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全知の鑑定士、異世界で才能を仕事に変える  作者: 御影のたぬき


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第13話「紹介した先が、なくなった」

「鈴木さん、今日、新しい相談の方がいらしてます」


 朝、ロイドが、予定表を片手に声をかけてきた。


「エドさんという方です。今、無職で困ってらっしゃるみたいで」


「分かりました。会ってみます」


 蒼太は、そう答えながら、書類の束に目を通した。


 このところ、事業所には、毎日のように、新しい相談が舞い込むようになっていた。


 適性相談。


 人材紹介の面談。


 そして、先日から増え始めた、契約書の確認依頼。


「これ、正直、嬉しい悲鳴ですね」


 ロイドが、少し楽しそうに言った。


「はい、本当に」


 蒼太は、そう答えながら、応接スペースへ向かった。


 応接スペースに現れたのは、二十代半ばくらいの、真面目そうな青年だった。


「エドといいます。よろしくお願いします」


「鈴木蒼太です。今の状況、聞かせてもらえますか」


「実家の農家を継ぐつもりだったんですけど、体質的に、畑仕事がどうしても合わなくて。かといって、他に何ができるのか、自分でも分からなくて」


 エドは、少し力のない声で言った。


「見せてもらいますね」


 蒼太は、エドに手をかざした。


「知識鑑定」


 ---


 情報が、頭の中に流れ込んでくる。


 数字を扱う能力。


 在庫や物の数量を、直感的に把握する感覚。


 几帳面で、地道な作業を苦にしない性格。


 さらに、細かい数字の誤差や、帳簿上のわずかな矛盾にも、無意識に気づく傾向があることまで、はっきりと見えた。


 まるで、エド自身の頭の中に、精密な計算機が一台、埋め込まれているかのようだった。


「エドさん、もしかして、物の数を数えたり、管理したりするの、得意じゃないですか」


「え、はい。小さい頃から、家の在庫とか、勝手に数えて記録するのが好きで。でも、それが仕事になるなんて、思ったこともなくて」


「それ、立派な才能ですよ」


 蒼太は、はっきりとそう言った。


「在庫管理とか、帳簿の記帳とか、そういう仕事に、かなり向いてると思います。ちょうど、いい紹介先があるので、繋いでみましょうか」


「本当ですか! お願いします」


 エドの顔に、初めて明るさが戻った。


 ---


 数日後、エドは、街の中規模な織物商会に、在庫管理担当として紹介された。


 商会の主人も、エドの几帳面な仕事ぶりを、すぐに気に入ったようだった。


「あの子、本当に助かってるよ。今まで、在庫の数が合わないことが、よくあったんだが、あの子が来てから、ぴたりと一致するようになった」


 商会を訪れた際、主人からそう聞いた蒼太は、素直に嬉しくなった。


「これも、無事、成功例が一つ増えましたね」


 ロイドが、報告書に丸をつけながら言った。


「エドさんの適性、かなりはまってましたね」


 蒼太は、そう答えながら、この一ヶ月で、こういう瞬間に何度も立ち会えたことを、改めて実感していた。


 薬草採取のナナ。


 鍛冶弟子のトール。


 どちらも、自分では気づいていなかった才能が、ちゃんと居場所を見つけて、長く根付き始めている。


「エドさんも、この調子でいけば、同じように長く続けられそうですね」


 ロイドが、そう付け加えた。


「そうだといいけどな」


 蒼太は、まだ始まったばかりのエドの仕事ぶりを思い浮かべながら、そう答えた。


