第1話 『迷宮管理者』、覚醒する
「ここで行き止まりかよ――」
レンブリーズこと「冒険者レン」は深い溜息をついた。
ここまでたったの3層。
やはり、これは『ハズレダンジョン』で間違いなさそうだ――。
(まあ、モンスターが湧くだけまだましってとこかぁ? って、湧くモンスターがゴブリンだけって、初級冒険者の練習迷宮にすらならねぇよなぁ――)
しかも、3層。しかも、ほぼほぼ一本道――。
高額鉱石もない。高額アイテムのドロップもゴブリンだけじゃあ期待できない。
レンは手にしていたショートソードを鞘へと納める。
結局最奥部まで来てみたが、最後の最後まで、宝箱すら見当たらなかった。
(ハァ――。これじゃあ大赤字じゃないか――)
このダンジョンを冒険者ギルドの探索ダンジョンに登録して稼ぐのは、どうやらこの『仕様』では、ほとんど期待できなさそうだと肩を落とすレン。
(どうして父上はこんなハズレダンジョンを――)
そう思い、もう一度大きく息を吐いたレンは、諦めて引き返そうと肩を揺らした。
その時――。
不意に胸元から熱を感じたレン。
胸元にあるのは、首から下げている父からもらった形見のペンダントだ。その先についている宝珠が明らかに熱を帯びているのを感じる。
レンは、シャツの間からペンダントを取り出してみた。
その先についている宝珠が、眩い光を放ってエメラルド色に輝いている。
なんだ? 何が起きている――?
これまでにこの宝珠が光り輝くなんてことは無かった。レンは初めて起きている異変に戸惑った。
『レンブリーズ……。レンブリーズ・デル・フォルシュタートよ。私は『引き継ぐもの』――。お前に父王からの預かり物を返す時が来た。受け取るがいい……』
レンの頭の中にそう声が響く。
その声はレンが記憶の奥底に葬り去っていた本当の名前を呼び覚ました。
「なにを、返すって――?」
瞬間、レンは目が眩むほどの閃光に包まれる――。
眩しさに思わず腕をかざし、視界を遮り目を閉じた。
しかし、その閃光は一瞬のことで、すぐに周囲には元の薄暗い迷宮の風景が還ってくる。
(ん――? なんだ? 壁が――光ってる?)
辺りを見回すと、迷宮の最奥の壁の一部が、横長の長方形型に光り輝いているのが目に入った。
もちろん、さっき見た時はそんなものは無かった。
さすがに確かめないわけにはいかず、恐る恐る近づいてその光っている場所を覗き込んだレンは、そこに写っているものを見て目を見開いた。
『ダンジョンレベル:G 名称:未定』
『魔物生成:最低ランク』
『宝物生成:停止中』
『再湧出間隔:最長期』
『鉱物生成:停止中』
『ダンジョン成長:停止中』
『その他の項目:現在未稼働』
(なんだ、これ――?)
レンはその四角い枠の中に表示されている文字を見ても、理解が追い付いていない。
これまでに何度もダンジョンに挑んできたが、『こんなもの』は見たことがない――。
『レンブリーズよ。適性『迷宮管理者』はお前に引き継がれた。『設定パネル』の操作はお前次第だ。私の役目は終わった――』
さっきの声だ!
「おい! ちょっと待てよ! これはいったい? 『迷宮管理者』ってなんだよ!?」
一人ダンジョン内で叫んでみたが、もう声はしない。そもそも、一方的に語りかけて来てただけで、こちらとの会話は成立していなかったことを考えれば、誰かがこの場に居たというよりは、魔法か何かで、音声だけが流されていたというものなのかもしれない。
「――『設定パネル』とか言ってたよな? つまり、設定を変更できるってことか――?」
レンはおそるおそるその四角い枠に指を伸ばしてみる。
(ダンジョン成長:停止中って――。どういうことだ? あ! 反応した!?)
指でその文字をなぞってみたところ、表示に変化が生じた。
『ダンジョン成長:作動・停止』
となっており、停止の方が反転表示されている――。
(もしかして、これを、作動に変えることができる?)
レンは、『作動』の文字をタッチする。
すると、今度は『作動』が反転表示された。
そして、指を離す。
ダンジョン全体が、どくん、と波打つかのように揺れた。
そして、また表示が変わる。
『ダンジョン成長:稼働中』――。




