306話 シンプルにしてやるよ。
306話 シンプルにしてやるよ。
あまりにも直球すぎる問いかけに、
ライラスはピタっと固まってしまう。
この状況で即答できるほど、ライラスは有能ではない。
頭の中で、無数の答えがグルグルとまわる。
(どう答えるべきだ……まだ、どちらにつくか、結論を出すべきじゃない。今、答えを出すのは危ないギャンブル。将来的に、クロッカ様が、ガリオ様に対抗できる可能性については、父上と散々話し合ったから、ありえない話ではないと思っている……しかし、絶対ではない。まだ、イーブン。できれば、ギャンブルはしたくない。どちらにつくにしても、確率が限界まで高まった時にしたい……だが、そんな甘い先送りを、カドヒトが許すだろうか……)
と、大量の思考で埋め尽くされてフリーズしているライラスを尻目に、
ラーズは、一度、バレないよう、心の中でタメ息をついてから、
カドヒトに、
「クロッカ様につきたい……というのが、本音なのだが……しかし、我々親子はどちらも立場が、あまりにも複雑だ。簡単に結論は出せない……ということは分かってもらえるかな?」
と、かなり言葉を選びながら、そう言った。
ラーズの立場を考えると『クロッカ様につきたい』と『明言する』のはかなりのリスキーなチャレンジ。
このリスクのある行動で、カドヒトに『敵対する気はない』という意味を最大限込めた。
これなら、こちらの意図を多少は理解してくれるだろう……という想いを込めたメッセージ。
だが、カドヒトは、
「複雑なのか……じゃあ、シンプルにしてやるよ。これ以上ないくらいにな」
冷たい声でそう言うと、
右手をサっと薙いだ。
その瞬間、
ラーズの右腕がスパっと切断され、
斬られた右腕がヒュっと宙を舞う。
腕を切られた父を見て、息子のライラスが、
反射的に、
「ぅうぉっ!!」
と、低めの悲鳴をあげてしまう。
一般人なら無理もない反応といえるが……彼は皇帝なので、『なんとも情けない態度』と言わざるをえない。
できれば、『人の上に立つ者』には、『いかなる時でも、凛としていてほしいもの』だが、しかし、ライラスにその素養はない。
ライラスは『人間として、そこまで劣っているわけではない』が……『王として優れているかといえば、決してそうではない』のが実情。
ラーズは、無様に悲鳴をあげたライラスの頭部に、
残っている左手で、ガツンとゲンコツをぶちこんでから、
痛みに耐えつつ、『欠損治癒ランク6』という高位魔法で、右腕を修復して、
「む、息子が無様な声を上げてしまったことを、謝罪する。申し訳なかった、カドヒト殿」
「躾がなっていない……とは言わないぜ。王の素養ってのは、教育でどうにかなるものじゃねぇ。ラーズ、お前の息子には、王の資格がない」
「……その点に関しては、息子も自覚しておるよ。その器ではない。精神があまりにも未熟で脆弱。……だからこそ、龍神族の御方々も、安心して、息子に、皇帝の地位を任せているのだろうとも思う。真に王の器たりうる者に、王の地位を与えてしまうと、余計な反乱を招きかねないから」
「自分の息子なのに、ぼろくそ言うじゃねぇか。せめて、親のお前だけは、『ウチの坊ちゃんは世界一ィイイ』って言ってやれよ。これじゃあ、あまりにも、ライラス坊ちゃんが可哀そうだぜ。何かないのか、良い所の一つや二つ」
「息子は緩衝材としては非常に有能。アタマも悪くないし、でしゃばりもしないし、そこまで欲深くもない。そして、君ほどではないが、それなりに高潔だ。潔癖と呼べるほどではないが、私腹を肥やす豚ではなく、民のために何ができるかを最優先で考えることができる傑物。……ゆえに、『本来の資質を生かした上で、最も輝けるポジション』は……皇帝ではなく、財務を担当する大臣などだろうな」