 まだ紹介してから、数日しか経っていない。


 これからも順調にいくかどうかは、正直、蒼太にもまだ分からなかった。


 ---


 けれど、その安心感は、それほど長くは続かなかった。


 数週間後のある朝、事業所の扉が、勢いよく開いた。


「鈴木さん!」


 飛び込んできたのは、エドだった。


 その顔は、真っ青だった。


「エドさん、どうしたんですか」


「商会が……織物商会が、潰れました」


 エドの声は、震えていた。


「今朝、急に。仕入れ先への支払いが滞ってたらしくて。主人が、もう店を畳むって……」


 蒼太は、一瞬、言葉を失った。


「そんな、急に……」


 蒼太は、思わず、契約書の鑑定で培った感覚を頼りに、頭の中で商会の状況を辿ろうとした。


「知識鑑定」


 小さくつぶやくと、頭の中に、街の商業事情に関する情報が流れ込んできた。


 最近、複数の織物商会が、隣国からの安価な輸入品に押されて、経営が苦しくなっていること。


 エドの働いていた商会も、その煽りを受けていたらしいこと。


「これ、エドさんのせいじゃない。市場全体の流れに、巻き込まれただけだ」


 蒼太は、そう確信した。


 けれど、それを知ったところで、目の前の現実は、何も変わらない。


「俺だけじゃないです。あそこで働いてた人、みんな、今日から無職です」


 エドは、俯きながら、絞り出すように言った。


「せっかく、鈴木さんに紹介してもらった仕事だったのに。俺、また、何もできない人間に戻っちゃいました」


 ---


「エドさん、それは違います」


 蒼太は、はっきりとそう言った。


「エドさんの仕事ぶりが悪かったわけじゃないです。主人からも、すごく感謝されてたじゃないですか」


「でも……」


「商会が潰れたのは、エドさんのせいじゃない。それとこれとは、別の話です」


 蒼太は、そう言いながら、内心で、強い引っかかりを感じていた。


 数週間前、美穂との会話でよぎった、あの小さな不安。


 それが、こんなにも早く、現実になってしまった。


「エドさん、少し待っててもらえますか。ちょっと、みんなと話したいことがあるので」


 蒼太は、そう言って、エドを応接スペースの椅子に座らせた。


 ---


「これ、正直、想定してなかったわけじゃないんですよね」


 二階に集まった健太たちに、蒼太は、事情を説明した。


「前に、美穂と話してて、ふと頭をよぎったことがあったんです。紹介先が潰れたら、どうなるんだろうって」


「それが、こんなに早く来るとはな……」


 健太が、腕を組みながら唸った。


「今のうちの仕組みだと、紹介した後は、基本的に紹介先の責任範囲になります」


 隼人が、冷静な声で言った。


「だから、契約上、俺たちがエドさんの生活を保障する義務はないんです」


「義務はない、けど」


 蒼太は、隼人の言葉を遮るように言った。


「それで、いいのか?」


 沈黙が、しばらく続いた。


「いや、良くないですよね」


 隼人が、最初に口を開いた。


「俺も、そう思ってました。ただ、今の仕組みのままだと、どうにもできないのも事実で」


「だから、仕組みを変えるんだよ」


 蒼太は、そう言って、みんなの顔を、一人ずつ見回した。


 ---


「俺、ずっと考えてたんです」


 蒼太は、みんなの顔を見回しながら、続けた。


「紹介するだけだと、紹介先が潰れたときに、その人を守れない。エドさんが、まさにそうだった。ミナさんも、ナナさんも、トールくんも、今のところうまくいってる。でも、それは、たまたま紹介先が今のところ大丈夫だから、なんですよね」


