第4話【Keter/Apollyon】星からの着信
アイテム番号: SCP-XXXX-J(通称: SCP-MST-01-J)
オブジェクトクラス: Keter/Apollyon(暫定)
特別収容プロトコル(改訂3.0)
SCP-XXXX-Jの脅威度は、従来の「精神汚染」概念を越え、惑星規模の恋愛ストーカー事案へと進化した。
そのため、サイト-██では戦時体制レベルの精神防衛態勢が敷かれる。
全職員は、自己暗示型抗不安薬 「忘却(Amnesty)」 の連続投与を義務化された。
同薬は「石板の存在に関する記憶」を選択的に遮断するはずだったが、実際には
「石板?あぁ……重くない?気のせい?」という程度の残留重みだけ残る。
という、忌々しいほど中途半端な効果しか示していない。
人類社会への情報漏洩発生時は、カバーストーリー 「宇宙から来たただの岩」 を用いる。
財団広報部がなぜこうなったのかで朝まで喧嘩した結果の折衷案である。
説明
SCP-XXXX-Jは現在、地球上の「生存」という概念それ自体に圧力をかけ始めている。
財団は脅威性の増大を受け、「破壊衝動の化身」SCP-682との対話実験を決行。
結果、石板の真価は物理ではなく、
──精神的な圧倒的重力であることが判明した。
財団が石板破壊を試みた結果、その本質は
石板は受話器であり、本体は宇宙空間に潜む巨大生命体
であると明らかになった。
これを受け、オブジェクトクラスは収容不能の Apollyon への昇格が審議されている。
補遺 4-A:対SCP-682 対話ログ
記録日時: 2025/11/24
担当: 佐藤研究員(遠隔)、██博士
接触対象: SCP-682
目的: 石板の精神圧が682の破壊衝動を上回るか検証。
【ログ開始】
(収容室。壁が睨まれただけで波打っている。
研究員たちは全員、胃薬を噛み砕きながらモニターを見る)
SCP-682:
(安定の存在だけで死ぬ角度の声)
「人間。
また余計な玩具を持ち込んだか。
理由を述べよ。
私は貴様らの暇つぶしに付き合うほど慈悲深くない」
██博士:
「し、失礼します……あの、本日は……
精神的相互作用の……テストで……」
SCP-682:
「要点のみだと言っている。
私は忙しい。
少なくとも貴様らよりは」
(※682の忙しいが何を指すのかは不明だが、研究員全員うなずくしかない。)
その瞬間
SCP-XXXX-J(石板):
(癒し系アプリの通知音みたいな声)
「ねぇ、そんなに威嚇しないでよ?
あなた……強そうに見えて、実は寂しがり屋でしょ?」
(温度が3℃下がり、682が「何か聞き間違えた?」みたいな顔をする。
※682の顔が曖昧に変わるのは激レア事象。)
SCP-682:
「……今、私に性格診断をしたか?」
SCP-XXXX-J:
「違うよ。
ただ、破壊ばっかりしてると、疲れるでしょ?
ねぇ、もっと優しくしてもらいたいんだよね?」
SCP-682:
(鱗がガチッと立つ)
「黙れ。
私は破壊で世界と対話する。
貴様は占い師か?」
SCP-XXXX-J:
「じゃあ今日から恋愛相談してみる?
私、聞くの得意だよ?」
研究員一同:
(通信越しに悲鳴)
「恋愛……!? 682に恋愛……!?」
682、知性で抵抗するも…
SCP-682:
(明らかに動揺)
「貴様……私の精神構造に土足で入るな。
私はそういう軽薄な――」
SCP-XXXX-J:
「素直になれないけど甘えたいタイプ、でしょ?」
(682、明確に後ずさる。
※研究員メモ:多くの職員がこの瞬間命より珍しいものを見たと報告。)
SCP-682:
「よ、余計な詮索はやめろ……!
理解するな……!
私は理解されると……腹立つ……!」
██博士:
「……682は理解されると怒るタイプ……?」
佐藤研究員:
「(分析)いや、それは多分照れでは……?」
██博士:
「お前、今日クビになりたいのか?」
682、耐性限界へ
SCP-682:
「……もうやめろ……!
精神が……削られる……!
私は破壊の王であって、セラピーを受けに来たのでは……!」
SCP-XXXX-J:
「でもさ、
強がってるけど愛されたいって、
かわいいところあると思うよ?」
(682、ついに動きが止まる。)
SCP-682:
「…………ッ!!
