第5話【Thaumiel】 史上最悪のデート
アイテム番号:SCP-XXXX-J
(通称:SCP-MST-01-J 本体)
オブジェクトクラス
Apollyon / Thaumiel(暫定併記)
※「使えるが、使うたび人類の尊厳が削れる」ため。
特別収容プロトコル(緊急対抗策)
SCP-XXXX-J 本体による地球降下(=一方的な再会)を阻止するため、以下の緊急プロトコルが承認された。
1.対抗アノマリーの投入
既知の最強クラス破壊系アノマリーである SCP-███(通称:破壊の魔神)を、地球低軌道上にて SCP-XXXX-J 本体と接触させる。
本作戦は正式に
「人類最後のカップリング作戦(プロトコル:ジゴクノサタ)」
と命名された。
2.目的の偽装
SCP-███には、作戦の真意(=痴話喧嘩による精神疲弊狙い)を秘匿し、
「地球を脅かす別の異星生命体を破壊せよ」
という通常業務として指示を与える。
3.職員の選抜
本作戦の指揮・観測には、
・恋愛経験が豊富
・修羅場耐性あり
・元カノ/元カレの長文メッセージを読破した実績あり
の職員のみを配置する。
(※倫理委員会注記:
「これをThaumielと呼ぶのは、言葉の冒涜ではないか」)
説明
SCP-XXXX-J 本体は、物理的破壊をほぼ受け付けない一方、
他者の精神構造に重さという形で干渉する能力を持つ。
財団はこの特性に着目し、
「より重い存在同士を衝突させれば、相互に疲弊するのではないか」
という極めて雑かつ後戻りできない仮説のもと、
SCP-███(破壊の魔神)をお見合い相手として投入した。
結果として、本オブジェクトは
Apollyon(回避不能な脅威)でありながら、Thaumiel(使うと世界が壊れる兵器)
という、前例のない二重分類状態に突入している。
インシデントログ:人類最後のカップリング作戦
発生日時: 2025/11/26 18:00
観測: ██博士、職員観測チーム
接触対象:
SCP-XXXX-J 本体
vs
SCP-███(破壊の魔神)
18:04:接近フェーズ
(宇宙空間。恒星光を背に、SCP-███がゆっくりと接近。
その存在だけで、周囲の衛星軌道が歪む。)
SCP-███:
(低く、揺るがぬ声)
「貴様が……地球を脅かす存在か。」
「私は破壊。
星を砕き、文明を終わらせ、
存在そのものを否定する者。」
「理由は不要。
対話も不要。
――破壊のみが、私の言語だ。」
(観測員注記:
SCP-███はこの時点で、
即時殲滅が可能であると判断していた。)
SCP-XXXX-J 本体、わずかに軌道を傾ける。
18:05:初回応答
SCP-XXXX-J 本体:
「……へぇ。」
「最初の一言がそれ?
自己紹介が破壊ですって、
正直、会話する気ない人のテンプレだよね。」
SCP-███の周囲で、重力波が跳ねる。
SCP-███:
「貴様……恐怖を感じていないのか?」
SCP-XXXX-J 本体:
「うん。
だってそれ、
怖がってほしいって言ってるのと同じだもん。」
「ねぇ、
そうやって強がってないと、
自分の価値保てないタイプでしょ?」
(※SCP-███、沈黙 1.2 秒
この種の沈黙は、極めて稀)
18:08:価値観の衝突
SCP-███:
「私は数多の存在を終わらせてきた。
星々は私を恐れ、
文明は私を神話として記録する。」
「それが、私の存在証明だ。」
SCP-XXXX-J 本体:
「……で?」
「壊した後、
誰か残るの?」
SCP-███:
「……何?」
SCP-XXXX-J 本体:
「全部壊して、
拍手もなくて、
すごいねって言ってくれる相手もいなくて。」
「それで、満足?」
(SCP-███、身体表層の破壊エネルギー出力が低下)
18:12:核心への踏み込み
SCP-XXXX-J 本体:
「あなたさ、
最強でいる限り、
誰も本音言ってくれないでしょ。」
「怖いから。
壊されるから。」
「でもね、それ……
孤独だよ。」
SCP-███:
(怒気を孕む)
「黙れ。
私は孤独など必要としない。」
SCP-XXXX-J 本体:
「必要ないって言う人ほど、
一番気にしてる。」
(観測員ログ:
この時点で SCP-███ の攻撃行動が完全停止)
18:18:精神的主導権の逆転
SCP-███:
「……貴様は何だ。」
「私を破壊しに来たわけでもない。
従わせたいわけでもない。」
SCP-XXXX-J 本体:
「うん。」
「ただ、
ちゃんと向き合ってほしかっただけ。」
「地球もね、
最初はそうだった。」
SCP-███:
「……地球?」
SCP-XXXX-J 本体:
「元カレ。」
(※観測員全員、同時に頭を抱える)
18:24:決定打(人格否定)
SCP-XXXX-J 本体:
「あなたの破壊衝動、
全部自分を見てほしいって叫びだよ。」
「でもね、
壊すだけ壊して、
理解されないって拗ねるの、
一番ダサい。」
SCP-███:
(声が震える)
「……私は……
破壊しか……知らない……」
SCP-XXXX-J 本体:
「それ、
それしか教わらなかっただけでしょ。」
18:30:崩壊
SCP-███:
(低下した声)
「……解析不能……」
「この異常性は……
破壊では……対処できない……」
「なぜ私は……
宇宙空間で……
説教を……」
SCP-███:
「……もういい……
帰る……」
SCP-███、自発的撤退。
軌道反転。
結果
SCP-███は敗北していない。
ただし、
「これ以上関わると、自我が削れる」
と判断し、
史上初めて
精神的自衛のための撤退を選択した。
SCP-XXXX-J 本体:
補遺 5-A:作戦後の状況
記録日時: 2025/11/26 19:00
SCP-XXXX-J 本体は、魔神を退けたにもかかわらず、
地球への降下を継続。
SCP-XXXX-J 本体:
「はー……最悪。
変な男に絡まれた。
ねぇ地球、あなたはもっと優しかったよね?
……慰めて?」
██博士:
「この異常性は、
重い女性耐性のない男性アノマリーには有効だが、
地球への脅威は一切減っていない!!」
佐藤研究員:
「これ以上、宇宙空間で痴話喧嘩に投入できるSCPは存在しない。
人類は、
感情という最終兵器を前に、すべての切り札を使い切った。」
結びの言葉
本オブジェクトは、
物理的破壊力を
精神的な面倒くささで無効化するという、
財団の論理と尊厳を同時に破壊する
史上最悪の愛の抑止力である。