「確かに……」


 美穂が、静かに頷いた。


「じゃあ、蒼太は、どうしたいんだ」


 健太が、真っ直ぐに聞いてきた。


「ワールドインセンスが、直接、エドさんを雇う」


 蒼太は、はっきりとそう言った。


「その上で、必要としてる場所に、うちの社員として、派遣する。給料は、うちが保証する。派遣先での働きに応じて、そこに歩合をつける」


「それ、今までの人材紹介とは、根本的に違う仕組みですよね」


 隼人が、少し身を乗り出した。


「うん。紹介先が潰れても、エドさんの雇用自体は、うちに残る。だから、次の場所に、すぐ移れる」


 蒼太は、頭の中で、すでにある程度、仕組みを組み立て始めていた。


 ---


「面白い。やってみるべきだと思う」


 隼人が、真剣な顔で言った。


「ただ、これ、今までの人材紹介より、うちのリスクは大きくなります。エドさんの給料を、うちが先に保証するわけですから」


「そこは、覚悟の上だ」


 蒼太は、頷いた。


「ただ、根拠のない覚悟じゃないぞ」


「根拠、ですか」


「エドさんの適性は、鑑定で見た。数字を扱う能力も、几帳面さも、本物だ。あの商会が潰れたのは、市場の流れに巻き込まれただけで、エドさん自身の力とは関係ない」


 蒼太は、淡々と続けた。


「だから、次の場所さえ見つかれば、絶対にちゃんと働ける。それが分かってるから、給料を先に保証しても、そんなに無茶な賭けじゃないと思ってる」


「なるほど……」


 隼人が、少し感心したように言った。


「ただ優しいから雇うんじゃなくて、鑑定で裏付けが取れてるから、リスクを取れる、ってことですね」


「まあ、そういうことだな」


 蒼太は、頷いた。


 情に流されているだけなら、この事業はいずれ立ち行かなくなる。


 けれど、鑑定という確かな裏付けがあるなら、話は別だ。


「収支は、大丈夫そうか?」


「今の稼ぎなら、一人分の固定給を保証するくらいは、十分できます。むしろ、派遣先からの継続的な派遣料が入ってくる分、長い目で見れば、紹介より収益性は高いかもしれません」


 隼人は、頭の中で素早く収支を組み立てながら、そう答えた。


「ただ、二人目、三人目と増えていくと、話は変わってきます。固定給の保証は、うちにとって、いわば先行投資みたいなものなので。派遣先が決まらない期間が長引けば、その分、うちの持ち出しが増えます」


「そこは、慎重にやっていくしかないな」


 蒼太も、素直に頷いた。


「今回は、たまたま金物商会が、うまく見つかった。けど、毎回こんなに都合よく、次の場所が見つかるとは限らないよな」


「そうですね……」


 隼人が、少し表情を曇らせた。


「今は、俺の知り合いの範囲とか、噂とか、そういう狭い伝手で探してるだけです。この先、雇用する人数が増えたら、もっと広い範囲で、効率よく探す方法を考えないといけないかもしれません」


「まあ、それも、そのとき考えよう」


 蒼太は、そう言いながらも、頭の片隅で、小さな引っかかりを覚えていた。


 もっと広い範囲を、一気に見渡せたら。


 その考えは、まだ、ぼんやりとした形にしかなっていなかった。


「無理のない範囲で、少しずつ広げていこう」


「ただし」


 隼人は、続けて釘を刺すように言った。


「人材紹介の事業自体は、続けた方がいいと思います。全部を派遣に切り替える必要はない。紹介先が安定してる場合は、これまで通り紹介の方が、本人にとってもいいケースもあるはずなので」


