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ハズレダンジョンから始まる祖国再興――亡国王子は『迷宮管理者』を継承する。  作者: 永礼経


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第13話 『魔女』、『亡国王子』に出会う


「う……っ!? きゃっ!」


ばしゃん――!!


 街のなか、女の短い悲鳴と何かが水の中に落ちる大きな音が響いた。

 周囲の人々はつられるようにその噴水を注視する。


「ったく、せめてもう少し上空にテレポートすれば、対応もできるのに――」


と、悪態をつく、びしょ濡れの魔法使い風の女が噴水の中から外に出ようと歩いている。


『春風よ優しく吹け――、『春の心地よい風《ヴェルナリス・ブリーゼ》』』――。


 やがて噴水の縁から這い出した「魔女」は、その右手の短杖を振るうと、そう詠唱句を紡いだ。


 「魔女」の足元から巻き起こるふわりとした風――。

 それが「魔女」の全身を包み込み、数秒後、ふぅっと消え去った。


「おおぉ……」

「なんと――」

「一気に乾いたぞ?」

「魔女ならそもそもどうして噴水なんかに落ちるかね――」


 「魔女」こと、マアリの耳に、群衆の反応が飛び込んでくる。


――恥ずかしい。


「あはっ! あははは! 大丈夫! だいじょうぶです! お気になさらず――」


 と、周囲に向かって両手を振るマアリ。


 群衆も魔法使いが何かやらかしたようだという程度の反応に落ち着き、マアリから興味が削がれ、日常に戻り始める。


――『転移門《ポルタ》』の魔法の悪いところだ。


 入力する座標の「桁数」の問題で、街のどこに転移するかが毎回「多少」ズレる。


 それでも、この魔法の仕様なのか、「地中」や「水中」に転移しないだけましだと思うほかない。


――さてと。


 目的地は決まっている。まずは冒険者ギルドだ。

 そこへ行って、この街の北にあるという『無名の迷宮』への道順を聞き出さなければならない。


 マアリは、近くに冒険者らしき者はいないかと物色する――。


 噴水広場という場所が良かったのか悪かったのか、行き交う人の数は多い。周囲には露店もいくつか出ている。


「ちょっと、聞きたいんだけど……」

と、冒険者風の若い男を見つけて無遠慮に声を掛ける。

「冒険者ギルドの場所、おしえて?」


 それなら――と、快く教えてくれる若輩冒険者。

 ありがとう! と精一杯の笑顔で応えておいて、それを「報酬」とするマアリ。

 今晩の彼の「おかず」のラインナップに一品加えたはずだ。


 なんたって、この「美少女」の微笑みだぞ? これ以上の「報酬」なんてそうそうないだろう?


 そんなことを考えつつ、ギルドへ急ぐ。


 ギルドに到着するなり、真っ直ぐ受付カウンターへ。


「この街の北の森にある無名の迷宮にいきたいの。場所を教えて――」

と、言いながら、首から下げた『冒険者証』を引っ張り出して提示する。


 受付カウンターの職員の眼がみるみる大きく見開かれ、顔色が青ざめていくのがわかる。


「こ、これは――! もしかして……もごもも……」


 いつものことだから反応は読める。

 マアリは、さっと右手を伸ばして相手の口へ押し当てた。


「しっ! それ以上言ったら、お前を黒焼きにしてやるよ? わかったね?」

と、にらみを利かす。


 受付嬢はそのままこくこくと頷いた。


「よおし、いい子だね――。じゃあ、詳しく教えて? 私、この街、あまり詳しくないの――」


 と、がらりと雰囲気を戻して「美少女」キャラへと変貌する――。

 職員の表情から恐怖と畏怖の色は消えないが、まあ仕方がない。


 マアリは冒険者証を他の誰にも見られないうちにさっと懐へと戻した。


 その時、受付嬢が、マアリの背後の方へと視線を向け、誰かを見つけたようで、ぱくぱくと口を動かしている。


「あ、あの……、今、その『無名の迷宮』の所有者さんがいらしてるんですが、ご紹介しても――?」

と、ようやくマアリにだけ聞こえるように、小声で問いかけてくる。


 なんと、それは都合がいい――。

 もちろん『無名の迷宮』も目的の一つだ。が、本来の目的はその所有者である男の方なのだ。


「そいつの名前は?」

と、マアリ。

「レ、レン・シュタルト……さま、です」

と、応じる受付嬢。


 マアリは、それを聞いてなんとなく察する。


(偽名――か)


 本名の「レンブリーズ・デル・フォルシュタート」はさすがに名乗れないかと、慮《おもんばか》る。


「――ああ、是非紹介してくれ」

と、マアリはその受付嬢へ返した。


 受付嬢はこの「危機」から脱せる口実が出来たとばかりにぱあっと表情を明るくして立ち上がると、


「レンさま! レン・シュタルトさま――!」


と、手を振って声を上げた。


「ん? 俺? なんでしょうか――」


 なんとも間の抜けた男の声が返ってくる――。


「あ、あのっ、こ、こちらの……お、お客様が、『無名の迷宮』にご興味をお持ちのようで――。是非、所有者であるレンさまに取次いでほしいと申されてまして――」

と、受付嬢。


 ほうほう、この過緊張状況で、よくぞ立ち回った。えらいえらい。こっから先はもう解放してやってもいいだろう。


 そう決めたマアリはくるりと後ろを振り向き、そこに立っている青年を見る。


「あなたが、『レン・シュタルト』さまですか? 実は私、昔、『無名の迷宮』を購入しようか迷ったことがありまして――。少しお話をきいてもよろしいですかぁ?」


と、「美少女」キャラを前面に押し出していく。


「――え? そうなんですね? どうしてまた、あの『迷宮』を――?」

と、答える男《レン》。


「それも含めて、お話を――」

と、マアリ。


「――わかりました。……受付さん、ブースを一部屋お借りしても?」

「あ、はい! どうぞ、どうぞ!」

と、「レン」の問いかけに即答の受付嬢――。


 一刻も早く、私を遠ざけたいという意思が体中から溢れているのがバレバレだ。


「じゃあ、いきましょう――」

と、「レン」がマアリを促した。


 マアリは、「はい」と返事を返し、レンについて行くことにした。


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