――。私は側面を突く――」
レンは、言われた通り、ドラゴンの鼻っ面の前に躍り出た。
「さあ、『地竜』こっからの俺の剣戟を受け取るがいい――。やあ!!」
グルルルル……!
と、恨めしそうな『地竜』の呻き声――。そしておもむろにその顎を開く――。
(竜の吐息――!?)
レンは、地面を蹴って、距離を詰める――。
ごぉぉおおお――!
っと耳をつんざくような轟音は、レンの肩口を少し焦がしながら竜の顎から放たれる火炎放射の音だ。だが――。
(ここまで中に入り込まれると、自慢の吐息も、当たらないだろ? 当たらなければ、吐息だってどうってことはない!)
そこからは一方的だった。
腰に力が入らなくなった『地竜』は、頼みの尾を繰り出すことも、超絶な速度で反転することもできず、ただ、爪を薙ぎ払うだけの単調な攻撃へと変わる。
そして――。
ずぅぅうううぅん……!
地響きを立てながら、とうとう『地竜』が地面に頽れた。




