第18話 『迷宮管理者』、祭りに行く
レジルト王国レスラから馬で駆け、三人は隣国のジエスリーズ王国の王都ジエリスへやってきた。
馬もロジーナが用意してくれたものだ。
久しぶりに跨る馬の感触になれるまで少しかかったが、やはり、徒歩で来るのとは速度が違う。
ただし、馬の休息の時間が必要なため、時間計算で行けば、おおむね徒歩の半分ぐらいが平均的だ。
それでも三人は、朝方レスラを出て、夕方日が傾く前にはジエリスへと到着していた。
「いい馬だったな――」
と、レン。
「それなりに奮発したからな。帰りはこうはいかないかもだがな?」
と、ロジーナが片目を瞑って応じる。
「大丈夫ですよ。別に急いで帰る必要もないんですから、ここの冒険者ギルドで依頼をいくつかこなせば、馬代ぐらいすぐに稼げますよ――」
と楽観的なのはノエリアだ。
街に入ってすぐに、今日が特別な日だとわかるほどの装飾に歓迎される。
街中に横断幕や、三角旗が掲げられ、露店が犇めくように並んでいる。
「やっぱりすごい活気ですね! わぁ~、りんご飴にたこせんべい、からあげカップにたこやき、クレープもありますよ!!」
ノエリアが歓声を上げる。
「ノエリア、まだ祭りはこれからが本番だ。先に宿をとるぞ?」
と、ロジーナ。
「ああ、それなら大丈夫ですよ、ロジーナさん。昨日のうちに早便でお父さまに手紙を送っておいたんです。宿の手配はもうしておいてくれているはずですから、まずは王城へ行ってお父さまに会いましょう」
と、ノエリアが自慢の手際を発揮する。
「王城――か。俺はあまり行きたくないな――」
レンは思わずそう呟いた。
「ああ、もちろんそのつもりですよ、レンさん。王城には二人で行ってきますから、レンさんは、少し待っててください。――そうですね。あの酒場にしましょう。日が落ちた頃――19時ごろにあの酒場で落ち合いましょう」
と、ノエリアがさっと気を回す。
ノエリアが指さす先に、こましな酒場が見える。
名前は、『ダノンの酒場』となっていた。
「『ダノンの酒場』だな? わかった。じゃあ、19時に――」
そう言うと、レンは二人から離れた。
これだけ露店が並んでいるのなら、暇潰しにはちょうどいい。ここ、ジエリスは王都だし、今は祭事中だ。田舎町のレスラに比べれば品ぞろえも期待できるだろう。
そう思い、露店の商品を見て回る。
確かに品ぞろえは豊富だ。武器・武具・装備品・アイテム・魔法宝珠・魔導書……。技術指南書まで並んでいた。
だが、どれも値が張る。
お祭り便乗商法は、どの地域でも同じだ。
(まあ、遠いところから荷物を担いでやってくるものたちがほとんどだからな。相場が上がるのは仕方がない――)
「――ったく、酷い話だぜ? 西の方で、とうとう戦闘があったってよ?」
「ああ、聞いた。帝国の再侵攻だろ? あいつら、どこまでやれば気が済むんだろうな?」
そんな声が聞こえてきた。
レンは露店の商品を物色する振りをしながら、聞き耳を立てる――。
「今回攻め込まれたのは、カリウス王国の西の辺境領で、街が3つほど燃やされたらしい――」
「ああ……。住民もたくさん犠牲になったって聞いたぜ。あいつらの目的はいったい何なんだっていうんだ?」
「さあな――。ただ人を殺して領土を増やしたいだけなんだろう」
帝国の再侵攻が始まった――か。
一般のものには、帝国が何を目的としているのか、おそらくわからないだろう。
しかし、レンは知っている――。
あいつらの――いや、『皇帝』の目的、それは、『大陸統一』だ――。
『皇帝』は、それを成し遂げるまで侵攻を止めることはない――。
『大陸を一つとし、『唯一王』のもとに統合すれば、未来永劫、戦火に悩まされることはない。余は、大陸統一を果たし初代の『唯一王』に即位する――』
それが、『皇帝』の目的だ――。
(まったく、ふざけてやがる――)
未来永劫、戦火に悩まされることのない世界だと――?
『唯一王』が全てを掌握するだと――?
(ただの人間が、全てを掌握して永遠の平和を作るなど、本気で信じているのか――! もし本気だというのなら、その時点でそいつは『狂人』以外のなにものでもないだろうが――!)
レンは、ふつふつと怒りが湧いてくるのを感じる。
(ちっ、嫌な話を聞いてしまった――。少し早いが、酒場へ行こう。酒でも飲んで、美味いものを食おう――)
レンはそう思いなおすと、『ダノンの酒場』へと向かって歩き始めた。
街には徐々に夕闇が迫ってきている。
明かりも灯り始めた。
この、太陽神テスの感謝祭は、少し風変わりな祭りだ。
『太陽神』を敬う祭りでありながら、昼間は祭事はほとんど何も行われないらしい。
日が暮れてから、種々の祭事が始まり、明け方までそれが続き、夜明けとともに、終了する。
街の通りや店々には、夜中じゅう明かりが灯り笑い声が絶えない。
ノエリアによれば、
『太陽神を崇める祭りだと言っても、昼間にお祭りを行うと、太陽神様がお休みしてもいいと思われ、昼の明かりが無くなってしまうとまずいからなんですよ――』
というのが、昼にせず日が暮れてからする理由らしい――。
(まったく、人間というのは、どこまでも自分勝手な生き物だよな――)
レンは、ふとそう思うのだった。




