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全知の鑑定士、異世界で才能を仕事に変える  作者: 御影のたぬき


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第9話「人を雇う」

 数日後、蒼太がギルドに顔を出すと、受付の前に、見慣れない行列ができていた。


「あの、これ、何の列ですか」


 蒼太が近くにいた冒険者に聞くと、その男は、ちらりと蒼太を見て、少し驚いた顔をした。


「え、あんた、鈴木さんだろ。あんたに会いに来た連中の列だよ」


「俺に……?」


「ミナちゃんの話、聞いてないのか。適性、ちゃんと見てもらえるって、結構噂になってるぞ」


 蒼太は、思わず言葉に詰まった。


 まさか、こんなことになっているとは思っていなかった。


「あ、鈴木さん!」


 受付の職員が、蒼太に気づいて、慌てた様子で近づいてきた。


「実は、その、ちょっとお願いがありまして……」


「これ、全員、俺に用があるんですか」


「はい。適性を見てほしいっていう方が、ここ数日で急に増えてしまって」


 職員は、申し訳なさそうな顔で続けた。


「もちろん、無理にとは言いませんが、少しでもお時間をいただけたら」


 蒼太は、行列を見渡した。


 十人以上は並んでいる。


 みんな、緊張した面持ちで、蒼太の方をちらちらと見ていた。


 列の先頭にいた若い男が、おずおずと声をかけてきた。


「あの、俺、討伐依頼ばっかり受けてるんですけど、全然成果が出せなくて。ミナから、鈴木さんに見てもらったら、って言われて」


「ミナさんの紹介で、来てくれたんですね」


「はい。あいつ、今すごく生き生きしてて。俺も、何か向いてることがあるなら、知りたいなと思って」


 その言葉に、蒼太は、少し胸が熱くなるのを感じた。


 自分がやったことが、こうして、また別の誰かの背中を押している。


「……とりあえず、今日できる分だけ、やってみます」


 蒼太は、そう答えるしかなかった。


「あ、その前に」


 蒼太は、思い出したように、職員に声をかけた。


「一つ、聞いてもいいですか」


「はい、何でしょう」


「これ、俺、ボランティアでやってるわけじゃないんですけど。ギルドから見て、何か報酬とか、出してもらえるものなんですか」


 職員は、少し慌てた様子で、姿勢を正した。


「あ、申し訳ありません、そこの話、まだしていませんでしたね」


「これだけの人数、無償で対応するのは、正直、俺も生活があるので」


 蒼太は、はっきりとそう伝えた。


 これまでは、ミナのような個別のケースだったから、なんとなく善意でやってきた。


 けれど、これだけの規模になると、話は別だ。


「ギルドとしましても、鈴木さんの鑑定のおかげで、依頼の失敗率が下がったり、冒険者の定着率が上がったりと、実際に助かっている部分は大きいんです」


 職員は、少し考えるように続けた。


「一人あたり、銅貨五十枚でいかがでしょうか。人数分、まとめて日ごとにお支払いします」


「銅貨五十枚、ですか」


 蒼太は、頭の中で計算した。


 十五人見れば、銅貨七百五十枚、つまり銀貨七十五枚。


 決して少ない金額ではない。


「それに加えて、実際に紹介が成立して、パーティーへの加入や、依頼の成功に繋がった場合は、成功報酬も別途お出しします」


「それは、ありがたいです」


 蒼太は、素直に頭を下げた。


「では、正式に、ギルドの適性鑑定員として、業務委託の形で契約させていただいてもよろしいですか」


「はい、お願いします」


 こうして、蒼太の鑑定は、ただの厚意ではなく、正式な仕事として認められることになった。


 ---


 その日一日、蒼太は依頼をこなす時間もなく、ひたすら鑑定を続けることになった。


 戦闘に自信のない冒険者。


 自分の適性が分からない駆け出し。


 なんとなく今の仕事に違和感を感じている若者。


 一人ひとりに向き合っているうちに、あっという間に日が暮れていた。


 中には、蒼太の鑑定を疑ってかかる者もいた。


「本当に、そんなことまで分かるのか?」


 がっしりした体格の中年冒険者が、腕を組みながら聞いてきた。


「まあ、見てみないと、何とも」


 蒼太は、そう答えて、鑑定をかけた。


 ――交渉力、統率力に優れる。単独行動より、集団を率いる役割に適性あり。


「あなた、パーティーのリーダー、向いてると思いますよ。むしろ、前衛で戦うより、指示を出す側の方が力を発揮できそうです」


「俺が、リーダー、か……」


 男は、しばらく黙り込んでから、ぽつりと呟いた。


「実は、昔から、周りに指示出すのは得意でな。でも、戦闘力が中途半端だから、いつも脇役扱いされてきた」


「戦闘力と、統率力は、別の才能ですからね」


