第19話 『迷宮管理者』、戦士と再会する
「おお~! レンさま~! お元気そうでなによりでございますぅ!」
酒場に入ってくるなり、レンに向かって、大声を上げながら擦り寄ってくる大男がいた。
名を、ガイル・スカーレットという。
元王国軍近衛兵団長であり、ロジーナの上官であり、ノエリアの実父である。
――そして、レンの父親代わりでもある。
その為、レンはどうしてもこの大男を邪険にはできない。
今も、ガイルはレンをその分厚い胸板に抱き、頭をガシガシとさすってくるが、レンはしばらくされるがままでいた。
「も、もう、充分だろう! ガイル、いい加減に――」
「おおっ! これは失礼しました。あまりに久しぶりで、思わず身体が――」
と、慌てて体を離すガイル。
「お父さまは本当にレンさまが可愛くって仕方がないのですね? 実は本当の子供はレンさまの方で、私は実の子じゃないのではと本気で思いますよ」
と、ノエリアが頬を膨らませる。
「かかか。ガイル様は昔からレン推しだったからな! ノエリアには私がいるじゃないか」
と、ロジーナがノエリアの頭を撫でる。
「ったく、いつまでそんな感じなんだ? 俺ももういい年なんだぞ?」
と、口を尖らせるレンだが、正直、ガイルがいなければここまで生きてはいられなかったことはよく理解している。
そして、なによりも――。
「こんなに立派になった姿を見たら、ローザだってこうするでしょう。私は二人分、レンさまを可愛がらなければなりませんからな! はっはっは!」
と、大声で笑い飛ばす、ガイル。
ローザ・スカーレット――。
ガイルの妻で、ノエリアの母親。そして、レンの母親代わりでもあった。
「ちっ、ローザになら幾らでも抱きしめられてやるが、お前にそうされると、潰されそうできついんだよぉ!」
と、レンはさすがに堪えきれなくなって、ガイルを押しやる。
「まあこのぐらいにしておきます。ところで、レンさま。『かの人』のことで聞きたいことがあると――?」
と、ガイルはテーブルに着くなりそう言った。
なるほど、一応のところ話は通してあるようだ。さすがは、ノエリア。しっかりしている。
「ああ。父上と『かの人』との関係について知っていることを聞きたい。それに、こちらからも報告がある――」
と、レンはガイルに告げる。
ガイルはレンの瞳の色からその真剣さを察したようで、
「ふうむ――。この話は、ここではできませんな。幸い明日は非番です。宿の手配も済ませてありますので、そこへ移ってからにしましょう。それより、先に――」
と、レンに告げる。
「――ああ、俺ももう腹ペコだ。ロジーナもノエリアもまだ何も腹に入れてない」
「でしょうな。まあ、遠慮はいりませぬ。ここの勘定は気になさらず、好きなものを召し上がってください。――ほら、お前たちもだ。まずは腹ごしらえだ」
そこから、4人は心ゆくまで飲んで食べた。
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「左様ですか――。『漆黒の魔女』が……。レンさまはこれからどうなさるおつもりで?」
4人はガイルが手配していた宿に入り、ひと風呂浴びて、汗を落とし、ようやく落ち着いたところだ。
「――それにしてもこの部屋、高かっただろう?」
と、レンは、ガイルが用意したという宿の部屋をぐるりと見渡して言う。
部屋は寝室が3つと居間と食堂が付いているスイートタイプだ。
そして今4人は、その居間でテーブルを囲みながら話している。
「がははっ! 金のことは心配召さるな! 私もそれなりの給金をもらっていますからな!」
と、笑い飛ばすガイル。
「今は、王家専属護衛士でしたね? この国の王家の護衛をしているのでしょ?」
と、ノエリア。
「まあな。とは言っても、傭兵は傭兵だ。私の主君はレンさま一人だからな――」
と、ガイル。
「まあ、ガイル様がこうやって稼いでくれているおかげで、レンもノエリアも何不自由なく暮らせてきたんだ。二人とも、感謝しないとだな?」
とはロジーナだ。
たしかにロジーナの言うとおりだ。
彼女は、元王国軍近衛兵団の仕官だったから、レンは主君筋に当たる。だが、彼女の性格からか、レンに対しては実の弟のように、ときに優しく、ときに厳しく接してくれた。
そのおかげで、レンは、自身の悲運に飲み込まれることなく、それなりに前向きに生きられるようになったとそう思ってはいる。
「――ところで。その『漆黒の魔女』ですが、レンさまがお持ちになっている『翡翠のペンダント』のことは何か言ってましたかな?」
と、ガイルがようやく話の本筋に入ろうとする。
「ああ。なんでも、『宝珠に認められたか――』とか、言ってたな。それにこの宝珠の力で、迷宮を育てることもできるらしいが、俺の聞き違いでなければ、この宝珠自身も成長するみたいなことを言っていた――。それに――父上とその『漆黒の魔女』はどうやら過去に何らかの関係があったように思えたんだ。それで、お前に聞けば、何かわかるかと――」
レンはガイルの方に視線を向けてそう聞く。
ガイルは、すっと目を閉じて、大きく息を吐いた。
そして、ゆっくりと目を開けると、その瞳には、さっきまでの穏やかさはなく、修羅場をくぐり抜けてきた戦士の熱があった。
「レンさま。お話しする前に一つ聞いておきたいことがあります。もし仮に、その『翡翠のペンダント』にとてつもない力が込められていたとして、それが帝国を脅かすほどのものだったとしたら、どうなさいますか――?」
レンはガイルの瞳の熱に押し込まれるような威圧感を感じながら、そこから目を逸らすことができなかった。




