第2話 『迷宮管理者』、設定パネルを操作する
「稼働中――?」
これで、ダンジョンが成長する、そういうことなのだろうか。
さっき、ダンジョン全体が鼓動するようにどくんと揺れた。が、周囲の状況に特に変化は見られない。
『コントロール・パネルを閉じますか――はい・いいえ』
気が付くと、設定パネルのなかにそういう文言が表示されている。
そしてその下にもう一文――。
『※コントロール・パネルは常時、ダンジョン最奥の壁に移動します。もし、先に進みたくない場合は、ダンジョン成長を停止してから閉じてください』
「注意書き」――?
この「注意書き」によれば、ダンジョン成長を稼働中にしてパネルを閉じたら、ダンジョンの成長が始まり、『最奥の壁』が更新されるたびにその場所に移動するということになる――のか?
(いまはここが最奥部ってことだけど、移動するということは、ダンジョンが拡がるってことになる、よな?)
ちょっと待て。レンはパネルを閉じるのを躊躇う。
もし仮に、一気に数層拡張されたとしたら、今度その最奥部に辿り着けるという保証はない。
(たしか、設定項目がいくつかあったよな――)
レンは「宝物生成」の項目へ指を伸ばした。「停止」から「最低ランク」へと切り替える。
『ダンジョンレベル:G 名称:未定』
『魔物生成:最低ランク』
『宝物生成:最低ランク』
『再湧出間隔:最長期』
『鉱物生成:停止中』
『ダンジョン成長:停止中』
『その他の項目:現在未稼働』
(宝物生成も、停止か最低ランクしか選べなかったけど、ダンジョン成長を稼働すれば、選べるランクも上がるのかな――)
項目設定を終えて数秒、パネルから手を離していると、さっきと同じ表示が浮かび上がる。
『コントロール・パネルを閉じますか――はい・いいえ』
(行くぞ――)
レンは意を決して、「はい」を選択した。
パネルは光ったままで、その場所にまだ存在している。が、表示に変化があり、なにやら見たこともない文様が浮かび上がったあと、ふぅっと壁の中に吸い込まれるようにして消失した。
いつのまにか、ペンダントの光も消え、宝玉も普段通りの青緑色へと戻っている。
これで、何か変わるのか――?
レンは周囲を見渡してみる。が、この最奥部の「部屋」――といってもコブのように広がった空間だが――のなかに変化したようなところは見当たらない。
(何も変わらない――? ん? いや――、そういえば、ここに来るまでにいくつか脇道の先の行き止まりにこんな「部屋」があったな。行って見るか――)
レンはもう一度壁に近づいてみる。すると、胸のペンダントが光り出し、先程のコントロールパネルが再び浮き上がることが確認できた。
(なるほど――。コントロールパネルの位置は確かに動いていない。よし、もう一度ダンジョン探索だ)
レンは再び腰の剣を鞘から抜く――。
魔物生成の項目は「最低ランク」が最低設定のようで「停止」を選択することはできなかった。
また、再湧出間隔の項目もまた、「最長期」が最低設定のようで「停止」できなかった。
(つまり、魔物が再び湧くということだろうからな――)
この部屋に入ってからすでに数分は過ぎている。
引き返すとすれば、すでに魔物が湧いていても不思議ではない。
とはいえ、魔物生成は最低ランクのまま触っていない。変わってないのなら「ゴブリン」しか湧かないはずだけど……。
(誰かが仕掛けた『罠』なんてことも、ないとは限らないしな。警戒するに越したことはない――)
レンは心を決めると、来た道を戻り始める。
ここまではほぼほぼ一本道で、脇道の先はすべて、行き止まりの少し広い空間だった。そういう箇所が、たしか2つだけ存在していたはずだ。
(最初の脇道は――、あれか。見えてきたぞ――)
レンは注意深く前進し、脇道を曲がる。
幸い、まだ「ゴブリン」には出くわしていない。
そのまま脇道を進むと、数秒で行き止まりに――。
「ああっ!! あれは! 宝箱じゃないか!!」
レンは、その行き止まりの「部屋」の中に、小さいが間違いない「宝箱」を発見した。
「開く、のか?」
レンはその宝箱に近づき身を屈める。蓋に手を掛け引き上げると、『罠』の気配もなくすんなりと宝箱が開く。
「――!! 金貨だ!! 1枚だけだけど――」
(最低ランクだしな。それにしても金貨一枚だけとはな――)
覚悟はしていたが、やはり少し物足りない。
それでも、設定が反映されたことは確認できたのだ。これは「大きな収穫」だと、気を取り直し、金貨をつまんでポケットに放り込む。
「ん? まだ何か入ってるぞ? なんだこれ――」
宝箱の底に、見たこともない玉が転がっているのが目に入った。大きさは、直径約1センチほど――銀色の玉だ。
レンがそれに手を伸ばそうとした時、その銀色の玉は突然空中へと浮かび上がり、ぱぁっと弾けると霧散してしまった。その瞬間、
ピコン……。
と、胸のペンダントが音を奏でた。
しかし、それ以上は何も起きない。
(なんだったんだ、あの球は――)
そう訝しがっている時、背後で気配がした。
はっと振り返るレンの視線の先にいたもの、それはまさしく――。
「出たな、ゴブリン……」
レンは剣を抜くとすぐに構えをとった。