 蒼太がそう言うと、男は、なんとも言えない表情で頷いた。


「疲れた……」


 宿に戻る頃には、さすがに蒼太もぐったりしていた。


 食堂に着くと、健太たちが心配そうな顔で待っていた。


「大丈夫か、蒼太。顔、めちゃくちゃ疲れてるぞ」


「今日、十五人くらい見たかも」


「十五人!?」


 隼人が、驚いた声を上げた。


「そりゃ疲れるわ」


「鑑定自体は、そんなに大変じゃないんだけど。話を聞いたり、説明したり、その後の相談に乗ったりが、結構時間かかって」


 蒼太は、椅子に座り込みながら、ため息をついた。


「これ、正直、俺一人じゃ、そのうち回らなくなる気がする」


 ---


「だから言っただろ」


 健太が、少し呆れたような、でも心配そうな顔で言った。


「これ、噂になったら、どんどん人が増えるって」


「まあ、そうなんだけど」


 蒼太は、頭をかきながら、考え込んだ。


「かといって、断るのも、なんか違う気がするんだよな。せっかく頼ってきてくれてる人を、無下にはしたくない」


「その気持ちは、分かるけどさ」


 美穂が、心配そうに口を挟んだ。


「蒼太くんが倒れちゃったら、元も子もないですよ」


「だよな……」


 蒼太は、しばらく黙り込んだ。


 鑑定そのものは、疲れない。


 魔力も使わないし、体力も消耗しない。


 けれど、一人ひとりと向き合って、話を聞いて、説明して、必要なら紹介先まで考える。


 その作業に、時間と気力を使い切ってしまっていた。


 ---


「じゃあさ」


 隼人が、静かに口を開いた。


「鑑定は蒼太にしかできないけど、それ以外の部分は、誰かに任せられないか?」


「それ以外の部分?」


「例えば、来た人の話をあらかじめ整理しておくとか、順番を管理するとか、鑑定後の紹介先を調整するとか。そういうのって、必ずしも蒼太じゃなくてもできると思うんだ」


 蒼太は、その言葉に、はっとした。


「確かに……鑑定だけなら、一人あたり、そこまで時間かからないもんな」


「時間を食ってるのは、その前後の部分ですよね」


 隼人が、頷きながら続けた。


「そこを誰かに任せられれば、蒼太は鑑定に集中できるし、負担もかなり減ると思う」


「でも、誰に頼めばいいんだろう」


 蒼太は、腕を組んで考え込んだ。


 健太は荷物運びで忙しいし、美穂はユウキとの薬草採取がある。


 隼人も、商会の帳簿仕事がある。


「みんな、それぞれの仕事があるもんな……」


 ---


 翌日、蒼太がギルドへ向かう途中、道端に座り込んでいる青年を見かけた。


 年齢は、蒼太たちと同じくらいだろうか。


 小綺麗な身なりをしているが、どこか元気のない様子だった。


「大丈夫ですか」


 蒼太が声をかけると、青年は、少し驚いた様子で顔を上げた。


「あ、すみません、お見苦しいところを」


「いえ、何か困ってるみたいだったので」


 青年は、少し躊躇いながらも、事情を話し始めた。


「実は、俺、元は商家の三男でして。家業を継げるわけでもなく、かといって冒険者になる度胸もなくて。今、住み込みの仕事を探してるんですけど、なかなか見つからなくて」


「商家の三男さん、ですか」


「はい。ロイドといいます」


「鈴木蒼太です」


 蒼太は、少し興味を惹かれた。


「良かったら、ちょっと見せてもらってもいいですか。適性とか」


「え、鑑定していただけるんですか」


「はい」


 蒼太は、ロイドに手をかざした。


「知識鑑定」


 ---


 情報が、頭の中に流れ込んでくる。


 戦闘系の能力は、平凡だった。


 けれど、それとは別に、いくつか興味深い数値があった。


 対人交渉力。


 事務処理能力。


 段取り力。


 どれも、平均を大きく上回っている。


「あの、ロイドさん。もしかして、人と話したり、物事を整理したりするの、得意じゃないですか」


 ロイドが、目を丸くした。


「え、なんで分かるんですか」


「実家にいた頃、番頭さんの手伝いで、帳簿や取引先とのやり取りをよくやってたんです。それが、得意っていうか……好き、だったんですけど」


「それ、めちゃくちゃ役に立つ才能だと思います」


 蒼太は、思わず身を乗り出した。


 これは、まさに今、自分が求めていたものだった。


「才能、ですか。俺、そんな風に言われたの、初めてです」


 ロイドが、少し驚いたように呟いた。


「実家では、商売っ気がない、三男坊なんて、あまりいい扱いはされてこなかったので」


 ---


「もしよかったら、なんですけど」


 蒼太は、少し緊張しながら切り出した。


「俺の手伝いを、してもらえませんか」


「手伝い、ですか」


「俺、最近、いろんな人から適性の相談を受けるようになったんですけど、正直、一人じゃ回らなくなってきてて。来る人の話を整理したり、順番を調整したり、そういうのを手伝ってくれる人を探してたんです」


