第24話 『迷宮管理者』、力の一端を示す
レンがレスラへ向けて馬を駆けさせていると、森を挟んで並行して走っている隣の街道を、同じ方角に向けて駆けている馬車の気配を察した。
馬車は相当の速度で走っているようで、レンよりはるか後方にいたと思ったら、すぐ隣まで迫ってきている。
(速すぎる――な。これは……)
追われている――か。追っているのは――。
レンは『感知範囲』を拡げた。すると、その馬車の速度よりさらに速い速度で駆ける蹄の音、鎧のこすれる音が数騎分聞こえる。
(追っているのは帝国兵――か?)
だが、正規兵団ではないようだ。正規兵団にしては数が少ない。
(斥候部隊か、陽動部隊あたりだろうけど……。このままでは国境までに追いつかれる――な)
どうするか――。隣の街道との間には森の巨木が立ち並んでいる。いけないわけじゃないが、馬の操作がかなり難しい。
(帝国兵に追われているのなら、助けてやらないとな。俺は、帝国へ『反逆』すると決めたからな――)
レンは心を決める。そして、自分の駆る馬に『回復魔法』を施し、ついで、『付与術式』をもう一つ重ねて施す。
「おい、馬! 少し無茶をする――、俺を信じてくれよ!」
そう言って馬の首を一撫ですると、レンは馬の口を隣の街道の方へ向けた。
ヒ、ヒン――!!
と、いななき、馬は森の中へ飛び込む。
が、馬の感覚、反応がさらに上がっているため速度は落ちない、いや、落とさない。
馬はレンの反応速度に合わせるように、森の木々の間を抜けてゆく――。
「見えた! あれだ!」
誰に言っている? といえば、相棒の馬に言っているというのが正しいのだろう。
レンは、すぐさま追いつき、その馬車に並走するように馬を操作する。
「――仕方がない! ユリア様、馬車を止めてやり過ごしましょう!」
御者の叫ぶ声が聞こえる。女だ。だが、その選択はあまり上手くはない――。
相手が斥候部隊や陽動部隊なら、身を隠したとしてもすぐに見つかってしまうだろう。
「それは、やめた方がいい――。お前たちはこのまま走れ。俺が時間を稼いでやる――」
隣の馬車の御者の女に声を掛ける。
女がこちらを見て体を強張らせるのが見えた。
(若いな――。それに、軽鎧。兵士か――)
第一印象はそれだが、それ以上誰何している暇はない。
「いいか? 絶対に止まるな。国境まではあと数分だ。諦めずに駆けろ。わかったな?」
「お前は――」と、いう女の声が聞こえたが、レンはすぐに馬の手綱を引いて速度を落としたため、その先は聞けなかった。
馬車は速度を落とさずに今も駆けている。
(なかなかに素直な子だ――。そのまま国境まで逃げ切れ――。さて――)
もう、そこに帝国兵が迫っている。
「お前、よく頑張ったな……。少し休んでていいぞ?」
そう言って馬の首を森の方へ向けてやる。
ヒ、ヒン! と、『相棒』はどうだと言わんばかりに応えると、森の中へと、退いて行った。
「では、やるか――!」
レンは、『術式』を展開する――。
『『迷宮管理者』の名によって、宝玉に命ずる――。其の力は我の血肉からなるもの、其の意思は我の意思と同じくするもの――。我、今、ここに『固有迷宮』との『回廊』を『顕現』させることを望む――。』
――【迷宮回廊顕現】!!
レンがかざす右手の前の空間が歪み、青紫の閃光が走る。
そしてそれは巨大な門の形を成した。
『開錠――!!』
その巨大な門がぎぎ、ぎぎっと音を立てて開き始めた。
そしてそこから現れたのは3体の『黒装束』――。
頭からすっぽりと真っ黒なボロ布を被ったようなその形態。
魔物種幽鬼に分類されるBランクモンスター、【死霊戦士】だ。
「『迷宮管理者』が我が僕に命ず。かの者どもを討ち果たせ――!」
レンはそう言って、迫りくる騎馬を指さした。
3体の【死霊戦士】は、レンの命令に即座に反応――。騎馬の方へとゆっくりと向き直り、その両手に握る銀色の長剣をゆらりと構えた。
(すまないな――。俺は帝国兵に姿を見られるわけにはいかないんでな。隠れさせてもらうよ)
3体の【死霊戦士】の背にそう思念を飛ばしたレンは、先程森の中へ退いた『相棒』の方へと身を寄せ、様子を見守る。
数秒後、3騎の騎馬兵たちと3体の【死霊戦士】が相対した。
騎馬兵の鎧の意匠――やはり、帝国兵だ。
3体の【死霊戦士】は、問答無用で斬りかかる――。
「うわっあ!? 魔物だぁ!」
「くそっ! こんな時に! どうしてこんなところに――! ぐわぁ!!」
最初に一人の兵が腹を突き刺されて絶命する。圧倒的だ――。
「カール!? くそ! カールがやられ――あ、隊長!」
次に「隊長」と呼ばれた兵の首が落ちた。
「隊長――!! も、もう無理だ! うわあああ!!」
声の主は慌てて逃げようと背を向けたが――。
「ぐわぁあ! あぁ……」
もちろん、逃げ切れまい――。
背中から袈裟切りに斬りつけられてその場に頽れてしまった。
これで、もう誰も追うものはいない。
(兵を問答無用で殺すのは、あまり気味の良いものではないが、これもお前たちの選んだ道だ――)
レンは3人の帝国兵の最期を看取りながら、唇を噛んでいた。




