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楽に殺させてくれ  作者: 春山ルイ
殺し屋は生き延びる
4/7

殺し屋の責任 1

2章始まり。

 ホテルで仕事を果たす、数ヶ月前。



「どうして?」と、女が言う。


 それが、どうして自分たちがこんな目に? という意味なのか、それとも、別の意味を持つのか柴には分からない。


「どうして、あなたみたいな人がいるんですか。あなたみたいな、殺し屋が」


 どうやら、別の意味を持っていたらしい。


「騙されたんだ」


 柴は嘆息する。騙された、仕方ないじゃないか、と諦めの気持ちが肺から出てくるようだった。


 そして並び立ち、横たわる()()を見下ろす。身体には2つ、穴が空いている。1つは腿に、もう1つは胸に。足を潰してから致命傷を負わせる。よく考えられている。


「どうしてこんな目に遭うんですか、わたしたち」


「……そっちの意味もあったんだな」


「え?」


「なんでもない」


「とにかく柴さん。なにか案はない? この、()()()()()から生きて脱出する方法」と、男が言う。



 状況を整理しよう。

 場所は郊外にあるビルの地下。広さはかなりあり、いくつもの大部屋とそれらを繋ぐ廊下で構成されている。出入り口は封鎖されていて力ずくでの脱出も不可能。通信機器は没収され、助けも呼べない。地下に集められた人数は、10名。


 柴は現状に戸惑い右往左往していた男女2人と行動を共にすることにした。


「脱出方法。()()()が提示したのは、最後の1人になること、だったな」


 ここから出る方法は、どうやっても平和的にならないものだった。


 どうやって最後の1人に、となれば、それは自分以外の参加者を殺すしかない。おあつらえ向きに、人を殺せる武器は地下のあちらこちらに置かれている。これを使ってどうぞ殺してください、最後の1人になれるよう努力してください。そう告げられている。


 男はステーキナイフを、女は鎖を見つけたようだが、はっきり言ってどちらもハズレだ。柴はなにも見つけていない。探すのが面倒だから、というのが理由だ。


「司会者、ですか。いったい何者なのか」


 地下にはモニターと監視カメラが要所に設置されている。司会者、他に言いようがないためそう呼ぶが、仮面を被った人物の顔が画面に浮かび、ゲームのルールを説明し、開始を宣言した。



 男は眞壁(まかべ)、女は安達(あだち)というらしい。哀れにも、デスゲームに参加させられた一般人だ。


「僕は友だちの借金を押し付けられて。支払うために脅されて、ここまで来てしまった。連帯保証人になんてなるものじゃないね」


「わたしは恋人に騙されて……まあいろいろとあり、こんな地獄に落とされました」


 というのが、2人の参加理由だ。基本は一致していて、借金を返すため、裏社会の人間に半強制的に誘われたという因果だ。


「柴さんは、えーっと、騙されたんだっけね。可笑しいな、殺し屋も騙されるんだ」


「別に殺し屋だろうが騙されるさ。去年の春も、花粉完全カットを謳ったマスクを買ったのに、くしゃみが止まらなかった」


「それはなんか、違う気が」


「おまけに耳まで痛くなった。痛くならない、が売りのようだったのにな」


 柴の愚痴に待ったをかけるように、安達が口を開いた。


「とにかく、当面の問題は2つです。1つは、どうやってこのゲームで生き延びるか。もう1つは、この死体です」


 1つ目の問題は後に回すべきだ。今は目下の問題を片付けよう。


「このデスゲームに嬉々として参加している人がいるってことだ」眞壁はこめかみを押さえる。


「銃殺されていますね。あの、これをやった人、もしかして近くにいたりして……」


「あり得るな」


 柴は周囲を見渡した。弾痕から、そこまで時間は経っていないことが分かる。となれば、近くに潜んでいてもおかしくない。しかしこちらは3人で、いくら銃を持っているといっても、ここで姿を現すのはリスクがある。よって、この場は安全だ、と見当を付ける。