 蒼太は、これまでの経緯を、簡単に説明した。


 ミナの話。


 行列ができたこと。


 隼人からの提案。


「もちろん、ちゃんと報酬も払います。今の稼ぎからなら、それなりに出せると思うので」


 ロイドは、しばらく黙って、蒼太の話を聞いていた。


「本当に、いいんですか。俺、冒険者としての実績も何もないですけど」


「実績とか関係なく、ロイドさんの才能が、まさに今、必要なものなんです」


 蒼太は、はっきりとそう言った。


「あの、いくらくらい、出していただけるものなんでしょうか」


「そうですね……」


 蒼太は、少し考えた。


 昨日の鑑定人数と、ギルドからの鑑定料を、頭の中で計算してみる。


 十五人見れば、鑑定料だけで銀貨七十五枚。


 そこに成功報酬や、いつもの依頼の稼ぎが加わる。


「一日銀貨十枚払っても、余裕で黒字になるな」


 蒼太は、小さくそう呟いた。


 しかも、ロイドが手伝ってくれれば、一日に対応できる人数自体が増える。


 つまり、給金を払った上で、稼ぎそのものも底上げされる計算になる。


「銀貨で言うと、一日十枚くらいでどうでしょう。もし増えてきたら、そこはまた相談で」


「一日、銀貨十枚……」


 ロイドは、少し驚いた顔をした。


「それ、うちの実家の使用人の給金より、いいくらいです」


「じゃあ、決まりですね」


 蒼太は、そう言って、笑顔で手を差し出した。


「よろしくお願いします、ロイドさん」


「――はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 ロイドは、勢いよく頭を下げた。


 その姿は、先ほどまでの元気のない様子とは、まるで別人のようだった。


 ---


 その日から、ロイドは、蒼太の「手伝い」として働き始めた。


 ギルドの一角を借りて、蒼太に会いたい人たちの話を、あらかじめ整理してもらう。


 来た人の悩みや状況を聞き取り、優先度を判断し、簡単な案件なら、蒼太に取り次ぐ前にある程度の道筋をつけておく。


「鈴木さん、次の方です。討伐依頼で成果が出せず悩んでいる方だそうですが、話を聞いた限り、装備の重量が体格に合っていない可能性が高いです」


「え、それ、鑑定しなくても分かるんですか」


「話を聞いていると、なんとなく」


 ロイドは、涼しい顔で答えた。


「実家で、いろんなお客さんの相談を聞いてきたので、話の流れで、だいたいの当たりはつくんです」


「それ、すごい才能ですよ」


 蒼太は、素直に感心した。


 ロイドが事前に情報を整理してくれるおかげで、蒼太は鑑定に集中できるようになり、一人あたりにかかる時間が、大幅に短縮された。


 さらに、ロイドは、蒼太が気づいていなかった部分にも、目を配ってくれるようになった。


「鈴木さん、今日いらした方々の傾向、まとめてみたんですけど」


 ある日、ロイドが、そう言って、羊皮紙を差し出してきた。


「傾向、ですか」


「はい。最近は、討伐系の依頼で伸び悩んでる方が多いんですけど、その大半が、装備選びを間違えてるか、パーティー内の役割分担がうまくいってないパターンでした」


「それ、面白い分析ですね」


 蒼太は、感心しながら羊皮紙に目を通した。


「これがあると、鑑定する前から、だいたいどのあたりに問題がありそうか、予測がつきますね」


