思い出のグローブ
高校野球の地方予選だ。
試合は最終回に入っている。あとアウトを三つとればいい、という状況だ。
最後の守備につくため、選手たちがベンチから飛び出してくる。
定位置につくと、外野手の一人がスタンドに向かって、野球のグローブを掲げた。
前の回までは「茶色いグローブ」だったのに、今は「黒いグローブ」だ。「茶色いグローブ」とくらべて、いくらか小さい。
その選手は心の中でつぶやく。
(おじいちゃん、この「グローブ」だよ)
自分にとって、野球の原体験は、祖父とのキャッチボールだった。
そして、小学生の時も中学生の時も、祖父はよく試合を見に来てくれた。
この試合も、外野スタンドから見ている。今日は祖母も一緒だ。
祖母には先に話してある。
この「黒いグローブ」が何なのか。
何からつくられた「グローブ」なのか。
祖母が今、祖父に教えているに違いない。
――あれはね、「ランドセル」からつくった「グローブ」ですよ。
小学校に入学する前に、祖父と祖母が買ってくれた「黒いランドセル」だ。それが現在、こうして野球の「グローブ」に生まれ変わっている。
半年ほど前に、ある会社のことを知った。
その会社では、「ランドセル」を「色々なもの」につくり変えてくれるらしい。たとえば、ペンケースとか、財布とか、フォトフレームとか。
それで閃いた。
――そうだ。「グローブ」をつくろう。
すぐに押入れの奥から、「黒いランドセル」を引っ張り出してきた。
それをつくり変えたのが、この「黒いグローブ」だ。
試合が進んでいく。あっさりツーアウトだ。
そして、最後の打球がこっちに飛んでくる。
それを「黒いグローブ」で捕球した。手のひらに、たしかな感触がある。
試合終了だ。この試合に勝利した。
月日が流れる。
プロ野球の試合が最終回を迎えた。選手たちがベンチから飛び出してくる。
その中に新人の選手がいた。今日はプロ野球選手になって初めて、スタメンに抜擢されたのだ。あとアウトを三つとればいい。それで試合終了だ。
新人の選手はこの回から、これまでの「茶色いグローブ」ではなく、「黒いグローブ」をはめている。
(おじいちゃん、あの「グローブ」だよ)
外野の守備につくと、スタンドに向かって、「黒いグローブ」を掲げた。
思い出は続いていく。
次回は「父の日」のお話です。