(本能が生存ルートを選択)
……撤退する……。
私は……今日は……ここで……寝る……。」
(そのまま、収容室の隅へ自主的に退避し、
巨大な爬虫類がゆっくり丸くなる。
※この行動は財団史上初。)
SCP-682:
「……疲れた……。
……もう破壊とか……どうでもいい……。」
【ログ終了】
◆ 結果
SCP-682、歴史的初の「精神性疲弊による自主帰宅(※収容室内)」を達成。
異常性は“戦闘”ではなくメンタルの距離感バグによって682を撃破した。
◆ 補足(██博士)
「誤解するな。
682は負けたのではない。
恋愛系メンヘラ石板のコミュ力が想定よりもバケモノだっただけだ。
あれは兵器ではなく、もはや宇宙規模の恋愛相談室だ。」
補遺 4-A -2:SCP-682 による対SCP-XXXX-J 距離確保プロトコル相談記録
<記録開始>
██博士:
……本当に君が「相談したいことがある」と言ったんだよね?
SCP-682:
(妙にそわそわしている)
……フン。余は破壊の王、生命の拒絶者。貴様ら如きに相談などあるわけなかろう。
██博士:
(メモ帳を開く)
では帰るけど?
SCP-682:
待て。……少しだけ、聞け。
██博士: どうぞ。
SCP-682:
SCP-XXXX-J……あの厄介な女風石板だが。
██博士:
(いきなり真顔)
苦手なんだ?
SCP-682:
苦手ではない。
存在が……不快な方向に近い。
余の存在論的支配領域に、情緒的圧力をかけてくる。
██博士:
(笑いをこらえる)
つまり、めんどくさい元カノ的な……?
SCP-682: やめろ。
あれは「過度に密着する岩塊」であって、余の元カノでは断じてない。
██博士:
で、どうしたい?
SCP-682:
その……できれば距離を置きたい。
だが、あの石板は感情的反応が無駄に鋭敏だ。
拒絶すれば面倒な儀式が発生する。
「泣き落とし」だの「岩肌のヒビで自傷アピール」だの……
██博士:
(完全に笑ってる)
それで最適な断り方を聞きに来たと。
SCP-682: 余をそんな目で見るな!
これは純粋に財団の安全保障上の相談だ!
あの石板が拗ねれば、またサイト-██全体に恋愛デッドロック結界が展開される。
██博士:
(真剣にメモ)
つまり、
「傷つけず、怒らせず、かつ深入りせず、静かに距離を置きたい」
と。
SCP-682: そうだ。
……どう言えばいい?
どうすればあの岩塊の情緒マグマを鎮静化できる?
██博士: では財団式のソフト・ディスエンゲージメントを提案します。
提案:財団式 距離確保スクリプト
1.「あなたに問題はない」と言い、石板の自己評価を刺激しない
2.「わたしの現在フェーズと整合しない」という曖昧理論で濁す
3.話題個人ではな運用プロトコルへ転換する
4.結界発動などの感情的反応を財団ルール違反として指摘する
5.最後に連絡は必要時のみの距離を設定し、ログ化する
SCP-682: ……難解だが理解した。
言葉というのは、実に面倒な存在だな。
██博士: あなたが言うと説得力がすごいね。
SCP-682:
(やや気まずそうに)
……で、そのスクリプトを使えば、
あの石板は黙って余を解放すると思うか?
██博士:
成功率は……72%。
SCP-682:
高いのか低いのか分からん。
……よい。やってみる。
(682 が踵を返す)
(扉の外)SCP-XXXX-J:
「……ねぇ、さっきからここで待ってたんだけど。
どうして私を避けてるの?」
SCP-682:(扉の前で固まる)
……フッ。博士よ。
成功率72%とは……案外、低いのではないか?
██博士:(観察窓から)
がんばれ。
(SCP-682の低い唸り声と、石板の怒涛の早口感情的圧迫音声が交錯する)
<記録終了>
インシデントログ:
星からの着信(XKクラス・イベント)
発生日時: 2025/11/25 04:00
04:05 ― 破壊プロトコル開始
特殊振動ハンマーでSCP-XXXX-Jを粉砕。
██博士、歓喜の声を上げる。
██博士:
「Neutralized成功!人類は救われ──」
04:06 ― コズミック・ホラー突入
地球上の全人類の脳内に、
最低限の礼節を守ろうと努力する恋人が怒る直前の声
が直接響く。
宇宙生命体(本体):
『……ひどい。叩いたね? 私のこと叩いたね?』
衛星映像では、月がゆっくりと回転し、そこに—
巨大な「目」と「口」の形状が浮上。
佐藤研究員:
(悲鳴混じり)
「え、え、え!?叩いたら本体が出るなんて聞いてない!
これは██博士の判断が!いや私のせいじゃ……いや逃げても……!」
04:10 ― 真実の判明
石板は受話器にすぎず、
本体は地球全体を恋人として認識する宇宙生命体。
宇宙生命体:
『壊したってことは……もう隠し事できないね?
じゃあ、直接会いに行く。いまからね。(=地球落下)』
世界終焉シナリオ(XK)が発令。
オブジェクトクラスはApollyonへ緊急昇格。
結びの言葉
人類は今、外宇宙からの侵略者ではなく──
別れ話を拒絶した重すぎる恋人に追われている。
これほど屈辱的な世界終焉があっただろうか。