「少しでも、お役に立てればと」


 ロイドは、少し照れくさそうに笑った。


 蒼太は、その様子を見ながら、改めて実感していた。


 自分一人では、絶対に気づけなかった視点だ。


 人を頼るということは、単に作業を分担するだけじゃなくて、自分にはない視点まで、手に入れることでもあるらしい。


 ---


 一週間後。


 蒼太は、ギルドの隅で、その日の相談者リストを眺めながら、しみじみと呟いた。


「これ、本当に楽になったな」


 以前は、一人ひとりの話を、最初から最後まで自分で聞いていた。


 今は、ロイドがあらかじめ整理してくれた情報をもとに、鑑定と提案に集中できる。


「自分でやるより、任せた方が、こんなに楽になるとは思わなかった」


 蒼太は、そう独り言をこぼした。


 その言葉に、自分でも、少し驚いていた。


 戦って強くなるでもなく、知識をひたすら溜め込むでもなく、こうして人に任せることで、物事が楽になっていく。


 その感覚は、これまでとは、また違う種類の面白さがあった。


「鈴木さん、今日の分、終わりました」


 ロイドが、束ねた羊皮紙を手に、声をかけてきた。


「今日は、七人でしたね。先週の同じ日と比べると、一人あたりの時間、半分近くになってます」


「そんなに変わったんですか」


「はい。俺が事前に話を整理する分、鈴木さんが鑑定に使う時間が、純粋に短くなってるので」


 ロイドは、数字を並べた羊皮紙を、誇らしげに見せてきた。


 几帳面な文字で、日付ごとの対応人数と、かかった時間がまとめられている。


「これ、記録までつけてくれてたんですか」


「なんとなく、癖でつけちゃうんです。実家にいた頃も、こういう記録、よくつけてたので」


「めちゃくちゃ助かります」


 蒼太は、心からそう思った。


 自分では、絶対にここまで細かく管理できなかった。


 ---


 その夜、宿の食堂で、蒼太は久しぶりに、余裕のある表情で夕食をとっていた。


「顔色、だいぶ良くなったな」


 健太が、安心したように言った。


「ロイドさん、雇ってから、だいぶ違う?」


「全然違う。あの人、本当に優秀で」


 蒼太は、素直にそう答えた。


「話の整理はもちろん、この人にはこの依頼が合うんじゃないか、みたいな判断まで、結構的確にしてくれるんだ」


「それ、蒼太の適性鑑定と、また違う視点だよな」


 隼人が、興味深そうに言った。


「うん。俺は数値とか適性を見るのが得意で、ロイドさんは、人の話を聞いて、状況を整理するのが得意。組み合わせると、なんか、想像以上に上手く回る」


 蒼太は、そう言いながら、なんとなく、頭の中で何かが繋がっていくのを感じていた。


 自分一人の力には、限界がある。


 けれど、それぞれ得意なことを持つ人間が集まれば、一人ではできないことが、できるようになる。


「そういえば、ロイドさんの給料って、蒼太の稼ぎから出してるんだよな」


 健太が、ふと気になったように聞いた。


「うん、そうだけど」


「大丈夫なのか、それ。ちゃんと元は取れてるのか」


「それがさ」


 蒼太は、少し笑いながら答えた。


「今、ギルドから、一人鑑定するごとに銅貨五十枚もらえてるんだ。それに加えて、紹介がうまくいくと、成功報酬も別で入ってくる」


「ギルドから、正式に金もらってたのか」