「それは、そうだな」


 蒼太も、素直に同意した。


「ケースバイケースで、紹介と派遣、両方使い分けていこう」


「賛成です」


 美穂が、笑顔で頷いた。


「派遣先で頑張った分、給料が増える仕組みなら、モチベーションにも繋がりそうですし」


「健太は、どう思う?」


「俺は、蒼太が決めたことなら、賛成だよ」


 健太が、あっさりと言った。


「ただ、これ、うちの規模、また一段階、大きくなるってことだよな」


「まあ、そうなるかもな」


 蒼太は、そう答えながら、小さく笑った。


 不安がないと言えば、嘘になる。


 けれど、それ以上に、目の前で困っている人を、放っておけない気持ちの方が強かった。


 ---


 一階に戻った蒼太は、エドに、新しい仕組みについて説明した。


「ワールドインセンスが、エドさんを、正式に雇用します。給料は、うちが月額で保証します」


「え……」


 エドが、驚いた顔で顔を上げた。


「そのうえで、必要としてる場所に、エドさんを派遣します。派遣先での働きが認められれば、そこに歩合がついて、給料が上乗せされます」


「俺、また働けるんですか」


「はい。それに、今度は、派遣先が万が一潰れても、エドさんの雇用自体は、うちに残ります。次の場所を、すぐに探しますから」


 蒼太は、そう言いながら、エドの目を、まっすぐに見た。


「もう、一人にはしません」


 エドの目に、みるみる涙が浮かんだ。


「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます」


 エドは、深々と頭を下げた。


 肩を震わせながら、何度も何度も、頭を下げ続けた。


 その姿を見ながら、蒼太は、静かな決意を、胸の奥で固めていた。


 ---


 数日後、商業ギルドで、正式な手続きが行われた。


「事業内容の追加、ですね」


 窓口の職員が、丁寧に書類を確認しながら言った。


「人材紹介業に加えて、人材派遣業も、今後展開していく、ということでよろしいですか」


「はい、お願いします」


「派遣業の場合、いくつか追加の届け出が必要になります。雇用する社員の人数、給与形態、労働時間の管理方法などです」


 職員は、書類を並べながら、説明を続けた。


「あと、派遣先企業との契約についても、雛形をご用意しています。よろしければ、参考にしてください」


「ありがとうございます、助かります」


 蒼太は、渡された雛形に、ざっと目を通した。


 派遣料の算定方法や、事故があった場合の責任の所在など、細かい項目が並んでいる。


「これ、思ったより、しっかりした制度なんですね」


「この国でも、人材派遣という業態自体は、まだそれほど多くありませんが、皆無というわけではないので」


 職員は、少し微笑みながら答えた。


「では、こちらに署名を」


 蒼太は、書類にペンを走らせながら、少し感慨深い気持ちになっていた。


 事業を立ち上げてから、まだ一ヶ月とちょっと。


 なのに、もう次の段階に進んでいる。


「派遣業は、雇用主としての責任が発生しますので、労働環境の整備なども、これまで以上に、しっかりしていただく必要があります」


 職員が、念を押すように言った。


「分かってます。エドさんのこと、絶対に、ちゃんと守ります」


 蒼太は、はっきりと、そう答えた。


 ---


 エドは、その後、別の商会――今度は、少し規模の大きい、金物を扱う店に、ワールドインセンス所属の派遣社員として、送り出されることになった。


 金物商会の主人は、最初、少し戸惑った様子だった。


「派遣、というのは、初めて聞く仕組みだが。エド君が仕事しなかったら、うちが損するだけなんじゃないかね」


「そのあたりは、ご安心ください」


 蒼太は、丁寧に説明した。


「派遣料は、成果に応じて調整させていただきます。それに、エドさんの適性は、俺が直接鑑定して確認済みです。数字を扱う仕事なら、間違いなく力を発揮できると思います」


「ほう、じゃあ信じてみるか」


 金物商会の主人は、少し面白そうに笑った。


「ワールドインセンスの評判は、こっちにも届いてるからな。契約書の罠まで見抜いたって話も聞いてる」


「ありがとうございます」


 蒼太は、頭を下げた。


「ただ、この派遣という仕組み自体、うちも始めたばかりでして。もし本当に合わないということであれば、そのときは、精一杯、次の対応を考えさせてください」


 蒼太は、正直にそう伝えた。


 今すぐ代わりの人材を用意できる、と安請け合いするほど、今のワールドインセンスには余裕がない。


 それでも、できる限りのことはする。


