第21話 『迷宮管理者』、宣言する
最後の「二人」が父上と『漆黒の魔女』だというのは見当がつく。
「ありがとう、ガイル。お前の話で幾らか見えてきたことがある。そして、『漆黒の魔女』が俺に何をさせたいのかも――」
父上がなぜそれだけの『迷宮』を手にしていながら、帝国に対抗するための軍事力の増強に利用しなかったのかは、レンにはよく分からない。
だけど、父上が目指した国家の形はおぼろげながら見えたような気がする。
(たぶん、『一つ』じゃダメなんだ――)
と、ふわりと湧いてきた想いがレンの中で本当にわずかずつだが時間が経つごとに輪郭がはっきりして行くような気がしていた。
「レンさんには『漆黒の魔女』が何をさせたいのかがわかったのですか?」
と、ノエリアが聞いてくる。
おそらく、ノエリアが問うているのは、『漆黒の魔女』の「真意」という意味だろうが、さすがにそこまでは読み切れない。
「――いや、最終的に何をさせたいかは、まだ俺にも分からないよ。ただ、今やるべきことははっきりしてきたというところかな」
レンはそう返す。
「『ハズレダンジョン』の育成――か」
と、ロジーナがさすがの理解力を示してくる。
彼女は性格的には粗暴、大雑把なのだが、こういった洞察力には長けている。でなければ、S級ランクダンジョンに一人で潜るなどということはできない。
「――そうだな。それももちろんだが、もうひとつわかったことがあるんだ。この『翡翠のペンダント』の力は、あの『ハズレダンジョン』固有のものではないということさ」
「――ですな。おそらくのところ私の知る限りでは、リカルド王とともに攻略した『迷宮』はすべて、その『パネル』が出現しました。その『宝珠』の力がそれであるなら、どの『迷宮』でも有効なのかもしれませんな」
と、ガイルが追加の情報をくれた。
「ああ。それにしても、まだ分からないことがあるんだ。父上はどうして、他国の――レジルト王国レスラにあるあの『ハズレダンジョン』を所有していたんだろう」
これには何か意味があるのだろうか――。
「あ! そう言えば、リカルド王は私に、もしもの時はレジルト王国のレスラへ行けと――。ですから私は、皆を連れて城を脱出したあと、レスラへ向かったのです」
と、ガイルが父上からの指示があったことを明かした。
「――なるほど。父上は、『迷宮』の所有権が無くなれば、それは一旦冒険者ギルド預かりになり競売に掛けられることを知っていたはず――。『迷宮の所有権』を失うのは、誰かにその権利を渡した時と……」
「死んでしまった時――ですね?」
と、ノエリア。
「ああ。あの『ハズレダンジョン』は長年買い手がつかなかった。理由は簡単だ。投資する『価値』がないからだ。それに『価値』を見出すとすれば、俺のような『所縁』のあるものだけ――」
レンはもしかしたら父上がレンに託したものは『翡翠のペンダント』だけではなかったのかもしれないと思いなおす。
「レスラ近郊に父上がかつて所持していた『迷宮』があって、売りに出されていることは冒険者になったころから知っていた――。俺は、せめてそれだけは取り戻してやるつもりで稼いできたんだ。最初に本当に『ハズレダンジョン』だとわかった時には正直、何をやってるんだと自分の愚かさを呪ったよ――。でも、そうじゃなかったのかもしれない」
「レンさま。もう一度聞きます」と、ガイルがそこでレンに告げた。
そのまなざしには、数分前、父上と『漆黒の魔女』の話をする前に見せたあの熱が再び宿っているのが窺えた。
「レンさま。その『翡翠のペンダント』の力が、帝国を脅かすほどのものだったとしたら――。どうなさいますか?」
レンは、すぅと息を吸うと、腹に力を入れる。
そして、さっき返した言葉とは違う言葉を自分の意志を持って告げることになる。
「ガイル……。お前とローザには本当に感謝している。俺は、いや、僕は、お前たちがいなければとっくの昔に死んでいただろう。でも、僕は今こうして生きていて、父上の遺志を、父上が成し遂げられなかったものを目指してみたいと自分から思えるように成長してこれた。本当にありがとう、ガイル」
ガイルの瞳は真っ赤に充血している。が、先程からの熱はまだ消えない。
(ガイルは、待っているんだ。いや、待っていたんだ、僕がこの言葉を口にする瞬間を――)
「ガイル――。待たせたな」
と、そこで一旦区切り、覚悟を決める。
「僕は、祖国を復興する。そして、帝国を打ち滅ぼし、『皇帝』の誤りをただす。それを目標として、これから取り組んでいく。「俺」は、レンブリーズ・デル・フォルシュタート。フォルシュタート王国の正当な継承者だ。父の遺志、兄の無念を俺は継がねばならない」
レンは、とうとうその言葉を口にした。