「うん、行列ができた日に、さすがにこれはタダじゃ厳しいって、ちゃんと交渉した」


 蒼太は、そう言って笑った。


「ロイドさんが手伝ってくれるようになってから、俺が一日にこなせる相談の数、倍近くに増えたんだ。単純に、鑑定料が入る人数も増えたし、成功報酬も積み重なってきてる」


「じゃあ、むしろ、雇う前より稼いでるってことか」


「うん、たぶん」


 蒼太は、頭の中で、ざっくりとした収支を思い浮かべた。


 ロイドへの給金を差し引いても、以前より確実に手元に残る額は増えている。


「人を雇うって、金が出ていくだけかと思ってたけど、案外そうでもないんだな」


 健太が、感心したように言った。


「うまく回れば、っていう条件つきだけどな」


 蒼太は、そう付け加えながらも、この一週間の手応えに、確かな実感を持ち始めていた。


「これ、もしかして」


 蒼太は、ふと、以前隼人が言っていたことを思い出した。


 これ、仕事にできるんじゃないか、という言葉。


「もう少し、ちゃんとした形にしてみるのも、ありかもしれないな」


 蒼太が、ぽつりと呟くと、健太たちが、揃ってこちらを見た。


「ちゃんとした形、って?」


 美穂が、興味深そうに尋ねる。


「いや、まだ漠然としてるんだけど」


 蒼太は、少し照れくさそうに続けた。


「適性を見て、合う仕事を紹介する。それを、俺とロイドさんだけじゃなくて、もっとちゃんとした仕組みにできたら、面白いんじゃないかって」


「それ、要するに」


 隼人が、にやりと笑った。


「会社作ろうって話じゃないですか」


「まあ、そこまで大げさに考えてるわけじゃ、ないんだけどな」


 蒼太は、そう言いながらも、なんとなく、その響きが悪くないと感じている自分がいた。


「でも、考えてみれば」


 美穂が、興味深そうに続けた。


「もう、蒼太くんとロイドさんの二人だけで、実質、そういう仕組みになってますよね。適性を見る人と、それを整理して繋げる人」


「言われてみれば、そうか……」


 蒼太は、改めて、今の状況を見つめ直した。


 鑑定士としての自分。


 調整役としてのロイド。


 そこに、健太の力仕事、隼人の計算、美穂の調薬知識が、それぞれ違う形で絡んでいる。


「これ、もう、ほとんど会社みたいなもんじゃないか」


 健太が、笑いながら言った。


「名前とか、決まってないだけで」


「名前かあ……」


 蒼太は、なんとなく、その言葉が引っかかった。


 自分たちがやっていることに、名前をつける。


 それだけで、なんだか、急に現実味を帯びてくる気がした。


「まあ、今すぐ決めなくてもいいと思うけどな」


 隼人が、あっさりと言った。


「でも、いつかは、ちゃんと形にした方がいいかもですね」


「そうだな」


 蒼太は、そう頷きながら、少し先の未来を、ぼんやりと思い描いてみた。


 まだ、はっきりとした形は見えない。


 けれど、確実に、何かが少しずつ、大きくなり始めていた。


「面白そうだし、明日、ちょっとロイドさんとも相談してみるか」


 蒼太は、そうつぶやいて、食事を再開した。


 異世界での日々は、少しずつ、思いもよらない大きさへと膨らみ始めていた。


 ――第10話へ続く。


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