第28話 『迷宮管理者』、最奥の部屋に再び到達する
「ふぁあ~あ……」
レンはさっきから数回目の欠伸をかましてしまった。
「おい、レン! 今日が最下層攻略の最終日なんだぞ? 気が抜けてるんじゃないのか?」
と、いつもの声圧で、ロジーナが小言を投げてくる。
「ロジーナ――。欠伸は緊張をほぐすために出ることもあるんだぞ? だから欠伸をしたからといって、気が抜けているとは限らないんだ」
「それは知っているが、今のお前のそれは、そうじゃないことも知っている――。いったい昨日何時に帰ってきたんだ?」
これを横で聞いていたノエリアが、
「夜中の4時まわってましたよ? おかげで私も、少し眠いですぅ――」
と、ロジーナに返す。
なんで知ってるんだ――?
「ほら、私って、感度が高いじゃないですか? だから、夜中誰かが家の中で動くと、目が覚めちゃうんですよね――」
感度が高い――つまり、魔力が旺盛だから敏感に物音に反応してしまうということなのだろう。
「そこからうまく寝付けなくて――。ようやく、日が昇る頃に寝つけたんですよ」
はっきり言って、どうでもいい情報だ――。
俺が家の中で動いて眠れないっていうのなら、わざわざ同じ家に住むこともないだろう。
昔はガイルの家に4人で暮らしていたが、ローザが死んでから数年後、俺は自立と区切りを付けるためにガイルの家を出て自分で家を借りている。
ノエリアにはガイルの家が残されているのだが、何度かウチとガイルの家を行き来しているうちに結局居付いてしまった。
今では「自分の部屋」と称して、俺の家の一室を完全に占領している。
「――自分の家で寝ればいいだろうが」
と、思わず悪態をついてしまうレン。
「ああー!! それいいますぅ? 今日だって朝ごはん作ったの私なんですからね?」
と、頬を膨らます、ノエリア。
昔からそうなのだが、ノエリアにこうやって機嫌を損ねられるのがレンには正直辛い。
(ああ、もう! なんなんだ、この「生き物」は――!?)
「――わ、わるかったよ! 今のは謝る。(なんで謝ってるんだ?) 好きにしてくれていいから!」
結局、追い出すこともできずに二人暮らしを続けているのだが、ガイルはどう思っているのだろうかと、少し気にならないわけでもない。
「わかればいいんです。――って、見えてきましたよ?」
ノエリアがそう言って前方に見える大扉を指さした。
「あれが最後だ――」
レンはそう二人に告げた。
この前の攻略で、あの扉の前室までを踏破していた3人は、今日最終攻略としてこの場所に戻ってきている。
これまでのこの『ハズレダンジョン攻略』で、様々な管理者能力やスキルなどを獲得してきたのだが、そのうちの一つ、『迷宮俯瞰』スキルのおかげで、この『ハズレダンジョン』の拡張がこれ以上為されないことが明らかになっている。
だから、あの扉の向こうに広がる『祭壇の部屋(ボス湧き部屋)』がまさしく『最奥の部屋』ということになる。
(久しぶりに『設定パネル』との再会だ――)
「しかし、お前の『固有能力』って本当に便利だよな。特に、『階層移動』のおかげで、この99層までだって、ひとっ飛びだもんな――」
「そうですね。それがない時は、1層からすべて踏破して行かないとでしたからね。『魔物生成』設定を低ランクに設定して踏破する日と検証する日とに分けて進んできましたから時間もかかりましたしね?」
ロジーナの言葉にノエリアが応じる。
8回目の拡張時に付与された新スキル『階層移動』。
指定した階層の開始地点に移動することができる『管理者固有能力』の一つだ。
これを獲得してから、攻略がかなり効率的になったのは言うまでもない。
(本当にこの二年間の間に、この『ハズレダンジョン』は劇的な進化を遂げたよな――)
『階層移動』の獲得後は、冒険者レベル向上のための他ダンジョン攻略と、『ハズレダンジョン』攻略を同時進行で行えるようになったおかげで、レンたち3人の冒険者ランクもとうとうS級に到達していた。
ただ、この『ハズレダンジョン』内で魔物討伐稼ぎやレア鉱物採掘、宝物漁りなどは極力行っていない。
あくまでも『検証』の際に発見するものだけに限って採取・獲得するにとどめてきた。
『どうしてここを『ハズレダンジョン』のまま伏せておくことにしたんだ?』
と、ロジーナに聞かれたことがある。
『ああ、ちょっと考えていることがあってな――。ここだけはこのままにしておこうと思ってるんだ――』
レンはとりあえずそう答えておいた。
ロジーナの考えていることは察しが付く。
この『ハズレダンジョン』の設定をいじってやれば、瞬く間にレスラの冒険者たちがこぞって潜る大人気ダンジョンへと変貌するだろう。
そうなれば、迷宮所有者報酬がギルドから入り、レンは一気に富豪へと成り上がることができるに違いない。
(でも、それはそんなに慌てなくても構わないんだ。俺の考えていることが間違っていなければ、この『ハズレダンジョン』は『迷宮管理者養成課程』のはずだから――)
その考えが、間違いじゃなかったことが、今日この後、証明される――。
「行くぞ――!」
「ああ」
「はい!」
レンの掛け声に二人が反応する。
レンは大扉に手を掛けると、ぐっと力を入れ押し開いた。




