第14話 『魔女』、『亡国王子』との因縁を回想する
マアリ・ド・ジュセル――。
それが私の名前だ。
年齢は――もう忘れてしまった。冒険者登録をしてから優に百数十年は経っている。
現在はほぼ自分の家に引きこもって、付き人のルッコと二人で、農作業や酪農、魔法薬草の栽培などを行いながら、新しい魔法や魔法薬の研究に明け暮れている日々だ。
ルッコは私と同族で、魔法研究の助手として働いてくれている。
彼女のおかげで、たまに外へ出かけては、新素材の発掘や、隠された魔導書の探索などを行える。
(一人だと、留守中の家のこととか考えないといけないから、ルッコのおかげで本当に自由に出かけられるのはありがたいのよねぇ~)
それで。
そんな私がどうして、再び人族などと関わることになるのか――。
それは、『約束』と『義理』、そして少しばかりの『報恩』のせいだった。
(あいつが『翡翠のペンダント』を私のところに持ち込んでくるから――)
その男、名をリカルド・フォン・フォルシュタートと言った。
王族のお気楽第三王子が、暇潰しに冒険者をしているようなやつだと初めはそう思っていた。
「俺はな、マアリ。兄上が王位を継いだら、王家を出ようと思ってるんだ。余計な政争の火種になんかなりたくないからな――」
ある時、リカルドはそう言ってマアリに真剣な眼差しを向けてきたことがある。
「――マアリ。その時は俺と……」
マアリは慌てて、リカルドの口を押さえ、
「それは、ダメだ、リカルド。私はお前とともには生きられない」
と、リカルドにその先を言葉にする機会を与えなかった。
リカルドは人族。
私は、エリム族。
生きる時間が違う。
「――そう、か。ならせめて、これを受け取ってくれないか……。俺のお前への心の証だ」
そう言ってリカルドが私に手渡そうとしたもの――。
それが、『翡翠のペンダント』だった。
私は、それを一目見て、隠された力を読み取ってしまった。
『迷宮管理技能適性付与』――。
それがそのペンダントに籠められた力だった。
「リカルド、これをどこで――?」
「ん? ああ、このあいだもぐったダンジョンでな――。一応鑑定してもらったら、それなりに高価な値が付いた。それで、その、お前に――」
「――リカルド、お前にはこれが必要になるときが来るかもしれない。しばらく預かるが、もし、その時が来たらお前に返す。それでいいなら、受け取ってやる――」
「――――? 《《そんな時が来たら》》、でいいんだな。何か特別な力でもあるのか? 鑑定の時にそんなことは聞かなかったが……」
「――今はまだ分からん。でも、私の勘がそう告げているんだ。だから、私はこいつについて調べてみようと思う」
「そうか――。まあ、なんでもいいよ。お前の長い人生の少しの間の暇潰しに、俺が贈ったそのペンダントを眺めてくれるだけで充分さ――」
リカルドのその時の笑顔は今も覚えている――。
その数年後のことだった。
リカルドの二人の兄が相次いでこの世を去った――。
原因は、リカルドの父王の崩御による『政争』だった。
先に第一王子が第二王子に討たれ、次いで、その報復として第二王子も暗殺された。
リカルドは否応なく王位継承の渦中に取り込まれ、第二王子を暗殺した権力者集団をあぶりだし、極刑に処し、さらに、事の発端である『政争』を画策した第二王子側の権力者も捉えて誅殺した。
そして、国王リカルド・フォン・フォルシュタートが誕生した――。
(――やはり、私の「勘」は正しかった)
と、当時のマアリは当たってほしくはなかった「勘」が的中してしまったことを苦々しく思った。
(リカルドに「ペンダント」を返す「その時」が来た――か)
『翡翠のペンダント』こと、『迷宮管理技能適性付与の宝珠』については、すでに研究が終了しており、それを遠隔で監視できる魔宝珠の作成も終わっていた。
もう手元に置いておく理由はない――。
そして、「約束のその時」が訪れてしまった。
その後すぐ、マアリは「約束通り」、『翡翠のペンダント』をリカルドの手に戻す。
リカルドはその宝珠から得た「適性」を使って、国をよく治めた。
あの「適性」をあんな風に使うなんて、おそらく皆に優しいリカルドでなければ考えつかなかっただろう。
それからまた時が過ぎた。
リカルドの国はとても豊かで穏やかな国へと変わっていた。
そんなある日、国王になったリカルドが、マアリの庵をふらっと訪ねてきたことがあった。
その時に二人が交わした『約束』――。
(その為に私は今、この『リカルドの息子』を目の前にしている――。次の『迷宮管理技能適性』の継承者を見定めるために……な)
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先程からじっと見つめてくるこの女の人の視線が痛い。
レンの瞳を貫いて、頭の後ろまで突き抜けそうな冷たい視線――。
(俺、なんかしたか――?)
まるで、親の仇でも見るような「氷の瞳」だよな……。
さっきまでの、あの「愛想のいいキャラ」はどこに行ったんだ?
急に背筋に冷たい感じが――。
「え、えっとぉ――。それで、『無名の迷宮』の話――でしたね?」
と、レンはなんとか話のきっかけを掴もうと試みる。
「ああ、そうだ。私はある人との『約束』の為、お前に会いに来た。お前、『翡翠のペンダント』を持っているよな――?」
(――――!! この女、ペンダントのことを知っている――!?)
レンは思わず身構えた。
(もしかして、俺の家中の関係者か――。それとも、帝国の手の者か――)
レンは自分の表情から愛想が一気に消えていくのを感じている。
「――お前、いったい何者だ――?」
レンは少し低いトーンで目の前の女に問いかけた。




