第27話 『迷宮管理者』、明日の夜の約束をする
「ここでとりあえず休めるだろう。もうすぐ朝だけど、夜通し駆けさせた馬も休めた方がいい。移動するにしても、明日の午後以降にするんだな。でないと、馬がダメになってしまうぞ?」
レンは、レスラの街でもそれほど高くない宿に二人を案内すると、そう告げた。
「ああ、それから、その様子だと、たいして路銀もないんだろう? とりあえず宿代はもう支払いを済ませておいたから、心配しなくていい。あと、これも持って行け――」
そう言って、懐から革袋を取り出し、それをユリアに差し出す――。
「これは――?」
と、ユリアは怪訝な顔をする。
「金貨袋だよ。おいおい、このお姫様はお金というものを知らないわけじゃないだろうな?」
と、アンリエットの方へ視線を向けるレン。
「そんなわけないだろう! お金ぐらいはもちろん知っておられる。ただ、そんな袋にお金を入れて持ち運ぶという習慣がないだけだ――」
と、アンリエットが答えた。
「わぁ、結構入ってますね――。でも……」
とユリアはすでに中を覗き見ている。
「ユリアさま! それはお返しください! ――お前……」
「レンだ」
「あ、レン殿、ご厚意はありがたいが……」
「無いんだろう?」
「う、ぐ、それは……」
「何もやるって言ってないだろう? またいつか返してくれればいい。俺はこの街を拠点にしてるから、ここの冒険者ギルドにでも預けてくれれば、俺の手元に届く。そのぐらいどうってことはない。持って行け――」
「ありがとうございます! では、お言葉に甘えて、お借りいたしますわ。でも……、私たちもお金を稼がないといけませんから――」
と、ユリアが間に入ってくる。
「――私たちも冒険者登録しようと思いますの。ですので、明日は、冒険者ギルドをご案内くださいませんか?」
「な――!?」
と、アンリエットが明らかに驚いた表情を見せた。
レンもさすがにこの言葉には驚く。
「おい、アンリエット。お前たち、どこか行く当てがあって逃げてきたわけじゃないのか?」
と、アンリエットに確認する。
「ぬ、ぐ……、それは――ない」
と、正直に答えるアンリエット。
「はあ!? 王家なんだろう? たとえば、御用達の商人とか、別荘を持っている貴族家とか――」
と、レンは食い下がってみる。
「そういったものは、私は知らない――」
と、項垂れてしまうアンリエット。
「おいおい、マジか――。これからどうするんだよ?」
「なんとかする――」
「なんとかっておまえなぁ――。はぁ――」
レンはとんでもない「拾い物」をしてしまったものだと思った。が、もう知らないから俺は行くぞとは言えない。
レンもかつて、人の厚意に甘えながら生き延びた経験があるのだ。
(ローザなら、こういう時、放っては置かないだろうしな――)
育ての母ローザの優しい顔が頭をよぎる。彼女がもしまだ生きていたら、ここで放って帰ってきたレンをこっぴどく叱りつけることだろう。
「――わかったよ、もう。仕方がない。明日俺は用があるから、一日ここで休んでおけ。それで、明日の夜、さっきの酒場で会おう。それから、今後の話をしようじゃないか。それでどうだ?」
「いや、そこまでは――」
「ありがとうございます、レンさま! アン、よかったですね! それでは明日の夜、またあの酒場で。明日の日中は街の散策でもしていますわ。いずれにしてもしばらくはこの街で過ごすことになりそうですから――」
アンリエットが渋るのに被せるようにユリアがそう返事を返してくる。
「ね! アン! そうしましょう! 私、さっきのホットドッグとお好み焼きを明日も食べたいわ!」
「ユリアさま――! わ、わかりました――。レン殿――、重ね重ね申し訳ないが、よろしく頼む――」
アンリエットというこの少女は、本当に従順な家臣なのだろう。それにしても、付ける家臣がこの少女だけとは。
(それとも、途中で失ったか――)
その可能性は否めない。
いずれにしても、もう時間がない――。
レンも明日は朝から『ハズレダンジョン』に向かわねばならない。
「じゃあ、俺はもう寝るから、いくよ。明日の晩、また会おう」
「はい! レンさま、ユリア、お待ちいたしております!」
元気で明るい声だ。
このお姫様、自分の状況を理解していてこういう振る舞いができるのなら、それはそれで、肝の据わった少女といえるだろう。
レンは二人に手を振ると、宿屋を出て、ようやく帰宅の途についた――。