「生き延びようにも、そういう厄介者が1人いると、途端に危険が増しますよね」



 その瞬間、バンッという音、あからさまな銃声が、別の場所で鳴り響いた。



「銃声……! うわ、誰か発砲しやがった!」


「ということは、また別の誰かが犠牲に……」


 柴は音の方向を見やると、冷静に思考を巡らせた。それから安達と眞壁、それぞれに指を突きつけて、司令塔のように指示を出す。


「お前たちは揃ってここに待機だ。俺は様子を見てくる」


「はい。柴さんも──」


 気をつけて、と言おうとしたのだろうか。安達は逡巡した様子を見せ、口を閉ざした。殺し屋に心配は無用だろと思ったようだ。



   ***


 春姫はなんと言っていたっけか。


「この依頼、きな臭いんだよね」とコーヒーを飲みながら言っていた。きな臭さに対してなのか、コーヒーの苦味に対してか、しかめっ面をしていたはずだ。


「殺しの依頼なんてきな臭いものだろう」


「うわっ言うと思った。でもそういうことじゃないんだよ。報酬が妙に高額。場所が指定されている。殺害対象は4人も殺してる殺人鬼。あたしもいろいろ調べてみたけど、何故かちょっとしか情報が出てこないんだよ。4人も殺してる奴なんて、いくらでも情報があると思ったんだけど」


 春姫は自分の力が及ばないことを悔しがっているようだ。しかし妙なのは確かだ。4人も殺した人物が、社会になんの情報も残さずに生きることは難しい。それでも情報が出てこないというのは。


 権力者に隠されている。


「どうする? やめておく?」


「何故だ」


「怪しいから」


「でも金になるんだろ」


「ひぃ、金の亡者!」


「殺し屋だって、生活があるんだ」


 春姫はつまらなさそうに首をすくめる。


「もし君からの連絡が途絶えて数日経てば、プロに捜索させる。ま、そうならないよう祈ってるよ」


 

 指定の場所に行ったとき、柴の嫌な予感はそれはもう巨大に膨れあがっていた。


 黒いスーツで身なりを整えた男が、「柴様ですね。この地下にターゲットを待たせています」と迎えた。仕事さえ完了できれば良いと考える柴でも、これには渋面を作る。


「お前、俺になにをさせたいんだ」


「もちろん、ターゲットの殺害です。相手は4人も殺した殺人鬼。しかもどうやらなにか裏の世界とのパイプがある。おかげでのうのうと生きていられる。あなたのような人に頼むしか、奴を消す方法がないんです」


「どうやってこの地下に閉じ込めたんだ」


「我々の力です」


 要領を得ない回答に困惑する。


「お前たちはなんなんだ」


「依頼者の素性に興味があるのですか?」


「……ないな」


 確かに、そう言われると退くしかない。郵便配達員は、送る方も受け取る方にも、興味を持ったりしない。殺し屋もそうであるべきだ。


「それはそうと、柴様。ボディチェックをさせていただきます」


「必要か?」


「念のためでございます」


 明らかに不必要だが、いちいち反抗するのも面倒だし、波風を立てたくなかったため、柴は黙っていることにした。後々、厄介な目に遭わされるかもと思ったが、未来のことより現在のことだ、そう考える癖が柴にはあった。暢気、と言われることが多い。


「持ってない。余計な武器とか、持たない主義なんだ」


「そうでございましたね。そう、聞いております」


 そうして柴は地下に通された。厄介なことこの上ない、地獄のゲームの入口だと知る由もなく。


  ***


 そして現在。銃声がした方へ、柴は慎重に足を運ぶ。


 息を殺して、通路の角から顔を覗かせる。体格の良い男が立っている。ただ立っているだけなら心穏やかでいられたのだが、男の手には拳銃が握られており、おまけに銃口から硝煙が上がっていて、欠片も穏やかではなかった。


 銃男の前には、中年男性が倒れ伏していた。柴の位置からではよく見えないが、まず撃たれていて、助からないだろう。まだ息はあるようだが、残り数秒の灯火のようだ。


 なにか、喋っている。柴は耳を澄ます。


「弱いからだよ」


 銃男が語っているらしい。倒れている中年は返事をしただろうか。判然としない。


「弱いから、死ぬんだ。このゲームはいい。弱い奴が死んで、それ以外が生き延びる。単純明快なシステムが適応されている。地上の社会もこのくらい単純だったらいいのにな」


 それから銃男は足を上げ、中年の頭に乗せる。体重をかけ、徐々に命の残りを奪っていった。その表情には嗜虐的な色は浮かんでおらず、流れ作業を淡々とこなす作業員のような、虚無を纏っていた。


「ここから出るのは俺だよ。お前らは、俺より弱い」


 まったく厄介だな、と柴は心中でため息を吐いた。

 顔は春姫から見せられたから、分かっている。


 銃男が、4人殺した殺人鬼。今回のターゲットだ。

 依頼自体は本物で、ゲームで生き延びるついでに、自分は奴を殺さなければならないらしい。

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