 その姿勢だけは、はっきり示しておきたかった。


「なるほどな。まあ、悪い話ではなさそうだ」


 主人は、少し考えてから、頷いた。


「基本給は、銀貨十二枚。派遣先での成果に応じて、歩合がつきます」


 隼人が、まとめた契約内容を、エドに説明した。


「基本給だけ見ると、以前と大きく変わらない金額です。正直、うちもまだ始めたばかりの仕組みなので、無理はできません」


「それでも、今回は、これが最低限、保証される金額になります」


 蒼太が、そう付け加えた。


「たとえ派遣先が合わなくても、次が決まるまでの間、この金額は途切れません。歩合は、その上乗せです」


「それだけでも、十分です」


 エドは、静かに、けれど、はっきりとそう言った。


「前は、明日の仕事があるかどうかすら、分からなかったので」


「頑張ります。今度こそ、絶対に」


 エドは、拳を握りしめながら、そう言った。


 その顔つきには、初めて会ったときにはなかった、確かな強さが宿っていた。


 蒼太は、その様子を見ながら、静かに頷いた。


 今度こそ、この会社が、エドの居場所を守り続ける。


 そう心に誓いながら。


 ---


 その夜、事業所の二階で、蒼太たちは、今日一日を振り返っていた。


「これで、うちの事業、二本柱になったな」


 健太が、しみじみと言った。


「人材紹介と、人材派遣、か」


「どっちも、ちゃんと需要があると思います」


 隼人が、帳簿を見ながら言った。


「安定した紹介先には紹介、不安定な状況やリスクがある場合には派遣。使い分けていけば、対応できる幅が、どんどん広がっていくはずです」


「これ、たぶん、うちの事業の中でも、かなり大事な転換点だったんじゃないかと思います」


 ロイドが、静かにそう付け加えた。


「人を紹介するだけの会社から、人を雇って守る会社になった。その違いは、たぶん、これから先、ずっと効いてくると思います」


「エドさんの件、正直、辛い出来事だったけど」


 美穂が、少し考えるように言った。


「これがあったから、次の仕組みができた、ってことですよね」


「まあ、そうなるのかな」


 蒼太は、頷きながら、今日の出来事を振り返った。


 紹介するだけでは、守れないものがあった。


 けれど、そこで立ち止まらずに、次の形を作ることができた。


「知識鑑定で、人の才能は見抜ける。でも、それだけじゃ、その人の生活まで守れるわけじゃない」


 蒼太は、ぽつりとつぶやいた。


「才能を見つけるだけじゃなくて、それを、ちゃんと守れる仕組みまで作る。それが、俺たちの仕事なんだろうな」


「なんか、蒼太、今日は妙に真面目だな」


 健太が、からかうように言った。


「たまにはな」


 蒼太は、苦笑しながら答えた。


 けれど、その言葉には、確かな実感がこもっていた。


 王城で「必要ない」と切り捨てられたときには、想像もしていなかった責任の重さが、今、確かに自分の肩にのしかかっている。


 それでも、不思議と、嫌な重さではなかった。


 ---


「そういえば」


 隼人が、ふと思い出したように言った。


「人材派遣が始まったってことは、これから、うちで正式に雇用する人、どんどん増えていきますよね」


「そうなるだろうな」


「そうなると、給与計算とか、労務管理とか、俺一人だと、そのうち回らなくなりそうです」


 隼人が、少し困ったように言った。


「また誰か雇うか」


 蒼太が言うと、隼人は、あっさりと頷いた。


「そうですね。でも、それも、悪い話じゃないです」


 隼人は、意外にも前向きな様子で言った。


「うちの規模が大きくなるってことは、それだけ、多くの人を助けられるってことですから」


「人が増えるたびに、この事業所も、少しずつ狭くなっていく気がするな」


 健太が、部屋を見回しながら言った。


「まあ、それも、そのとき考えよう」


 蒼太は、そう言って、笑った。


 事業を始めてから、何度も繰り返してきた言葉だった。


 けれど、その度に、なんとかなってきた。


「明日から、また忙しくなりそうだな」


 蒼太は、そうつぶやきながら、窓の外に目をやった。


 夜の街には、今日も、いくつもの明かりが灯っている。


 その一つ一つの下に、それぞれの生活がある。


 その中の、少しでも多くを、自分たちの手で守っていけたら。


 そんなことを思いながら、蒼太は、静かに目を閉じた。


 異世界での日々は、また一つ、新しい形を手に入れていた。


 ――第14話へ続く。

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