ちょっと二軍にいただけなのに
(ああ、何てことだ)
今はプロ野球の試合前。各選手が試合に向けて、準備をする時間帯だ。
俺は外野スタンドを眺めていた。
いつも決まった席から、俺を応援してくれるお客さんがいるのだ。俺の名前が入ったタオルを、今日も両手で掲げているはず。
そのお客さんを見つけるのは簡単だった。
今日もいつもの席で、タオルを掲げている。
しかし、そのタオルにある名前は、俺じゃなかった。別の選手の名前だ。
若手で、クールで、イケメンの選手。
(ああ、何てことだ)
俺が二軍にいたのは、二週間くらい。打撃の調子が悪かったので、「二軍で調整してこい」と監督に言われたのだ。
そして今日、一軍に戻ってきたのに・・・・・・。
静かにため息をつく。二週間いなかっただけで、俺は大事なファンを一人失ったらしい。
残念ではあるものの、あのお客さんは見る目があると思う。
あのタオルにある名前、その若手選手は年齢の割に堅実なプレーをする。
俺が俺が、という感じではない。地道なプレーで、チームに貢献するのだ。
仲間として頼もしいし、今後の成長が楽しみに思う。
俺はその若手選手を探した。
ベンチの前で屈伸をしている。
「ちょっとつき合え」
そう言って、二人で外野の方へ歩いていく。
俺は若手選手と肩を組むと、あのお客さんに向かって、手を振った。
「おまえも手を振れ。おまえのことを応援してくれるお客さんだぞ。大切にしろよ」
若手選手が恥ずかしそうに、お客さんに手を振る。
すると、お客さんは大興奮だ。
(これでいい)
俺は思う。
(今まで応援してくれて、ありがとうございます)
だから、そのお礼のファンサービスだ。
(この若手選手は少し内気なところがあるけれど、すごくいい奴だから、いっぱい応援してやってください)
次回は『思い出のグローブ』というお話です。




