第6話【Neutralized?】別れ話プロトコル
補遺 6-A:別れ話プロトコル実行ログ
記録日時: 2025/11/27 22:00
残存猶予: 地球衝突まで 60 分
担当: 佐藤研究員
支援: 財団専属恋愛心理カウンセラーチーム(遠隔)
修復されたSCP-XXXX-J 石板は、
もはや「オブジェクト」というより
重力井戸の中心のような存在感を放っていた。
佐藤研究員、着席。
額の汗が止まらない。
恋愛心理カウンセラーチーム(遠隔):
「佐藤くん、聞こえますか?
大丈夫です、これはよくある別れ話です。」
(内部注記:
なお、対象は宇宙規模生命体である)
佐藤研究員:
(小声)
「よくある別れ話のスケールじゃないんですが……」
カウンセラーA:
「いいですか、
相手を否定しない自分を下げる未練を残さない
この三原則を守ってください。」
カウンセラーB:
「あと、
沈黙=失敗です。
間を空けないでください。」
(人類の命運、会話のテンポ管理に委ねられる)
【対話開始】
佐藤研究員:
(深呼吸、スクリプトを握りしめる)
「……ねえ、聞いて。
僕は……君のことが、大好きだ。」
SCP-XXXX-J 本体:
『……え?』
(観測ログ:
声のトーンが 0.8Hz 上昇。
※これは期待の兆候)
佐藤研究員:
(慌てて続ける)
「でも、それと同時に……
君は、あまりにも素晴らしすぎる。」
「君の愛は、
恒星より重く、
銀河より深い。」
「この太陽系という、
あまりにも狭い世界では……
君を幸せにできない。」
SCP-XXXX-J 本体:
『……それって』
『私が、重いってこと?』
(警告ログ:
この質問に対する返答ミス=即XK)
佐藤研究員:
(反射的に)
「違う!違うんだ!」
(スクリプト確認、汗が滴る)
「重いんじゃない。
完璧すぎるんだ。」
「僕は……
君の重さに、
見合う存在じゃない。」
SCP-XXXX-J 本体:
『……』
(沈黙 3.5 秒
※観測チーム全員、呼吸停止)
終局フェーズ
SCP-XXXX-J 本体:
(静かに、しかし確かな声で)
『……そう、か。』
『私、
一生懸命だったんだけどな。』
佐藤研究員:
(今だ! 共感フェーズ!)
「うん。
だからこそ、だよ。」
「君は、
もっと広い宇宙で、
もっと自由でいい。」
SCP-XXXX-J 本体:
『……ふふ。』
『そんなこと、
初めて言われた。』
(軌道データ:
地球接近速度、減速開始)
SCP-XXXX-J 本体:
『わかった。』
『無理に一緒にいるより、
綺麗な思い出のまま、
離れたほうがいいこともあるよね。』
佐藤研究員:
成功……?
SCP-XXXX-J 本体:
『幸せになってね。』
『でも……
たまには、私のこと、思い出して。』
『いい友達でいよう?』
佐藤研究員:
(内心絶叫)
(いい友達!?
それ一番切れないやつ!!)
結果
SCP-XXXX-J 本体は、
地球軌道を静かに離脱。
その進路は、
太陽系外縁部へと向かう。
石板(通信機)は、
完全沈黙。
オブジェクトクラス:
Neutralized?(暫定)
補遺 6-B:プロトコル成功後の状況
記録日時: 2025/11/28
サイト-██ に、
久方ぶりの「普通の静寂」が戻る。
██博士:
(感極まって)
「我々は……
恋愛心理学で、
宇宙を救ったのだ……!」
拍手。
すすり泣く職員。
一方。
佐藤研究員:
(ベッドの上、点滴付き)
「……成功した、はずなんです。」
「でも……
友達って言われたんです。」
「宇宙生命体と、
友達……」
医師:
「……少し休みましょう。」
内部注記:
佐藤研究員は任務成功にもかかわらず、
Keter級の精神的後遺症を発症。
現在も、
夜空を見ることができない。
結びの言葉
我々は、
物理的な終末を回避した。
しかしその代償として、
人類は――
「宇宙規模の元恋人」と、
気まずい友人関係を結ぶ
という、
新たな概念的脅威を背負ったのである。




